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58 平穏戻り

 以下は、事件落着後の大まかな流れである。


 意識を取り戻したメイデは、『勇気』の『神玉』を埋め込まれていた際の記憶を一切失っていた。

 真実あの破壊行動は、『神玉』の衝動に突き動かされてのことだったらしい。


 肝心の、どうして『神玉』を埋め込まれたか? という経緯についてだが、メイデ自身その辺りの記憶もあやふやで、城に帰る途中何者かから話しかけられ、物陰から出てきた手の上に真っ赤な宝玉が乗っており、その光を見た途端に意識を失ったと、聞き取れたのは、この程度のことだった。


              *    *    *


「要は、このオークの都に天界の手の者が潜り込んでるってこと?」


 事件の処理もあらかた終わり、オーク城に引き上げる頃には日が昇っていた。

 徹夜になってしまったが、泥のように眠りこけてしまう前に事件の全容を解明しようと、一度全員で集まっている。


 今回の騒動の中心人物であり、また最大の被害者と言ってもいいだろうメイデは、ライレイに抱きつきながらソファにもたれかかっていた。

 その模様は抱き合う友だち同士というより、母親と娘、という様相で、それに混じって『暴食』ミキも二人の間に割り込んでおっぱいを吸おうとしている。


「アイツ、騒動の間は何してたんだ……?」

「脇目もふらず女の子のおっぱい吸ってたんでしょうよ」


 食欲は何よりも勝るというわけか。

 まあいいや。


「話を戻そう、問題は、そのメイデをかどわかした天界からの潜入者が、依然としてどこかに隠れているということだ。今回失敗したとしても、二の手、三の手を繰り出してくるのは間違いない」


 一番いいのは、その前に発見して拘束することだが……。


「しかし、見つけようと思えば簡単に見つけ出せそうですがね」


 ライレイが意見を述べる。


「ここはオークの都。いるのはオーク、しかも今となっては女体化したオーク娘だけです。その中で天使なりバルキリーなりが混じっていたら、目立たないなんてことあるはずありません」


 と。


「……で、あの、すみませんミキ様。大事な話をしているのでおっぱい吸うのはあとで……!」


 ライレイは自身の乳房にむしゃぶりついてきたミキを諭そうとする。

 しかしミキは食欲を満たすこと以外にかまうべきことはない。


「でもライレイの言うこともたしかだ。実際メイデは都の中でかなり注目を受けているし。都市内に潜伏しても、誰の目にも留まらないなんてことはありえない」

「何か特別なことをしているってことね?」

「……どっちにしろ、必ず見つけ出す。血祭りワッショイ」


 リズもヨーテも、自分たちの縄張りで引き起こされた大胆な犯行に怒りを露わとしている。


「とにかく、潜入者の探索は引き続き行うとして、次の議題に移ろう」


 次の議題。

 それは戦いの最中にライレイが飲み込んでしまった『竜帝玉』の件で。

 僕らの視線がライレイに集中した。


「一応聞くけど、あのあとどうだった?」

「……すみません、何度も吐き戻そうと試みましたが、まったく効果なく……!」


 まあ、そんなところだろう。

『竜玉』『神玉』というものは、生物の体内に宿る時、玉という形を失って宿主に溶け込むらしい。

『勇気』の『神玉』に乗っ取られたメイデもそうだった。

 ライレイも今や『竜帝玉』の正式な主として、分離不可能状態となってしまった。


「本当に申し訳ありません!!」


 ライレイは、抱きかかえていたメイデと、おっぱいに吸い付いていたミキを脇においてから土下座した。


「オークの王たる証、『竜帝玉』を……。本来であれば、その主にはゴロウジロー様こそが相応しいところを、私ごときが飲み込んでしまい……! 何という失態と恐縮するより他ありません!!」

「うん、まあそれはいいよ」


 元々『竜帝玉』なんかに興味はなかったし。

 それでも、すべての『竜玉』の上に立つという帝王の玉が、よからぬ者に渡った場合の危険こそが頭を悩ます問題だった。

 それをライレイが一体となってしっかり管理してくれるというなら、これ以上安心できることはない。


「いいんじゃないの? 真面目なライレイならいい気になって悪用することもないだろうしさ」

「元々ライやんは、『竜玉』を授けられるに充分な力と地位があった……。無問題」


 リズとヨーテの反応も良好だった。


「……『竜帝玉』は、まだまだ謎の部分が多くある。すべての『竜玉』を管理できると言いながら、今回『竜帝玉』は確実に『神玉』にも効果があった」


 本来オーク王が『七凄悪』を粛正するために使う重圧が『七神徳』状態だったメイデにも通じたし。

 彼女の体に溶け込んでいた『神玉』を実体化させ、抜き取ることもライレイが成し遂げたことに相違なかった。


『神玉』と『竜玉』。

 一応まったく別物と思いきや、発揮する効力は似た者同士の両者。

 二つは僕たちが思っていたよりも同じものなのかもしれない。


「さっきの話に合った潜入者も、その目的は『竜帝玉』である可能性が高い。ライレイはその宿主として、しっかり管理を頼む」

「ははッ! このライレイ、命に代えましても!」


 肩肘張ってかしこまるライレイだった。


「とにかく、話し合うべきことはこんなところだな。あとは他のオーク娘たちに任せて、僕らは遅ればせながら寝させてもらうとしよう」

「おー」

「やっと寝れるー。メス化してから寝不足がモロお肌に影響出るから、徹夜なんかしたくなかったのにねー」


 解散宣言で、オーク娘たち、次々と談話室を後にする。

 僕もいい加減眠いので、寝室に戻って惰眠を頂戴するか、と思っていたら、背後から引っ張る力が。


「ん?」


 振り向くと、メイデが我が服の裾をちょこんと握っていた。

 親指と人差し指だけで。何やら神妙な雰囲気。


「あの……、本当にごめんなさい。昨夜は。私、あんなことするつもりなんかなくて……」


 その神妙のわけがすぐにわかった。


「あの……、私このままここにいてもいいのかな? バルキリーは、元々オークの敵だし。私、あんなことしちゃって、皆も怒ってるだろうし……」


 メイデの顔色が、見る間に捨てられた子犬のようになっていった。


「…………」


 僕は迷わず、メイデを抱き寄せた。


「お前も今ではれっきとした僕の女だ。オークもバルキリーも関係ない」

「……!?」

「僕に断りなくどこかに去るなんて許さないからな。ずっと僕の傍にいろ」

「……うんッ!!」


 メイデは元気いっぱいに、僕の体へ抱きつき返すのだった。

 こうして一つの戦いが終わった。


             *    *    *


 で。

 僕もそろそろマジ眠くて一眠りしようと、僕専用に用意された寝室のドアを開けた。

 腰にはまだメイデがしがみ付いていたが、まあ今日ぐらいは仕方あるまい。

 同衾ぐらいさせてやろうではないか、と思ったが……。


 既に先約がいた。


 僕専用のはずのベッドの上にライレイ、リズ、ヨーテ、ミキの四人が。


「……キミたち、何してるの?」


 そこは僕のベッドだよ?

 しかし女の子たちも眠気の限界なのか、エロいセリフの一つも言わずにゴーゴー寝息を立てていた。


「…………」


 僕も文句の一つも言おうかと思ったが、本当に眠い!

 色々どうでもいいので、美女四人の織りなす柔肉布団へ、その身を倒した。


「むぎゅ」「あひん」「えろ」「うらー」


 なんか乳とか尻とか触れた気もするが、すべて不可抗力です。

 こうして僕は深い眠りにつくのだった。

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