55 新しき座
「ライレイ!?」
メイデのことは一旦捨て置き、ライレイの空中キャッチに成功した僕。
しかしライレイは真っ先な顔つきで僕を見る。
「ゴロウジロー様……! 私、私……!!」
『竜帝玉』を飲み込んでしまった。
そのことに対して肝が震えまくっているようだ。
「私、大事な『竜帝玉』を……! すべての『竜玉』を支配して、メイデを助け出せるかもしれない『竜帝玉』を……! すみません! 今すぐ吐き出します!!」
嘔吐を誘おうと口内に指を突っ込むライレイだが。
「そんな余裕はなさそうだ……!」
「『勇気』必勝!!」
さっそく狂乱したメイデが剣を振り上げ襲い掛かってきた。
僕を倒す隙を作るため、『勇気獣』を使って一般市民を襲うことすら厭わなかった今のメイデ。
ライレイを抱きかかえて両手の塞がった今の状態を見逃すはずがない。
「またくそッ!?」
両腕をライレイのために使い、防御行動が取れない以上は回避しかない。
しかも、抱き上げているライレイに剣が当たってはいけないから、とれる回避行動も限られる。
ジワジワ追い詰められていく状況だった。
「ゴロウジロー様! 私を放り出してください! そしてメイデに集中を……!」
「そんなことできるわけないだろう……!」
少なくとももう少し降りて地上に近づかなければ……。
ライレイを潰れたトマトなどにはできない。
「……ゴロやん、こっちにパスパース」
ヨーテが体勢を立て直して接近してくるものの……。
「邪魔をするな!」
メイデが再び『勇気獣』を生み出してきた。
一体何回出せるんだあのケダモノは!?
「うひゃあ、逃げろー……!」
『勇気獣』に追い散らされて、ヨーテはこっちに近づけない。
いよいよ不味いか!?
「これで詰みだ! 『勇気』で死ねええぇぇーーーーーッ!!」
「ダメェェーーーーーッッ!!」
逃げきれないところまで追いすがられ、振り下ろされる剣に対してライレイが両手を押し出した。
それはせめて自分が盾になろうと苦し紛れの行動だったのかもしれないが、それが思ってもみない効果をメイデに向けて発揮した。
「ぐあああああああッッ!?」
目に見えない力がメイデを押し戻した。
それは、相手にとっては相当な苦痛を伴っているように見えた。
「い、今のは!?」
「え? え?」
僕も訳がわからないし、ライレイ本人も訳がわからないようだった。
ただ今の、どこかで見覚えがあるような。
「っと、それどころじゃねえ!」
狂乱メイデを押し返せたことがこれ幸い。
両手で抱えていたライレイを肩に担ぎ直して右手を自由にする。
それで『正魔のメイス』を抜き放ち、ヨーテを追い回していた『勇気獣』をいつも通りに一撃粉砕した。
「さんきゅーゴロやん。お礼はウチの処女でいい……?」
「冗談言っとらんとライレイを頼む! すぐにメイデ本人が来るぞ!」
彼女にライレイを渡して、再び迎撃態勢をとる。
「……ライやん、さっきの凄かった。オーク王みたいだった」
「え?」
たしかに僕もそう感じた。
オーク王が『竜玉』を埋め込まれた『七凄悪』に対してのみ発揮できる王の力。
七人の最強戦士を屈服させる重圧の力。
今さっきライレイがメイデのことを押し戻した力は、それに酷似しているような?
「ライレイ、『竜帝玉』飲み込んだよね?」
「は、はい……!」
「まさか……!?」
他の『七凄悪』が、『竜玉』を体内に埋め込まれることでその力を発揮するように……。
「『竜帝玉』を飲み込んじゃったライレイは、もう既にそれと一体化して……!?」
「オーク王と同種の力を……!?」
僕とヨーテは目を見合わせて、同時にライレイの方を向いた。
「新しいオーク王様ー」
「オークの女王様ー」
とりあえず平伏してみた。ヨーテ共々。空中でだけど。
「やっ、やめてください! オークの王様はゴロウジロー様ではないですか!! 私は『竜帝玉』を飲んだだけでたまたま……!」
「『勇気』の力ァァァーーーッ!!」
満足に話を終えることもできず、またしても狂乱メイデが襲ってくる。
「くッ!」
それに対し、ライレイは再び手をかざした。
見えざる重圧がメイデを押し返す。
「やっぱり! これはもう間違いないな……!」
しかし、何故ライレイに移ったオーク王の力が、メイデに効くんだ?
『竜帝玉』は『竜玉』を支配する玉。
『竜玉』を宿した『七凄悪』以外には何の効力ももたらさないはずだろう?
「考えられるとしたら、メイデの中にあるんだろう『勇気』の『神玉』。それが『竜帝玉』に反応しているとか?」
「『竜玉』と『神玉』は同じようだけど違うもの。……では?」
僕もヨーテも確信が持てないでいた。
しかしどっちにしても、相手に対して有効な力が手に入ったのだ。流れを変えるならばまさに今。
「『竜帝玉』には、隠された力がまだまだある……!?」
まさに今、その力を残さず晒してもらおうじゃないか!