40 隠し玉
オーク王が死んだ。
しかも飛び切り異常な過程を経て。
もはや僕の関係者以外ほぼ誰もいなくなった謁見の間で、ソイツの死骸を見下ろしている。
ミイラのように乾涸びたオーク王だったものに。
「……愚かな男です。そして醜い」
僕のすぐ隣に立つ『七凄悪』の一人、『色欲』レリスが語る。
「弱く矮小なオークでありながら、たまたま出会った竜たちから『竜玉』を与えられたがゆえに、その猛威を欲しいままにしてオークの頂点へと立った。それは『七凄悪』に数えられる罪科などよりもさらに許しがたい」
ついさっきまで侍り傅いていた相手に、容赦ない口汚さ。
「『弱い』。それはオークにとって何よりも許しがたい罪。ですからこのクズはもっと早くに死ぬべきだったのです。今日ゴロウジロー様がお越しいただいたおかげで、やっと罰がこのクズに下されました」
「『弱い』ことは罪じゃない」
僕は言った。
「弱くとも強くとも関係ない。自分のできる範囲で懸命に生きる。それが大事なことだ」
罪とすべきは、己の分を超えて望むこと。すべてを独り占めしようとすること。そのために他人を傷つけること。それらを繰り返し、自分が偉大だと勘違いすること。
そこまでこじれたバカは、充分万死に値する。
既に物言わなくなったオーク王へ、僕はメイスを振り下ろした。
バスン。
生物を砕いたにしては、やけに乾いた手応え。
やはり体中の水分という水分をレリスによって搾り尽されたオーク王は、カラカラに乾涸びていたようだ。
その破片も、まるで舞い散る木の葉のようだった。
「ゴロウジロー様!? 何を……!?」
驚くレリスを無視し、砕け散ったオーク王の残骸に手を伸ばす。
それは、むしろ向こうの方から一人での僕の方へ吸い寄せられてきた。
「これか……」
美しい宝玉だった。
血のように鮮やかな赤色。そんな輝きを放つ小さな玉。手の中に収まり、握れば完全に指の中に隠すことができた。
オーク王の体内から出てきた宝玉。
これがまさか、『竜玉』か?
「違います」
僕の心を見透かすように、レリスが否定した。
「『七凄悪』の『竜玉』は、現在すべて屈強のオーク戦士に行き渡り、最強集団『七凄悪』を形作っています。オーク王の手元に残ったそれは、ある種まったく別のもの」
「別のもの?」
「『竜帝玉』、とでも言うべきものです」
りゅうていぎょく?
やはり『竜玉』と関係ありそうな響きだな。
「かつて、たまたま竜たちと出会い、七つの『竜玉』を授けられたこの男は、咄嗟に悪知恵を働かせました。竜たちにこう訴えたのです」
『オークは身勝手で自分本位な生き物。どんなに大きな力を授けられても、自分一人のためにしか使わず、団結して天界軍に立ち向かうなどとてもできませんブヒ!』
と。
「そんな理屈をこね上げて、クズはさらなる願いごとを竜たちにしたのです。『竜玉』を埋め込まれた強者を、自由に従わせる術を。それさえあれば自分がオーク族の代表となり、全オークを率いて天界軍を撃ち滅ぼしましょうと」
最悪なことに、竜はその願いを聞き届けた。
「竜たちは急きょ、さらなる『竜玉』を生み出しました。他の『竜玉』に作用し、その宿主を屈服させることのできる、いわばマスター権限の機能をもつ『竜玉』を。それがこの……」
『竜帝玉』。
というわけか。
「……ゴロウジロー様、何故このクズの中に『龍帝玉』が隠されているとお気づきになったのです? 何の事前情報もなかったはず……?」
「いや、気づけるきっかけならあった」
オーク王が使ってきた『七凄悪』だけを襲ってくる重圧。
あんなものを普通のオークが使えるなんてとても思えなかったから、何かあるんじゃないかと。
試しに死体を粉々にしてみたら案の定何か出てきたというわけだ。
「僕としては、どうしてキミがそんなに詳しい話を知っているのかが疑問だね。今まで話したこと、全部オーク王本人しか知らないようなことじゃないか」
「オスというものは、ベッドの中ではことさら口が軽くなるものです。吐き気を催すのも我慢して、こんなクソ弱者に媚びへつらってきたのも、すべては必要な情報をすべて手に入れるため」
なるほど。
そうなるとさらに、彼女が何故そこまで執念深くオーク王への謀反を企てていたか、動機が気になるところだが。
「やはり、本当に媚びへつらうべきは、真なる強者へでないと……」
……あれ?
なんかレリスの腰が妖しくくねり始めた?
「ゴロウジロー様、アナタ様の来訪は、あらゆる意味で衝撃的でした。もっと時間を掛けて腐り崩していくつもりだったオーク王の支配を、一瞬にして打ち砕いてしまったのですから。しかし何より……」
ピッタリと、レリスの豊満な体が僕に張り付く!?
「わたくしの司る罪科は『色欲』。あとは言わずともおわかりになるでしょう?」
元々全裸に極めて近い半裸だったレリスが、今では本当に全裸だった。
いつの間にそうしたのか、既に脱ぎ捨てられた紐みたいな衣装が床に落ちている。
「積もる話も多々ありますでしょうが、今はただ犯していただきとうございます。それ以外はどうでもよくありましょう?」
ヒィエエエエエエエエエエエエエッッ!?
『七凄悪』の一人『色欲』のレリス。
ここからが本領発揮か!?




