67 華燭の典
こうして僕とライレイの結婚式が盛大に執り行われることとなった。
式の本番までには、相応の期間が設けられることになった。
花嫁たるライレイが、自身を飾るウエディングドレスを、自分自身で縫い上げるための作成期間だった。
絹糸を織り合わせて生地を作る、そこから初める。
知識はあるものの実際に作業するのは初めてのメイデと一緒になって、試行錯誤。何度も失敗つつ、指を針で穴だらけにしつつ。
幾夜も重ね、何度かの僕とのセックスも挟んで、ようやく完成した彼女だけのハレの衣装は……。
* * *
「……美しい……!!」
結婚式当日、純白の衣装を着て僕の前に現れたライレイは、本当に美しかった。
何日も寝る間も惜しんで作られた婚礼衣装は、原料生産元のメイデがありったけの魔力を込めて生みだしたためか繊維一本一本が純白の光を放ち、旭日に照らされた朝靄のようだった。
ライレイ自身、オーク娘特有の浅黒い肌のためか白い衣装とのコントラストがより克明で、僕にとってはそれが実に美しかった。
野生の女神。
そんな呼び方が一番しっくりきそうなハレのライレイだった。
バージンロード(メイデ作)とやらを、左右に挟むオーク娘たちの人垣に祝福されながら、ライレイが僕の下まで渡ってきた。
「ゴロウジロー様……、どうでしょうか? おかしくはありませんか?」
「綺麗だ……! 凄く綺麗だ! ……いやもう、綺麗だ!」
バカみたいにその言葉しか思い浮かばない。
それぐらいに今日のライレイは、今日という日、場所、衣装、そして本人。様々なものが奇跡のように噛み合って神をも越える美しさだった。
結婚式場に指定されたオーク城前の広場では、既にオークの都の総人口に匹敵する二十八万人が無理から詰め掛け、僕とライレイの結婚を祝福していた。
もっとも大半が見知らぬ行事の珍しさに惹かれたようだが、純白の衣装に身を包むライレイの姿を一目見て、その美しさ輝かしさに魅了され、すっかり虜となっている。
「ライレイ様キレイ……! 綺麗だわライレイ様!」
「知ってる、ライレイ様は今日からゴロウジロー様と結婚して、王妃になられるのだそうよ!?」
「ケッコン!? オウヒ!? 何ソレよくわからないけどハイカラで素敵だわ!」
「リズ様やヨーテ様のお話では、私たちもゴロウジロー様と結婚できるんだって! 王のパートナーである王妃はライレイ様一人だけに絞るんだそうだけど……!」
「一夫多妻ね! 知ってるわ!!」
「私もゴロウジロー様とケッコンする! あとライレイ様ともケッコンする!!」
「同性同士じゃ結婚は無理なんだってー」
和やかでめでたい空気が流れる。
なお新郎として花嫁を迎える立場にある僕も、一応心ばかりのおめかしはしておいた。
といっても、元々は人間の王城だったオーク城の倉庫より引っ張り出してきた、比較的傷の少ない鎧を一生懸命磨いて着れるようにしただけなのだが。
それに、この日のためにちょっと遠出して狩ってきたドラゴンの真新しい革を組み合わせて、まあオーク王としての威厳は多少保てるかな。
「じゃあ、ライレイ」
「はい、ゴロウジロー様」
ちょっと我慢できないので本番前の軽い口づけを交わしてから、祭壇へと向かう。
今日のために設えられた祭壇には、神父役とかいうことでメイデがいた。
結局結婚式ってメイデの総プロデュースになってしまったな。
「おいメイデ、アタシの結婚式にもウエディングドレス作るからよろしく頼もー」
「無論ウチもウエディングドレス着る……。ライやんより豪華さ四割増しでヨロ……」
「えー?」
リズ、ヨーテのから絡まれていたメイデ。
目前に僕たちがやって来たのを察して二人を祭壇から蹴り落とす。
「あー、あー。……これよりオーク王ゴロウジローと、その王妃となられるライレイお姉様の結婚式を執り行います。一同、例。着席」
なんか違う気がする。
「それでは、オーク王、ゴロウジロー。アナタはライレイお姉様を妻とし、健やかなる時も病める時も、戦う時もエッチなことをする時も愛すると誓いますか?」
「ち、誓います」
この問答は先に打ち合わせたとおりであるが、なんか余計なものが混じっている気がした。
「次にライレイお姉様。ゴロウジローを夫とし、皆で仲良くエッチなことをされましょう!!」
誓いの言葉が打ち合わせの時と完全に外れた!?
おいそれはいくらなんでもはっちゃけすぎだろう!! と僕が抗議しようとしたところ……。
「誓います」
力強い声が、会場全体に響き渡った。
「ここにいる全員で、ゴロウジロー様にこれからも愛していただくことを誓います。……皆」
花嫁衣裳のライレイが、振り返り、そこに集うすべてのオーク娘たちに向かい合う。
全員を相手にして言う。
「私は今日、晴れてゴロウジロー様の妻になった。妻というのは、この男性に一生添い遂げていくと誓った女のことであるらしい。私は、この命が尽きるまでゴロウジロー様の隣にある。……しかしそれは、私がゴロウジロー様を独占するということではない」
ライレイの声が、自然と厳かさを帯びていく。
「私たちは全員、ゴロウジロー様のもの。そこに分け隔てはない。ゴロウジロー様は優しく、その愛はすべてを覆い尽くす。限りなどない」
「あのあの、ライレイ?」
少し話が大仰になってきたが、ライレイは止まらない。
「元より私たちはメス……、いいえ女となり、その最大の務めは次世代の子供を生み育てること。そして今オークの男はゴロウジロー様のみである以上、皆がゴロウジロー様とセックスして、子を宿さなければならない」
うんうん、と二十八万人分の首肯。
「私はそれを止めたりはしない。いやむしろ率先し、皆でゴロウジロー様の子を宿そう! そしてそこから始まるのだ! 繁栄のオーク時代が!!」
応えとして返ってきたのは、盛大な歓声だった。
そこに集う二十八万人全員が、ライレイの主張に同意したことを示していた。
結婚式は、いつの間にやらライレイの演説会場になり、しかもその演説は大成功を収めた。
これによってライレイは、名実ともにオークの王妃の座を確固たるものにしたの!だ!?
「さあ、ゴロウジロー様!」
ライレイが飛びつき気味に僕を抱きしめ、熱烈な口づけを交わす。
歓声がいっそう大きくなる。
「今日は私とゴロウジロー様との結婚式だけではなく、ゴロウジロー様とここにいるオーク娘全員との結婚式です!! さあ、皆にゴロウジロー様の精を分け与えてあげてください!!」
「物理的に無理ですが!?」
二十八万人って何度も繰り返し言ってるでしょう!?
「やってみなければわかりません!! さあ皆! これからは無礼講よ! オークらしく楽しく卑しく騒がしく!! 下品に生を楽しみましょう!!」
ライレイの宣言と共に、空に数えきれないほどの鳥が舞った。
と思ったら、それはオーク娘たちの脱ぎ捨てた衣服だった。
二十八万人の全裸の乙女が殺到し、僕に群がる。
その波に押し潰されて、僕は知的生物としての理性がこと切れるのを、瞬間的に感じた。




