46 二十八万の責任
「……落ち着いたか?」
結婚、妻、王妃。
数々の新語に浮かれ惑わされたオーク三人娘を正気に戻すため、三人それぞれに濃厚な接吻を食らわさなけれればならなかった。
「はい、充分に……!」
「世話掛けさせて申し訳なかったわね……!」
「もう一回正気を失ったら、またチューしてくれる……?」
しませんよ!
次変な方向に行きかけたら、今度はゲンコツで臨むから、そこんところよろしく!
「……とにかく、今話し合うべきことは別のことでしょう?」
これからオークたちをどうやって治めていくか?
その方針を決める会議じゃないか。
「そのためにもまずオーク王妃を決めて、すべての根幹をしっかり定めておくというのは……?」
「ライレイ?」
「すみません……!」
そこまで結婚という概念は彼女たちの中枢を狂わせるのか。
元々種族として本能に支配されるところの大きい彼女たちだが。
「結婚、って口にするたび子宮にキュンキュンくるよね……!?」
「危険な言葉……! あまり多用しない方がいい……!」
とにかく。
「キミたちにはもう任せておけない。この会議は僕に仕切らせてもらう!」
二十八万人に肥大化したオーク娘集団、彼女らをこれからどう率いていくべきか。
その責任が今やオーク王となった僕にはある。
「一応聞いておくと、まだ玉の残っているオークはどれくらいいる?」
「そういう言い方しないでください!!」
恥じらいを見せつけるライレイ可愛い。
「……そうですね、今となっては、もはやオスであることを保っているオークの方が少ないように思えますが」
「やっぱり」
「オークの都が陥落した以上。残っているのはオーク軍『怠惰』の軍団と『嫉妬』の軍団に所属するオークぐらいでしょうか?」
「アイツらも今、天界軍迎撃の任を受けて遠征中なのよね」
「賭けてもいい……。戻ってきたらゴロやんとすぐさまイザコザ起こして全員メス化される……!!」
ハッハッハ。
そんなまさか。
「「「…………」」」
「すみませんっ」
オーク三人娘からねっとりとした視線を浴びせかけられて、謝罪に追い込まれた。
うん、するね。
まず間違いなく出会った途端玉潰すよ僕は!!
「ですが問題は、やはりこのオークの都に発生した二十八万人のメスオークたちでしょう」
「……同じオークと言えども、オスとメスでは特徴が大いに違う。オスたちがするように、集団でどこそこに襲い掛かって破壊と殺戮の限りを尽くすとかメスには無理……!」
「基本的に体力と腕力が格段に落ちてるもんね」
それは僕にとっては格別に朗報なんだが。
元々僕は、そうしたオークの邪悪な面が嫌いで、何度も戦いに発展してきたわけだし。
「……では、彼女たちには新しい生き方を提供してやらねばならない」
それが真なる王としての務めだろう。
農耕、牧畜。
食べるものを奪うのではなく育むことで得る方法。それらを僕は両親の下で学んできた。
僕はそれを、王となったこの地で広め、多くの女オークたちに実践してもらう。
真面目に働く者たちが、相応の報酬を受ける。
世の中でこれ以上なく真っ当なことを実践できる国家を作りたい!
いいぞ! なんだか使命感に燃えてきた!!
「それよりもですゴロウジロー様」
そんな僕の勢いに、ライレイが水を差す。
「もっと大きな問題があります。オーク一族、存亡にかかわる問題です」
「ほう、それは?」
「ここまでほとんどすべての個体がメス化してしまったら、どうやって子孫を増やせばいいんですか?」
…………うん。
まあ、はい。
「わかっていますかゴロウジロー様! アナタのせいですよ! ゴロウジロー様のことを全身全霊を懸けて愛する私ですら庇いきれない事実です!!」
そうだね。
現状、オークの都における男女比、一:二十八万。
ちょっとありえない数字。
「仮に、この二十八万人全員をゴロウジロー様に孕ませていただくとして……、というか現状それ以外に方法はないのですが。一日一人と計算して、全員制覇するのに何年かかると思います?」
「は、八百年ぐらい?」
とても実現可能な数字だった。
前に七万九千人を女体化させた時もけっこうキツイ数値を突き付けられた気がするが、今度は文字通り桁が違う。
しかし生物が種として存続していくために交配と繁殖は必要不可欠なわけで……?
「……僕、もしかして取り返しのつかないことした?」
「そうですよ! 本当なら施政なんてそっちのけで今すぐ手当たり次第に犯してほしいところなんですよ!! っていうか犯してください! まずは手ごろなところで私から! さあ!」
「ライレイ! 言うに事欠いて何アピールしてんのよ!? 本当アンタは油断も隙もあったもんじゃないわね!!」
「手頃感ならウチも負けない。さあゴロやん、カムヒア」
そしてまたオーク娘たちのパターン入る!
「あー、いいなー、私もゴロウジローに抱いてほしいなー」
そしてメイデまで羨ましそうな目で!
一体どうすればいいんだ!?
「心配御無用です」
「ヒィッ!? 出た!?」
誰が出てきたかというと、『七凄悪』『色欲』のレリス。
今まで姿を見せていなかったのが満を持して登場。
「恐らくこういう展開になるだろうと思いまして、色々情報を集めにいっておりました。そして、手掛かりを見つけました」
「手掛かり?」
「そうです、このあからさまに雌雄比が崩れまくった状況。それを打開し、オークという種を繁栄させるのに不可欠な秘策。それは……」
それは?
「『竜帝玉』にあります!」