41 メスウォーズ
実際のところ、オークという生き物をもっとも特徴づける性質は、飽くなき強さへの礼讃ではない。
尽きることなき繁殖欲だ。
繁殖欲。
性欲ではない。その証拠に今まで出会ってきたオスメス関わらずすべてのオークは、セックスそのものではなくセックスすることによって子孫を繁栄させることを重要な目的としていた。
とにかくたくさん生む。
あるいは屈強な両親からさらに屈強な次世代を生み出す。
それは生物にとって最優先の課題。
オークは、数多の生物の中でもっともそれに真剣だったからこそ、天界軍からの攻撃に耐え抜き最後まで生き残った。
で。
そんな飽くなき繁殖力を誇るオークに、さらに『色欲』の罪科を埋め込まれて出来上がった女オーク、レリス。
それはもう存在そのものが繁殖行動と言っても過言ではなく……。
「ではゴロウジロー様、犯してください」
全裸のレリスがノンストップで僕に迫ってくる!!
元々豊満な体つきが標準の女オークの中でも、レリスは飛びぬけて魅惑的な体つきをしていた。
ただ豊満というだけでなく、その体の表面にある種の妖気のようなものを宿していた。
普通のオークならば、その肌から香り立つ匂いだけで、理性が崩壊してしまうだろう。
それが彼女のもつ『色欲』の能力だというのか。
「さあ、邪魔なものはお脱ぎになって……」
「おおーう!?」
気づいたら、いつの間にか彼女の細腕がするすると隙間に滑り込み、僕の着ている衣服を床に落としていた。
何この流れるかのような淀みなさ!?
「メスオークが、屈強なオスを前にしてすべきことは一つだけ。しかもゴロウジロー様ほどの最強オークともなれば、それより優先されることなどありません」
とか言いつつ、僕の体をあちこち触ってくるレリスさん!!
しかも触り方が明確にいやらしい!?
さらに舌まで使ってきた!?
マズいぞ! 相手はか弱い女性だし力づくで押しのけるわけにはいかないし!
故郷を旅立ってより、最大クラスの緊急事態に陥ってないコレ!?
『七凄悪』の『色欲』レリス。
これまで相対してきた中で、最強の相手じゃなかろうか!?
「では……、お情けを頂きますわ」
「いやぁーーーーーー!」
すべてがレリスの思惑通りに運ぼうとした矢先。
「「「「ちょっと待ったァーーーーーーッッ!!」」」」
突如乱入するうら若き乙女たち。
ライレイ、リズ、ヨーテのオーク三人娘に加え、誘い受けの名手バルキリー、メイデ。
あと、ついさっき女体化したばかりの『暴食』娘、ミキものったりのったりしながら続いてきた。
「オイこの『色欲』女!! 一番あとからしゃしゃり出てきておいて、何抜け駆けしようとしてるのよ!?」
「ゴロやんの精は皆の共有財産。独り占め許すまじ……!」
まずリズとヨーテの軍団長コンビがやりたい放題のレリスに詰め寄る。
それから……!
「ゴロウジロー様! 何です情けない! あんな年増メスにいいようにつけ入られて! あんな年増に搾り取られるぐらいなら! 最初に、最初にメス化させられた私のことを愛でてくださいよ!」
「そうだぞライレイお姉様の言う通りだぞ! なんだかよくわからないけど、ライレイお姉様の言うことは絶対正しいと私は思う!」
一方、ライレイとメイデの天地コンビが僕の方へ詰め寄った。
オークの都への帰途ずっと一緒だった二人だが、いつからこんなに仲良くなったのか。
彼女らは、あまりにも見苦しいオーク王の最期に、可憐な彼女たちの目に入れてはならぬと一度退室させていた。
オーク王の死骸を粉々にしたのも、『竜帝玉』を手に入れるためでなく、もう二度と彼女たちが汚いものを見ないように処理してしまおうという意図もあったのだ。
それで、多分扉の向こうで様子を窺っていたのが、いきなり危険かつ淫靡な状況に突入しそうだったので、乱入という運びか。
そこまで分析を終えたところで、『傲慢』リズが叫ぶ。
「『色欲』年増め許すまじ! ……ミキちゃん!」
「……うらー」
「アタシが許可するわ! あの年増のおっぱいを思う存分『暴食』してしまいなさい!!」
「はらしょー」
元々は『暴食』を司る『七凄悪』だったミキ。
女体化したあともただ食欲に突き動かされて誰彼かまわずおっぱいを吸おうとする彼女を、リズはいつの間に手懐けたのか。
とにかく、女体化しても僕すら上回る巨体で、レリスを押し倒すのだった。
「あらあら、大きな赤ちゃんさん」
おっぱいにかぶりつかれても余裕なレリスはさすがと言うべきか。
とにかくも、これで一時は彼女の猛攻が止まるわけだけど……。
「ゴロウジロー様! あんな年増より今は私の方を向いてください!!」
僕は絶賛ライレイから、レリスに付け込まれた不甲斐なさを糾弾され中だった。
「アナタは酷いです……! 一番最初にメス化させた私のことはまったく手を付けてくださらないのに。あんな年増に迫られただけでコロッと……!」
いや、まことに申し訳ない。
「私、決めました! 女の方から強引に迫ってくる方がお好きなら! 私だってそうします!」
ガバッと僕に抱きつくライレイ。
「お姉様、ガンバ!」
そして無責任に応援するメイデ。
「私はゴロウジロー様の女です! ゴロウジロー様に愛でられるためなら、何だってします! たとえ『女は男に犯されるもの』という、世の順序の逆を行こうとも、私がゴロウジロー様を犯すことになっても」
精一杯の力で僕を押し倒し、その上にまたがるライレイ。
今までにないほどの本気に、僕は思わず押し切られてしまった。
「わわ、私だって服を脱ぎますからね! あの年増ができたんですから! 私だって……!」
とライレイは、自分の大事なところを隠す衣服に手を掛けた。
そのまま勢いよく脱ぎ去ろうとしたのだろう。
「…………!」
しかし。
「…………………………………………ッ!!」
いつまで経とうとも、ライレイは自分の服に手を掛けたまま、石像のようになって動かなくなってしまった。
「……あの、ライレイさん」
「ゴロウジロー様は黙ってじっとしていてください!!」
「はいぃッ!?」
烈火のごとく叱られたが、やっぱりライレイは服を脱げずに固まったままである。
「…………ッ!!」
「……………………ッ!?」
「……ッッッッ!?」
と僕にまたがりながら凄まじく葛藤を続け、結局ライレイは……。
「うわぁ~ん!! やっぱり無理です恥ずかしいです~~ッ!!」
と泣き出したのだった。
一体何なんだ?