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66 ブライダルプラン・衣

「それは置いておいて! もっと重大なことを思い出したわ!?」


 この恐ろしい状況を打開したかったのだろうメイデが、無理やり話題を変えた。


「ウエディングドレスよ!! ウエディングドレスこそが、結婚式にはもっとも重要だったわ!!」

「「「ウエディングドレス!?」」」


 そしてまたもや勢いよく食いつくオーク三人娘。

 そして『暴食』ミキは、食べ物の話題はもう終わったと悟り、どこぞへと去って行った。


「ウエディングドレスとは、結婚式の日のみ着ることを許されるという女の子の衣装! 純白の衣に包まれた花嫁は、一生のうちでもっとも美しいのだと聞くわ!」

「白!? また白なのか!? 結婚式って白好きだな!?」

「しかし、アタシらの女の部分がキュンキュンする話題であることは間違いないわ!」

「ウエディングドレス……! 是非とも袖を通してみたい……!」


 皆の興味が早くもウエディングドレスにもっていかれた。


「そうですねえ。オークは基本着るものには拘らないけど。メス化してから無性にかわいい服を色々着てみたくなってきました!」

「着飾るのいいわよね!! アタシってメスオークの中でも一番プロポーションの均整がいいから、何着ても似合いそうだわ!」


『傲慢』リズは、自身の罪に恥じないほど自信たっぷりに、両手を頭の後ろで組んで美ボディをアピールした。


「均整……。おっぱいが小さいことを言い換える言葉……!」

「うっさいわね、このロリヨーテ! アンタなんかおっぱいどころか全体が小さいじゃない!」

「だが、それがいい。ロリだからこそ小さいことが善になる……!」


 恒例の言い争いが始まった。

 リズもヨーテもとことん仲がいいなあ……。


「でも、ウエディングドレスとてもいいですけど。問題はどこから調達してくるかですよね?」


 ライレイも純白のウエディングドレスに乙女の憧れを全開にしていたが、同時に現実的な問題に頭を悩ませていた。

 ……たしかに食文化すら根付かなかったオークにとって、衣装の開発など夢のまた夢だろう。

 彼女が現在着ているのは、獣から剥ぎ取った毛皮や、滅びた人間などの残した防具類を適当に繋ぎ止めたもの。

 衣服などとはとても呼べない原始的なシロモノで、それゆえに繋ぎ止めた隙間からチラチラ色んなものが垣間見えちゃうんだよなあ……。


 そんな彼女たちが麻にしろウールにしろ木綿にしろ、まして絹など生産可能にするまで、いくつのブレイクスルーを経ればいいのか……。

 ……って、何故僕がそんなに多くの生地の種類を知っているかって?

 それは……。


「ふっふっふ、お困りのようねお姉様」


 メイデが、また得意げな表情で身を乗り出した。


「心配御無用! お望みとあればライレイお姉様のウエディングドレス! このメイデ様が作成して御覧にいれるわ!!」

「「「なんだってぇーッ!?」」」


 メイデの提案に大袈裟に驚くオーク三人娘。


「私が何者なのかお忘れじゃありませんこと!? ヴァルキリーよ、この私は! ただ戦うだけでなく、強い男を籠絡するために、様々ないい女のテクニックを火のプラントでインストール済みなのよ!!」


 やっぱり微妙に目的を見失ってる感があるよねヴァルキリーは。


「で、ではウェディングドレスの作り方も……!?」

「もちのロン! 家事裁縫は男を取り込むための必須スキルよ!」


 自慢げに言うメイデだが……。


「しかし、裁縫といっても材料となる生地と糸がないとどうにもならないよね? 布作りは、さすがに家事スキルの範囲外じゃ……!」


 機織りにも専用の道具とかいるし。


「ふふふゴロウジローは、とことんヴァルキリーのことを舐めてるわね。……まったく問題ないわ!」

「ええッ!?」

「何故なら、私たちヴァルキリーは魔法で絹糸を生み出せるから」


 えええぇぇぇぇーーーーーーーッ!?

 ……いや驚いてない。実は知っている。

 何故なら僕の母さんもヴァルキリーで、妹たちの下着を作るためによく魔法で絹を拵えていたから。

 やっぱりメイデもできるのか。

 ヴァルキリーとして母さんより下位っぽいから、出来ないかと思っていた。


「と、言うわけでこれから絹糸を拵えてきます! 部屋にこもるから絶対に覗かないでね! 絶対によ!!」

「「「「は、はあ……!」」」」

「もし覗いたらフレスベルグになって飛んでいっちゃうからね! 絶対に覗くななのよ!!」


 もうフリとしか思えない口ぶりで、メイデはオーク城の一室に閉じこもってしまった。

 固く閉ざされた扉を、僕たちは呆然と見詰めるのみだった。


「……ゴロウジロー様」

「ん?」


 しばらく言葉を失っていたが、やがて我が妻ライレイが僕に話しかけてくる。


「ゴロウジロー様のお母様も、たしかヴァルキリーなのでしたよね?」

「うん、まあ……」


 それも天界最強の『正義』を司るヴァルキリーだったとか。


「ではゴロウジロー様のお母様も、メイデが言う通り女の仕事を完璧にこなし、衣服も思いのままに作ったりしていたのでしょうか?」


 たしかに。

 母さんは、料理、被服どころか建築、農耕にまで広い知識を持っていて、それがあったからこそオヤジの馬鹿力も手伝って、たった二人だけで箱庭のような、あの家を築くことができた。

 思い出すなあ、魔法の力で桑の葉をムシャムシャ食って、絹糸を生み出していた母さん。


「…………!」


 ライレイは何故か、思い立ったように表情を引き結ぶ。

 そして「覗くな、覗くなよ!」と執拗に前フリされたメイデの引きこもる部屋のドアをバターンと開けた。


「ライレイお姉様!? 覗くなって言ったじゃないですか!?」

「何だお前おっぱい丸出しにして? それより頼みがあるんだ。ウエディングドレス作りを私にも手伝わせてくれ! ……いや、私が作る!!」

「えぇーーーーッッ!?」

「私がゴロウジロー様の妻となる以上、私もゴロウジロー様のお母様のように女の仕事が出来なくてはいけない! 自身のハレの衣装こそ、自分で作らなければ! 魔法の力で生糸作りは無理でも、そこから先は私が主体となって……!」

「わかりました! わかりましたから出してる途中の絹糸を引っ張らないで、乳首が取れちゃうから! 誰か助けて! 誰かァーーーッッ!?」


 僕は、扉の向こうに留まっていたので室内で何が起こっているか、声によって窺い知ることしかできなかった。

 しかしライレイが妻となる自覚を前向きにもっているということはわかった。

 頑張れライレイ。僕はキミのことを応援しているぞ。

 そしてメイデも耐えて。出来れば生き残って。


 そして、僕同様に外から見守るリズとヨーテも……。


「むむむ……! ライレイってば気合入りまくりね!」

「我々も負けてはいられない。ウチらも違う方向性で結婚式の準備する……」

「そう、さっき話あった方法で!」

「……ケーキを作ろう」


 やめて!

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