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65 ブライダルプラン・食

「……と! いうわけで!!」


 メイデのテンションが高い。

 ライレイ、リズ、ヨーテのオーク三人娘の前で、みずから教師然と講義を打つ。超得意げ。


「これより結婚式について一通り説明していきます! しっかり耳に入れて、それぞれ人生最高の挙式を執り行うべし!」

「「「おーおぉぉぉッッ!!」」」


 オーク娘たちも意外に真剣そのもので、今にもメイデのことを「先生!」と呼ばん勢いだ。

 その真剣さにちょっかい出したくなったので、三人の尻を順番に撫でてみた。


「ゴロウジロー様、今とても大事な話をしておりますので」

「エッチならあとでね」

「ダメとは言ってない。あくまであとで……」


 あれー?


「す、すみませんっ……!?」


 普段なら、こっちから色目を見せると喜び勇んで跨ろうとしてくるのに。

 それほどに、女の子にとって結婚式とは魔性の魅力を放つ概念なのか。


「ゴロウジロー!」


 メイデにまで怒られた。

 ハイハイ邪魔してスミマセンてば。


「なんで三人ともお尻触って私だけ何もしないのよ!? ストップ仲間外れ!」


 そっちですか。

 リクエストも入ったことで、ひとしきりメイデの尻を揉みくちゃにしたあと、満足して話は進む。


「では、結婚式はいくつかのパートに分かれるわ! 新郎新婦入場、キャンドルアップ、友人のご挨拶、ケーキ入刀、かくし芸披露、お色直し、新婦によるお父さんへの手紙の朗読! それら目白押しのイベントによって一部の隙もなく固められるのがザ・結婚式!!」

「なんかよくわからないけど素敵そう!!」


 なんかよくわからない段階で手放し賞賛しないでください。


「皆さんには、それら一つ一つをマスターしてもらい、各々の結婚式に活かしてもらいます!! 結婚式三十七房を制覇し、並ぶ者なき最強の結婚式使いとなるのよ!!」

「「「よっしゃーッ!!」」」


 早くも話がわけわからん方向に暴走し始めている。

 早目に止めなきゃと思うんだけど、尻を撫でてもまったく無反応なぐらい結婚式にのめり込んだ彼女らに、有効な手段はもはや、ない。


「では、結婚式の最高のハイライト、ケーキ入刀からね!」

「おお、最高の!?」

「一番重要なところから抑えるその姿勢、嫌いじゃないわ!!」

「して……、ケーキとは何ぞや?」


 オーク三人娘はケーキを知らなかった。

 当たり前か、元がオークだし。

 僕も知らないし。


「ケーキとは……! …………! ケーキとはぁぁ…………!?」


 メイデの口調が、急にたどたどしく。

 もしかしてコイツも知らんのか?


「私も実際に見たことがないんだけど、なんか白くてふわふわした甘い食べ物だそうよ」

「食べ物!!」

「うわッ! 何か出た!?」


 食べ物と聞いて『暴食』を司る『七凄悪』ミキ参上。

 本当に食べ物あるところどこにでも現れる巨女だ。


「なんか見たこともない食べ物があると聞いてやって来ましたハラショー」

「いや、実際にはその話をしてるだけでないけど……?」


 それにキミにとっては目に映るものすべてが食べ物だよね?


「ケーキなる、見知らぬ食べ物を摂取できるなら、ミーも結婚式したい。どうすればいいの……!?」

「はいはい、そりゃアンタだって『七凄悪』の一人なんだから、オーク王であるゴロウジローの子供を生むことは半ば義務というか……! とにかくケーキよ! ケーキをどう作ればいいのか!?」


 議題はそこに集中した。


「白くて、ふわふわした甘い食べ物なのですよね? つまり、白くてふわふわした食材を使えば……!?」

「そんな食材、ある……?」

「ありますとも! 私に一つ心当たりがあります!!」


 それは何かと尋ねたら……。


「脂肪!」


 ダメな予感がしてきた。


「たしかに! 殺したばかりの敵の腹を裂いて漏れ出る脂肪って、白いわよね!」

「ふわふわ……? ドロドロという感じかもしれないけど……?」

「ラード美味」


 皆が話に乗っかりだした。


「糸口が見えてきたわ! で、脂肪をどのように調理したらケーキになるのかしら!?」


 聞かれてメイデ先生、こめかみを抑えながら記憶を探る。


「えーと、泡が立つまで掻き混ぜて……?」

「「「「脂肪を!?」」」」


 彼女らの意識が完全に脂肪に集中した。

 もうケーキは脂肪で作るものだとオークの歴史には刻まれる。


「なるほど……、では、原料となる脂肪をどこから手に入れてくるか、というのが問題になりますね……!」

「そんなの簡単よ! 敵の天使の腹を裂いて掻き出せばいいじゃない!」

「今度の戦闘の時に一人二人。それ用に捕まえてくる」

「食べたい、超食べたい」


 女子トーク、料理編。


「待ってください! 腹を切って脂肪を抽出するとしても、白いことが最大のポイントである以上、赤い血やハラワタは一滴も混ぜちゃいけないってことですよね? 難しくないですか?」

「だからこそ祝賀の料理として価値が高いってことでしょう? それに、天使一人からとれる脂肪の量にしてもたかが知れてるわよ? アイツらプロポーションだけはいいし!」

「……ゴロやんと同じで、腹はへこんで腹筋バキバキってなってる。脂肪率低そう」

「美味そう、超美味そう」


 死亡率は大変高いですけどね天使。


「そうだ! いいことを閃きました!!」


 オーク王妃ライレイのお言葉。


「ただ捕まえて脂肪を掻き出すんじゃ非効率ですから、捕獲のあと、しばらく生かしておくんです! 運動できないように拘束して、その上でたくさんご飯を与えれば……!」

「ぶくぶく太って脂肪取り放題!? いいアイデアねライレイ!」

「手間がかかる分、高級料理としてのイメージも付く……!」

「皆のおっぱいより柔らかい……!?」


 ジャンジャン盛り上がるオーク娘たち。

 その脇で傍観するだけの僕と、その隣で恐怖からか歯をカチカチ鳴らすメイデがいた。


「あわわわわわわわわ…………!」


 まあ怖いよね、彼女も一応ついこの間まで捕虜の身分だったし。

 しかし女体化してもオークはオーク。

 可愛い顔して、なんと抱きしめたくなる恐ろしさよ。

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