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56 強欲の戦略

 とにかくライレイのおかげで一息つくことができた。

 状況打開のために改めて頭を回すことができる。


「メイデを……、止めるには……!」


 答えはわかりきっているのかもしれない。


 メイデの中に埋め込まれた『勇気』の『神玉』を抜き出すのだ。


 それが彼女の中にあるのはもはや疑いない。

 メイデが突如手に入れた超絶能力はもとより、普段の彼女からは想像できないほど狂暴な言動も。『神玉』のせいだと考えるのが一番納得いく。

 体内のどこかに眠る『神玉』を何とかして体外に排出させれば、元の愉快なメイデに戻る可能性は大だ。


「でも……!」


 どうやって取り出せばいい?

『神玉』が具体的に、体内のどの辺りに埋め込まれているかもわからない。

 仮にわかったとしても、どうやって体外に出せばいい?

 まさかメイデの体に穴を開けて、ほじくり出すわけにもいかないだろうに。


「……ゴロやん、作戦がある」


 僕の隣で同じように浮遊する『強欲』ヨーテが言った。


「ウチの強奪能力なら、あのバルキリーから『神玉』を奪い取れるかもしれない」

「ヨーテ!?」

「……ゴロやんも同じこと考えてたんでしょ? 前にリズから『傲慢』の能力を奪った時は、『竜玉』の存在自体を知らなくて、意識してないから奪えなかった。能力の上澄みだけを奪って、今考えたら妙な違和感があった」


 しかし今は、『竜玉』も『神玉』も知っている。


「しっかり意識と目標をもって、あのバルキリーから『神玉』を奪う。ゴロやんがアイツを殺せないんなら、有効な方法はこれしかない……!」

「でも、元々愉快で放漫だったメイデが『神玉』のせいでああなっちゃったんだぞ? もしそれがヨーテの体内に入ったら……!?」

「……体内に入れない」


 ヨーテは対策を説明する。


「ウチが強奪した能力は、この肉の蔦を通じてウチの体内に入る。『神玉』が肉の蔦を経由して体に入る直前にゴロやん、肉の蔦を断ち切って……!」


 そうすれば、『神玉』がヨーテの体内に入ることはない……!?

 今のメイデを見てもわかるように、『神玉』が宿主の精神を冒す毒だ。正気を潰し、宿主本来の気質を失わせ、ただひたすら綺麗言のために破壊を尽くす滅鬼へと変える。

 今となってはあのハムシャリエルすら、『神玉』の被害者だったのではないかと思えるほどだ。

 危険はあるが……。


「わかった。それしかないようだな、ライレイ」

「は、はい!」


 ヨーテに掴まることで空中に留まるライレイに言う。


「二人でヨーテをサポートするぞ。まず僕が飛びかかってメイデの体を直接抑える」

「は、はい!」

「その次にライレイが重圧をかけて、メイデの動きを二重に止めるんだ」


『竜帝玉』を飲み込むことでオーク王の力を手に入れたライレイ。

 その重圧パワーなら、メイデがまたまた『勇気獣』を生み出すことも阻止できるはずだ。

 そうして完璧に動きを止めた上で、ヨーテに仕事してもらう。


「行くぞ二人とも!!」

「はい!」

「おー……!」


 役割分担を決めたらあとは行動あるのみ!

 まずは僕が先行して、メイデに飛びかかる。


「メイデ! 大人しくしろ!!」

「『勇気』『勇気』『勇気』ィァァァァァァ!!」


 本当に正気もへったくれもあったものではない。

 もうあんな彼女の狂態は見たくない。

 一刻も早く、おバカでも朗らかな元の彼女に戻さなければ。


 また『勇気獣』を生み出されたら面倒なことになるので、速やかに抑え込む。

 まず彼女が振り上げる聖剣を何とかしようとしたところ、その刀身が、閃光に弾かれメイデの手から離れた。


「閃光!? 地上から!?」


 視線を向けると、地上には威力を調節したシャイニング・プライドを放つリズが……!


「アタシのこと忘れないでよ!」

「ありがとう、助かった!」


 丸腰になったメイデに飛びかかり、両手両足を掴んで拘束。


「ライレイ! 今!」

「はい!」


 ライレイから放たれる重圧が、たしかにメイデへ押しかかる。

 それは対象をピンポイントで捉えているのはたしかで、ほぼ密着しながら僕には何も感じられなかった。


「ぐがああああああああああッ!?」


 その悲鳴だけで、相当な重圧を掛けられているのがわかる。

 この圧に逆らって『勇気獣』を放つことはもうできまい。


「最後の仕上げ……!」


 空中に漂うヨーテが、その手から何本もの肉の蔦を放ち、それらはあやまたずメイデの体に突き刺さる。


「『勇気』の『神玉』。ちょーだいなッ……!」


 肉の蔦から伝わってくる脈動。

 まるでポンプで地下水を吸い出してくるような。

 それはヨーテにとって危険な賭けでもあった。他者から奪い、自分の体内に入れるのは、自分にとって有益なものだけとは限らない。

 時には自分自身を殺す猛毒であることもありうるのだ。

 かつて僕と戦った時は、それが原因で自分でも受け止めきれない『憤怒』の高熱に焼き殺されるところだった。


 今回彼女が強奪しようとする『勇気』の『神玉』も、毒以外にありえないもの。

 ヨーテの体に入る前に肉蔦を切って阻止しなければならないが、あまりに早すぎれば『神玉』はメイデに戻ってしまう。


 現在、メイデは僕が抑えつけて、ヨーテはライレイのことを抱きかかえている。

 僕たち二人が両端で、同時に肉蔦を切り落とす。

 そのために、各自スタンバイするが……。


「……ダメ、わからない」

「どうしたんですかヨーテ様」

「『勇気』の『神玉』を強奪できない。あの子の体内に、それらしい物質はどこにもない……!」

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