64 プロポーズ
「「「「「結婚式!?」」」」」
異口同音にその言葉を復唱する。
結婚式。
なんだその甘美ながらも破滅的な危険さも漂わせる単語は!?
「フフフ……。知らない? 知らない? アナタたちそんなことも知らないのー?」
と半笑いで僕たちのことを見やるメイデ。
コイツすぐ調子に乗るな……。
「ウン、知らないからこの話は終了でいいよね。それでは、次の話……!」
「わー! ごめんなさい、ごめんなさい! ちょっと自慢してみたかったの、いい気になってみたかったの! この提案がとり上げられたら、さらに私の株も爆上がりすると思うので是非とも詳しい話を伺ってみてください!」
と縋りついてくるので、やむなく話を聞いてやる。
元から既にリズを抱きかかえているので、その上からメイデに抱きつかれると肉圧がさらに……!
「……これは、私が展開で生産された時にインストールされた情報によるものなんだけど。かつて地上に存在していたオーク以外の多くの種族は……! あ、今のシャレじゃないわよ? オークと多く、ってヤツ」
うるさい。
「人間やエルフ、ホビットと言った社会共存性をもった種族は、子孫を残すための雌雄つがいを夫婦と呼び、夫婦関係を結ぶ儀式を結婚と言った。でもただ関係を結ぶだけでなくて、それをお祝い事として盛り上げることを結婚式と呼んだのよ!」
「おお! なるほど!」
この話題やっぱり女の子たちの食いつきが強いなあ……。
「この結婚式は、夫婦の地位が高ければ高いほど盛大に行われるというわ! ゴロウジローとライレイお姉様! オーク王とオーク王妃の結婚ともなれば国を挙げてのお祭り騒ぎになるわよ!」
「いいわねいいわね! お祭り大好きよ!」
「最近やったお祭りは、天界軍を倒した祝勝祭。捕虜にした天使を生きたままキャンプファイヤー……」
今回そういう方向性はなしでね。
「あの……、ゴロウジロー様……!」
ライレイがモジモジしながら尋ねる。
「本当によいのでしょうか? 私などが、そのような大層な扱いを受けて……?」
「何を言うんだい、キミはもうオークの王妃なんだから、ドンとかまえていないと」
「その……、それなのですが、本当に私がオーク王妃でいいのでしょうか? 私のような、『七凄悪』でもない一オークが」
正気に戻ったライレイは、何処か頼りなげだった。
いきなり王妃と言われて先行きが不安であるとしても、ここまで儚げに見えるというのは……。
「あ」
……しまった。
大事なことを忘れていた。
気づいてみたらなんで、これを今まで放置していたのだろうかと自責する。
アホか僕は。
自分を叱責しつつ、僕はライレイの前に膝を折った。
「ご、ゴロウジロー様……!?」
「すまないライレイ。真っ先にキミに言うべきことを、この瞬間まで気づかないでいた」
跪いた体勢で、僕はライレイの手を取った。
「ライレイ。どうか僕の妻になってほしい。ただの妻ではない。王たる僕と力と義務を二分する、王の妃に……」
プロポーズ。
本当はこれを真っ先にするべきだった。
ライレイと超えた一線。そして新しいオークの国づくりなどに腐心するあまりに後回しにしていいことじゃなかった。
もしかしたら怒って、プロポーズを断られるかもしれないけれど、それでもやらずに済ませるわけにはいかない。
「キミは、我がクソオヤジが残した『憤怒』の軍を預かり、必死に孤軍奮闘してきた。僕に出会ってからは、常に僕に寄り添い縁の下から支えてくれた。そんな君だからこそこれからも僕の傍にいてほしい……!」
もう一度、懇願するように。
「僕の妻となってほしい」
「はい、私でよければ喜んで……!」
プロポーズは受諾された。
これで僕たちは晴れて夫婦となったのだった。
「おめでとー二人とも!!」
「……おめでとさん」
「仕方ないから祝ってあげるわよまったく!!」
周囲に居合わせたオーク娘+他一名も、惜しげなく祝福の拍手を送ってくれた。
「ねえねえ、ゴロウジロー! アタシにもプロポーズしてして!? ライレイなんかよりもずっと情熱的に快諾してみせるんだから!!」
「リズ様!? リズ様までゴロウジロー様の妻になる気ですか!?」
すかさず攻勢をかけてくるリズに、王妃早くも困惑。
「あったぼうよ! 二十八万もメスが余ってるってのに、なんでアンタ一人にゴロウジローを独占させるかってのよ!!」
「王妃の座は喜んでライやんにフォーユー。ウチらは普通の妻でいい。そしてゴロやんの子をポコポコ生む」
「早速今から子作りよ! ライレイとあんだけぐっちゃぐちゃにやったんだから、今さら戸惑うことなんかないでしょう!?」
「ウチもー」
と抱きついてくる二人!
しかし今はライレイへのプロポーズが決まった余韻がですね!?
「私は? 私はー?」
とメイデも擦り寄ってくる!?
オークの未来を考える限り、無論彼女らとも分け隔てなくセックスして子供を生んでもらわないといけないわけだが。
まあともかくも、彼女らが元気で開放的である限り、新しいオークの未来は明るいということだった。
僕は僕で、やることが多い。
ところで……。
「ん?」
気づいたら、当人が現れた時と同じように、レリスの姿がいつの間にかなくなっていた。
神出鬼没な彼女だ。今度は何を企んでいるのやら。