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「きてはぁッ!!」


 僕は目覚めた。

 気づいたら僕――、ゴロウジローはオーク城の頂上で座禅を組んでいた。

 オーク城といっても半分は僕自身の手で吹き飛ばしてしまったため、頂上とはに瓦礫だらけの元・謁見の間のことだった。

 視線の先には、山の切れ端からおずおずと覗く朝日が輝く。

 朝の冷たい空気が、容赦なく頬に叩きつけられた。やはり高所だけあって風が強い。


「ゴロウジロー様?」


 僕の顔を覗き込む、美しい女オーク。

 ライレイ。

 僕が故郷を離れて最初に出会った女性。かつてはもっと違う姿をしていた気もするが、どんな姿だったかはもう忘れてしまった。

 今目の前にいる彼女は、今さらながらに思うが、とても美しい。

 強靭で、それでいて柔らかくふくよかな肉付き。

 心なしか、僕がさっきまで謎の対話をしていたガイアに似ているような気がしていた。


「寝室を通りかかったら、いらっしゃらなかったので驚きました。皆を起こして捜索しようかとも思いましたが、大事になってはと一通り見回ってみてよかったです。ここで何を……?」

「ガイアとの会話を」

「?」


 そんなこと言ってもわかるわけねえよな。

 僕は代わりに、ライレイのことを抱き寄せて、唇を重ねた。


「ッ!?」


 直後には驚いて身を捩るライレイだったが、すぐさま抵抗をやめて僕に身を委ねてきた。

 ひとしきり彼女の口を貪ったあと、舌と舌を離す。


「受け入れるんだな」


 彼女が無抵抗であることに、そう指摘すると、ライレイは誇らしげに答えた。


「だって、私はそれを待ち望んでいましたから。ゴロウジロー様に奪っていただくこの時を。私は、私になった時からゴロウジロー様のものなのですから」

「それは違う。僕はこれからライレイに与えてもらう」


 結局男は、女からすべてを与えてもらわなければ、生きていくことのできない動物なのかもしれない。

 ライレイのそのふくよかな身を、床の上に横たえる。

 衣服はその途中ですべて脱がせ終えていた。

 透明な朝日の光が、ライレイの髪や裸体に反射してキラキラと光った。


「ん……」


 再び口づけした。

 何度しても足りなかった。

 一口食べただけでも満足するが、どれだけ満足しても満足したりない。それが貪られる女としてのライレイだった。

 ライレイはそのたび自分を与えてくれるが、与えれば与えるほどに豊かになっていく。

 犯されれば犯されるほど。

 増して肥え、肥沃に美しく、神聖になっていくライレイという女だった。


 そして始まった。


 僕はライレイという女を、ひたすらに犯し、侵略して、強奪していくが、しかし彼女の心も体もまったく貧しくはならない。むしろ富んでいく。

 僕はその魅力に誘われてますます彼女の深くにのめり込み続けるが、やがて僕は彼女から奪っているのではなく与えているのではないか? という錯覚に陥った。


 しかし奪うにしろ与えるにしろ、それが途轍もない快楽であるということには変わりなかった。


 ライレイに下品な体勢や表情をさせて、この上なく堕落させているというのに、その瞬間のライレイは間違いなく世界で一番神聖な女だった。


 卑と聖。

 世界でもっともかけ離れているようで、実は同じもの。

 その二つが互いの形をしっかりと保ちつつ、同時に混然一体となりながら、ライレイの体一つに収まっている。


 そんなライレイに、僕はこの上なく興奮して、体力の限界など忘れてひたすら彼女に腰を打ち続けた。

 彼女を支配しながら、僕は彼女に支配されていた。


「あっ、あっ……! す、好きですゴロウジロー様……! 愛しています、愛しています……!」

「僕も……、僕も好きだ……! ライレイ、僕の女……!!」

「そうですッ! ライレイはゴロージロー様の女です! もっと愛して! もっと与えてください……!」


 ライレイもわかっている。

 自分を僕に捧げると言いながら、今与えられているのは自分の方なのだと。

 しかしそれは僕も同じだった。

 僕は今、ライレイから心も体も奪いながら、ライレイに同じものを与えているのだ。

 すべてを奪い、すべてを与える。

 互いの持っているもの全部を与えあい、奪い合っているというのならば……。

 今僕たちは結局のところ、二人で一つになっているということじゃないか。


 男は陽。女は陰。

 この世界にあるすべては陰と陽の一対になっていて、その循環によって運行している。

 ガイアの言葉。


 今こそまさにその状態だった。


「ゴロウジロー様……! 好き! 好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きすきスきすキスキス……! キス……!」


 対極でありながら混然となって見分けのつかなくなった陰と陽の間に、新しい生は生まれる。

 僕はこの時、生命の最深部を垣間見たような気がした。

 しかし今そんなことはどうでもよく、ただひたすらにライレイとエロいことがしたかった。

 ライレイにエロいことをしたかった。

 ライレイをエロくしたかった。

 ライレイがエロくなっていく。

 ライレイにエロくされていく……。


「ゴロウジロー様……! 私のこと好きって言って! 愛してるって言って……! もっと凄い言葉で、私のことを愛してるって言って! 言って!」

「さっきから言ってるだろ何百回と……! 愛してるより凄い愛してるって何だよ……!?」

「わからないけど、何かあるから……! あの、あい……!」

「愛している!!」


 もはや言葉も鬱陶しくて、唇で唇を塞いだ。

 口なんか言葉を発する器官ではなく、キスをするための器官でさえあればいい。

 それ以上の機能なんていらないだろう?


 こうして僕たちが、もうわけもわからなくなっている間に山間から顔を出していた朝日は、あっという間に南天に上り、西の大地へ沈んでいった。


 そしてまた朝が来た。

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