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34 オークの都

 そして、ついに到着した。

 オークの都、その名もオークラに。


「ここがオークの本拠地ってわけか。思ったよりもちゃんとした街だな」


 暴虐で残忍なオーク。

 そんなイメージをもったままやって来た僕だから、オークの都というともっとおどろおどろしいところかと思ったら、普通に多くの家屋が建ち並び、しかもその並び方も整然として美しい。

 街並み自体に美しさのある都市だった。

 建物自体も大小さまざまであるがレンガ造りのしっかりした構えで、適当に掘っ建てた小屋とはわけが違う。

 中央を走る大通りはしっかり舗装され、何処からどう見ても立派な文明都市だ。

 オークがここまで街づくりできるとは……。


「この街は、元々人間という種族が作ったものなのです」


 傍らでライレイが解説してくれる。


「ですが天界軍の侵攻によって人間たちはこの街を捨て、身を隠しやすい山中に逃げ込みました。それでも結局は滅ぼされてしまいましたが。あとにこの街だけが残り、我らオークが使っているというわけです」


 なーんだ。

 人間は、かつてこの地上に多種多様に存在していた種族の中でも物質的知能が高く街や建物を作るのが得意な種だったらしい。

 自分たちが滅ぼされたあと、自分たちが残したものが他種族に使われるなど夢にも思わなかったろうよ。


 とにかく、そんなオークの都に僕たちは辿りついた。

 僕と同行するオーク軍団は、元々天界軍迎撃の使命を受けてここから発した者たちだ。

 つまり、その任を果たして帰って来たのだから凱旋である。

 大通りに列を組んで進む僕たちの一団。騒ぎに誘われ、家の窓やら小道やらからオークたちが数多く顔を出す。

 そしてその顔は、例外なく困惑に目を丸くしていた。


「軍団が帰ってきたフゴ!」「天界軍をボコるために出撃した軍団が帰ってきたフゴ!」「『傲慢』と『強欲』、あとついでに『憤怒』の軍団フゴ!」

「でも」

「でもなんで?」

「「「「「「「「「「なんで全員メスになっているフゴ?」」」」」」」」」」


 大通りを練り歩くオーク軍、総勢七万九千。

 その全員がことごとくオーク娘だった。

 しかも皆、妙齢で美しく、いい香りがする。

 そんな女の子たちが十万にも届こうかという数で行進するのだから、これはもう軍団というよりは何かのパレードのようだ。


「うーん、視線が痛いです」


 僕の隣の位置で歩くライレイが苦笑を漏らした。


「さすがにオーク全体から見ても、これだけの数が一斉に女体化したことはないですから。物珍しいのもわかりますが……」


 たしかに。

 普通であれば、これらの帰還軍は大勝利の使者。興奮に湧き上がって歓声なり拍手なりが鳴り止まなくてもおかしくはなかろう。

 しかし実際には拍手もなく歓声もなく、ただ異常事態に息をのむ沈黙だけ。

 聞こえるのは僕ら自身の足音ぐらいだ。


「いいじゃん、いいじゃん。この雲霞のごとき美女集団こそゴロウジローの強さの証!」

「都に住むオークの全員が、ゴロやんの登場に戦慄する。演出としては悪くない……」


 リズ、ヨーテ率いる『傲慢』『強欲』の軍団ともすでに合流を果たし、二人の女体化軍団長は僕の左右それぞれに腕を組んで密着していた。

「しばらくの間離れていたから」という理由でくっ付く勢いにもことさら遠慮がない。

 それから虜囚のメイデも「ふわー、ここがオークの都かー」と僕の背後で観光気分だった。


「でも……、少し心配ではありますね」


 ライレイが息を潜めて言うのに、リズやヨーテも同意する。


「そうねー、妊娠可能なメスオークがこれだけ大挙するなんて、かつてなかったことだもんね」

「色香に狂うケモノが必ず出てくる」


 彼女たちの危惧は、真っ当なものだろう。


「リズ、ヨーテ、ちょっとゴメンだけど僕の腕を自由にさせて?」

「「え?」」


 僕の左右の腕に絡み付きたい二人にしばらく我慢してもらい、『正魔のメイス』を取り出す。

 そうこうしているうちにも、崩壊の兆候は表れだしていて……。


「何だフゴ……!? こんなにたくさんのメスが……!? 誘ってるフゴ、そうフゴね? もう我慢できねー! 片っ端からヤリまくってやるフゴーッ!! ……ごぶえッ!?」


 街角から、行進する美女軍団に襲い掛かろうとした一匹のオークが、美女たちに指一本触れることなく血反吐出して倒れた。

 しかしそれは始まりにすぎず……。


「大乱交だフゴー!! ……がぶッ!?」

「選り取り見取りフゴーッ!! ……ぎゃひんッ!?」

「抑えがたきその劣情がオレを新たなステージに導くフゴ―!! ……ぼんげッ!?」

「グッバイDTフゴー!! ……あげごッ!?」

「…………。 ぐぼがッ!?」


 街角から飛び出し僕の美女軍団に襲い掛かろうとするオーク。一人の例外もなくその前に粉々にされた。

 一方、行進する美女軍団の最先頭では、僕が忙しなく『正魔のメイス』を虚空に叩きつけている。


「あの……、ゴロウジロー様? 一体何をなさっているのですか?」

「聞かなくても大体わかるところが恐ろしい」

「早速ゴロやんによってオークの都に惨劇が」


 と次々震えだすライレイ、リズ、ヨーテたち。

 別に大したことはやっていない。

『正魔のメイス』で空気を叩き震動を起こす。その振動がオークの引き起こした劣情と共振して増幅され、その劣情の発信源となっているものを崩壊させる。

 つまり、オスオークの股の下についている玉を。

 以上のメカニズムを説明して……。


「またゴロウジロー様はそんな魔法めいたことを!!」

「いい加減その万能性に歯止めかけないと、やめどころがわからなくなるわよ!?」

「しかしそれでこそウチらのゴロやん……」


 と総ツッコミを食らった。

 とにかくも、七万九千人の美女軍団が行進するところ、拍手と歓声の代わりに断末魔と粉砕音が絶えないのだった。

 そうして、段々と近づいてくる大きな建物……。


「見えてきました……。あの巨大建築物こそこの都市の中心、オーク城」

「オーク王の住処よ」

「元々は人間の王城だったんだけど……」


 ついに辿りついたか。

 全オークを支配するという、オークの王者の下に。

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