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52 勇気最狂

 とにかく、メイデが何かのきっかけでおかしくなったことは間違いない。

 彼女の生み出す『勇気獣』を一撃で叩き潰しては、また生み出してくるのでカチ割るといういたちごっこが続いていた。

 そうこうしているうちに後続のライレイ、リズ、ヨーテも到着する。


「なッ!? あれはメイデ!?」


 彼女のことを一際可愛がっていたライレイも、この異変に驚きを隠しきれない。


「メイデ! 一体何をしている!? そんなところにいないで早く降りてきて、事情を説明し……!」

「黙れ!!」


 苛烈な一喝に、ライレイは怯む。


「気安く私に話しかけるな汚らわしいオークめ!! 私は『勇気』の『七神徳』ライン=メイデ!! 大神ヴォータン様に万の死体を献上するのだ! 『勇気』によって!!」

「メイデ……!?」


 それまでのお気楽バルキリーからは想像もできない罵詈雑言に、ライレイの肩が震えた。


「……はっ、要するにアイツも敵である天界人だってことに変わりなかったわけでしょう! 今頃になって化けの皮が剥がれたってこと!?」


 そのライレイを押しのけて、リズが進み出る。


「アタシは最初から怪しいと思っていたのよ! 大好きなゴロウジローの手前、黙認していたけど、都やその住人に危害を加えるなら見過ごすことはできないわ!!」


 彼女の指先に閃光が集まっていく。


「問答無用で消し飛びなさい! シャイニング・プライド!!」


 天空へ向かい放たれる『傲慢』の力。その光線は正確にメイデへ向かい飛んでいくが……。

 命中より前に、メイスの柄頭が閃光を弾いた。


「ゴロウジロー!?」

「リズ、キミの言うことは正しい」


 彼女の必殺攻撃を叩き落としたのは、僕だった。


「しかし、もう少しだけ僕に時間をくれ。必ず収めてみせるから」


 そして僕は再びメイデに向き合った。

 彼女に何か異変が起きたことは事実だ。

 本来の彼女は、こんな非道なことを行う女ではない。

 何より怪しいのは異変が起きてからの彼女の言動、能力。

 すべてかつて戦った天使ハムシャリエルを彷彿させることだった。


「『勇気』、『勇気』ィ~~~!!」


 今でもメイデは、口の端から溢れる泡と共に、例の言葉を連呼する。

 まるで本当に自分が天界最強の七人『七神徳』の一人だと言わんばかりに。

『七神徳』は、オーク軍における『七凄悪』と対を成す天界最高戦力。

 大神の眼を七つに砕いて作り上げたという『神玉』を埋め込まれ、神の力の一部を分け与えられたことによって大幅強化された天使やバルキリーたちだ。


 僕がこれまで会ったことのある『七神徳』は、この間邪悪の山で出会い、吐き気を催すような醜悪さで迷わず粉々にできた『勇気』の大天使ハムシャリエル。

 アイツは闘争の最中僕に恐れをなして逃げ出し、この地上から天界へとワープできるゲートを潜った直後、そのゲートもろとも大爆発したはずだ。

 ヤツの死亡は、メイスを通じて僕にまでしっかり手応えが伝わってきた。


 だが待てよ?


 ハムシャリエルが死んだことはたしかだとしても、ヤツの中にあったという『勇気』の『神玉』はどうなった?

 それが無事なら、宿主が何人死んでも新しい『七神徳』は補充可能なんじゃないのか?


「まさか……!?」


 最悪の推測。


「メイデの中に『勇気』の『神玉』が……!?」


 それ以外に、あのメイデの狂態を説明することはできなかった。

 天界で死んだはずのハムシャリエルから、どうやってメイデの体内へ『神玉』が移ったのか?

 腑に落ちないことは様々あるが、しかしそれを解き明かすまで目の前のトラブルは待ってくれない。


「『勇気』を示すぅーーー!!」


『勇気獣』を生み出すばかりでは埒が明かないと悟ったのか、メイデは聖剣を振り上げ、みずから突貫する。


「うおッ!?」


 それを受け止めるのは、これまで戦った中で一番ヒヤリとさせられる。

 傷つけられるのではなく、傷つけてしまいそうで。


「やめろメイデ! たとえ『神玉』を身に着けたとしても、僕には敵わない」


 そうだ。

 野放図に力を開放すれば、それだけでメイデを粉々にしてしまう危険があった。

 本来ブチ殺すべき敵を、決して傷つけてはならない。

 これまででもっとも神経を使わせる戦い。


「天界の敵! 醜いオーク! 『勇気』の剣を受けろ!!」


 滅茶苦茶に聖剣を振り回すメイデ、技も考えもあったものではないが、ヘタに受け止めたらそれだけで聖剣が砕け散り、その破片でメイデが怪我してしまいかねない。


「ぐッ!!」


 やむなく素手で聖剣を握りとめる。

 その手の平から血が噴き出す。


「ゴロウジローから血が!? どうして!?」

「ゴロやん、まさかの初負傷……!?」


 その戦いの様子を地上から見るリズ、ヨーテが驚愕する。


「それは多分『憤怒』の能力の仕組みゆえ……!」


 ライレイがただ一人、冷静に分析した。


「『七凄悪』の一つ、『憤怒』の力は、能力者の怒りに呼応して体を赤熱させ、その熱によって当人へのあらゆる影響を焼き尽くす力。怒りが激しければ激しいほどに熱も上がり、いかなる攻撃も焼き尽くして無効化する無敵の能力となる」


 それは裏を返せば、怒っていなければ能力者の肉体は普通の体だということだ。


「ゴロウジロー様は既に、メイデのことを慈しむべき女として見ています。ゴロウジロー様は、愛する女に怒りを向けることなどできません」

「じゃあ、それは……!」

「ゴロやんの能力は無効化されたってこと……!?」


 つまりそういうことだった。

 ついでにいえば母さんから貰った『正義』の力も、邪悪ならば何でも粉砕できる究極の攻撃能力だが、生憎僕はメイデのことを邪悪だなどとは認識できない。


「『勇気』ぃぃぃーーーーー……!!」


 つまり、僕はこの狂乱したメイデを前に。

 あらゆる切り札を封じられたのだ。

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