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51 勇気再誕

「メイデはまだ帰ってきてないのか?」


 もはや日もとっぷり暮れて、オーク城内にランプの灯かりが灯る。

 昼間、二千人にも対してキスしたおかげで、まだ口の中がモゴモゴ違和感した。


「最近友だちがたくさんできたようですから。その人たちと遊ぶのに夢中になっているんでしょう」


 とライレイが答える。

 昼間あれだけ熱烈な接吻を交わしたせいか、さらに色気が上がったような気がした。


「友だちができたのはいいことだが、暗くなっても帰ってこないというのは心配だな。明日からは日が暮れるまでと門限つけるか?」

「ゴロウジロー様ったら……。メイデだって子供ではないんですし。あまり厳しくしすぎると、あの子から嫌われてしまいますよ?」

「たとえ嫌われても、あの子の安全のためにやむないことも……、って」

「どうしました、ゴロウジロー様?」


 僕は思ったことを、そのまま口に出してしまった。


「いや、今の会話夫婦っぽいかなって」


 妹たちがある程度大きくなって、森の大人しい獣と遊ぶようになった頃のオヤジ母さんが、まさしくこんな会話をしていたような……。


「夫婦っぽいッッ!?」


 そしてライレイは案の定その言葉に過剰反応。


「そうなんですか!? 今の会話が夫婦なんですか!? ちょっともう一回、もう一回最初から会話しましょう! そして夫婦という実感を……!」

「大変よッ!」


 そこへリズがバタンと扉を開けて乱入してきた。


「大変よゴロウジロー! ってライレイ!? またアンタ一人でラブラブイベント積み上げてるわね!? 抜け駆けすんなってあれほど言ったばかりじゃない!」

「それよりもリズ様、大変とは何事ですか?」

「即刻冷静さを取り戻してんじゃないわよ!! ……それよりもゴロウジロー! 大変なの!」


 だから何が大変なの?


「こっち来て!」


 リズは僕の手を取ると、乱暴に引っ張ってどこぞへと走り出した。


「あっ、待ってください!」


 ライレイも追い、三人で走って着いたのは、オーク城南向きのテラス。

 ここからはオークの都の街並みが一望できた。

 その街並みが燃えていた。


「何だと!?」

「襲撃!? まさか天界軍の襲撃ですか!?」


 驚き戸惑う僕たちに、先にテラスで待っていたヨーテが答える。


「それはない……。天界軍が攻めてくるにはゲートを開けないとダメだし、その時には兆候から察知できるようになっている」

「じゃあ、事故か何か?」

「それもない。ここから確認できる」


 たしかに、燃え上がる炎によって照らしだされる夜空には、一人の翼ある者が手当たり次第に光弾をバラ撒いている様が映し出されている。


「僕が行く!!」


 母親譲りの翼を開く。


「皆もあとから来てくれ! あの天界のヤツは僕に任せて、住民の避難と鎮火作業を頼む!!」

「わかりました!」「任せてよ!」「……しょーち」


 テラスの手すりを蹴って飛び、翼を風に乗せて空を走る。

 現場までたどり着くのはすぐだった。


 そして、今や僕のものであるオークの都で乱暴狼藉を働く天界人を見て……。

 僕は目を疑った。


「メイデッ!?」


 それはまさしくメイデだった。

 僕が虜囚にして、ここまで連れてきたバルキリー。

 彼女はこれまで見たことのない豪奢な鎧をまとい、手にする剣も業物だと一目でわかった。

 一体どうしたんだ? 彼女は?


「メイデ! メイデ何をしているやめろ!!」


 とにかく呼びかけてみたが、何の意味もないことはすぐにわかった。

 格好よりも得物よりも、何より彼女の顔つきが変わっていたのだから。


「汚らわしいオーク……! 天界の敵……! 私が倒す……!」

「何ッ!?」

「この『七神徳』の一人、『勇気』のメイデが!!」


 僕へ向けて突進、振り下ろされる剣を『正魔のメイス』で受け止める。


「ッ!? この剣は……!?」


 見覚えがある。

 目撃の期間はほんの少しでしかなかったが、見間違いでは決してない。

 たしかこの剣は、聖剣アンドレイアとかいう、邪悪の山で戦った天使ハムシャリエルが持っていた武器じゃないか。

 あの時は一撃で粉々に砕き、その破片をハムシャリエルに浴びせかけたが、メイデ相手にそんなことできるわけがない。

 できる限り優しくふんわりと受け止める。


「メイデ、キミが何故こんな……!」

「殺す……! 大神ヴォータン様の敵を、この『勇気』の『七神徳』が……!!」


 まったく話が通じない。

 まるでメイデが、以前の彼女ではなくなったかのようだ。


「『勇気』……! 『勇気』……!! 燃え上がれ私の『勇気』ィィーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!」


 次の瞬間、メイデの体から立ち上る気迫が形を成して、彼女の体から離れていった。

 そして益々濃度を上げて、形ある別のものへと構成される。

 禍々しい巨獣の姿へと。


「これは……、まさか……!?」


 やはり子の巨獣にも見覚えがあった。

『勇気』の『七神徳』が使うという『勇気獣』じゃないか。


 どうしたんだメイデは?

 身に着けるものも手にした武器も、能力や言動まで、かつて僕が殺したハムシャリエルと同じじゃないか!

 すぐさま『勇気獣』の頭を打ち砕いてから、メイデに向き直す。


「メイデ! 一体どうしたんだ!? 何が起こって……!?」

「一匹倒した程度で図に乗るなよ、汚らわしいオーク! 『勇気獣』は何体でも生み出せるのだ!」


 再びメイデの輪郭から禍々しい野獣が生まれる。

 何が起こっているのか?

 最悪のことだという以外、何もわからなかった。

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