60 ガイアとの会話
掲載再開となります。
本日は再開記念として一挙三話UPです。お楽しみにください。
ここから先は僕の夢です。
『ゴロウジロー……。ゴロウジローよ……。天と地の間に在る者ゴロウジローよ……』
なんだこの僕を呼ぶ声は?
連載再開して、さあこれから新章突入だぞ! という局面で何が起ころうとしているのか?
『ワタシはガイア。大地の意思……。大地の声……』
大地の意思?
『そうです……、このお話では既に神がラスボスとして設定されていますので。まあ代わりと言っては何ですが、世界を代表してお話しするモノは自然とか、ワイルドとか、そういうものがよいと考えたのです』
自然とワイルドって同じじゃない?
『ゆえにガイアです』
ガイアですか。
『ガイアとは大地の擬人化。自然の意思。昨今擬人化といえば逐一萌えと結び付けられる傾向がありますが、この場合純粋に自意識のないものにあえて自意識があるかのような振る舞いを許すという意味での擬人化です。けっして大地をイメージした萌えイラストが描き起こされるわけではありません。エッチなハプニングも発生したりはしませんのであしからず』
わかってるよそんなことは。
なんか今回メタっぷりが大全開だなあ。
はっちゃけすぎていませんか?
『いわばワタシは神に匹敵しながら、神でない巨大な存在。集合的無意識とか、十三次元の集合体とか、フォースの導きとか、そんな感じのヤツなのです』
そんな感じのヤツなのですか。
で、その御大層なガイアが、わざわざ一項割いて僕に何の御用なの?
『は、やっとここから本題ですが、強き者ゴロウジロー。アナタにお願いがあります』
はいはい?
『セックスしてください』
噴いた。
いきなり何を言い出すんだこの大地の意思は!?
『アナタが連載開始より続けてきた行為は、地上の陰陽のバランスを著しく崩しております。わかりますね? 陰とはメス、陽とはオスのことです。世界はすべからく陰と陽の対なるものがあり、その循環によって運行しているのです』
心当たりがありすぎてぐうの音も出ない。
『アナタが、同族のオスたちのキャン玉を潰し続けたその結果。オークの男女比は凄まじい偏りを見せ、もはや自然回復が不可能な段階にまで来ています。もはやこのままでは間違いなくオークという種は衰退し、滅びます』
ですよねー。
『しかし、いまだ種としてのオークは生き残る希望を残しています。メスの方はともかく、オスの方はたとえ一個体でも残っていれば遺伝子をバラ撒き、多くの子孫を残せる構造になっています。むしろ、その残った一個体が優秀になればなるほど、その遺伝子を受け継いだ世代は屈強となっていきます。本来、オスとは最強の一個体さえいれば、あとは全部死んでもいいのです』
いや、それただの優生学……!
安易な優生学は、すぐ選民思想と結びついちゃうし。なにより雌雄による有性生殖の有利さは、性能の先鋭化というより多様性を求めてのことでしょう?
所詮生物なんてどんなに強くなっても大自然の前では雑魚以下のそれ以下だし。
たとえば大きな環境変化などを乗り越えて生き残ろうとする場合、有性生殖によって多様な形質を持つ同種異形の個体が無秩序に生み出されれば、その中で一個体ぐらいは環境に適応して生き残れるよ? って話でしょう?
単純な筋力腕力なんか大自然の前では何の意味も持たないんです。
って僕、大自然の意思に対して何説いてるんだろ? 釈迦に説法か?
『まあ、それはそれとして』
それはそれですか。
『優生学が正しかろうが適者生存が正しかろうが、今、種としてのオークを襲う問題はそれらとは別個の問題です。言うなれば需要と供給の問題です』
需要する側が女で、供給する側が男ですか。
『オークの男女比が著しくバランスを欠き、生殖を提供できる雄性体がアナタしかいない以上、アナタは頑張って、次世代作りに頑張るべきです。でないとオークは滅びる。アンダスタン?』
いや、そりゃアイノウですけど……。
『ゴロウジロー、アナタは一つ、大きな勘違いをしておりませんか?』
え?
『セックスは汚い、と思っておりませんか?』
えー?
『アナタは生物として非常に愛情深い個体です。その愛情が深すぎるあまり、レイプなどを始めとする暴力行為に激しい怒りと憎しみを覚える。あまりの怒りの激しさゆえに、暴力を働く者を暴力で打ち砕く矛盾すら厭わないほど……』
はい……。
『それは生物……、いえ知性ある生命として至極真っ当な行動です。しかしアナタは暴力の一種であるレイプを憎むあまり、セックスそのものを、それと類するものと見なしてしまっている。心のどこかで……』
いや、そんなことは……!
大体僕自身、あのラブラブバカ夫婦の息子として育ってきた以上、セックスなんて日常茶飯のことと認識していますし。
何より自然の中で、生存競争の中に身を置き生きていれば、それこそセックスなんて普通のことと認識できるものですよ?
『その通り、生と死からの距離が広がれば広がるほどに、セックスとは特別なものになっていきます。現実から遊離する者にとっては、自分の価値感こそが現実。美しいか醜いか、それだけが真実を決める物差し。しかし本来美も醜も、知性が生み出したまやかしに過ぎないのに』
知性の生み出す諸々をまやかしと決めつけてしまったら、それもまたバーチャルリアリティどうこうとかネットは広大だわ、的な話になっていきませんかね!?
『しかしセックスも生死に直結する現象である以上、否応なしに現実に直面させる出来事であります。そして長く現実から遊離した者にとって、現実そのものが醜悪となりうるのです。臭い、汚い、煩い、気もち悪い。本来それらは全部人の中に入っているというのに……』
僕はそんなこと思ってないんですけど……!
そりゃ、どんなに美しい乙女だって、その中には胃や腸や肝臓や、未消化の食べ物やうんこやおしっこが入っているでしょうよ。
だから何ですか?
そんなことは皆同じであって、相手を愛するかどうかの基準には掠りもしない別問題ですよ!
『そうです、アナタの知性は、そんなことに惑わされる知性ではありません』
だったらなんで言い出した!?
『だからこそ、アナタはそんなことに惑わされずセックスをしなさい。アナタは既に、いかなる基準によって他者を愛と憎に分けるのか、それを知っているはずです。あとは、行動あるのみ』
行動て。
『さあ、そろそろ現世に戻りなさい。あちらには、アナタのすべきことを待ちわびる女性がいるはずですから……』
…………。
なんか釈然としないので、最後に擬人化したガイアの尻を撫でた。
『ひゃん!?』




