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31 捕虜獲得

 オーク軍に囚われしバルキリーの少女、ライン=メイデ。


 こうして見ると破滅感のハンパない字面であるが、当人の投げ遣り的な態度が破滅へと拍車をかける。


「さあどうした!? この戦乙女ライン=メイデ、貴様たちからのいかなる責め苦にも、我が誇りは傷つかぬ! ハムシャリエル様率いる『勇気』の軍勢最後の生き残りとして、決して最後まで『勇気』は失わぬ!!」


 しかも、その破滅思考は益々度を越していき……。


「衣服をすべて剥ぎ取られて全裸にされようと! その上で手足を拘束され、体の自由を奪われ、本来秘するべきありとあらゆる部分を視線に汚されようとも私は屈せぬ! あるいはそれ以上の……、直接的な恥辱にも!」


 バルキリーは鼻息荒い。

 その様子を見て、ライレイは「どうしましょうか……?」と困惑の視線を投げかけるが……。

 とりあえず彼女に任せてみよう。


「……あの、えっと、天界軍の戦乙女よ。名前はライン=メイデといったな?」

「何故私の名を!? もしや私の武名はオーク軍に広く伝わっているのか!?」

「うわー」


 僕の副官として、とりあえず尋問を始めてみるライレイ。

 しかし早くも「コイツ関わり合いになっちゃいけない人だ」という感触が濃厚に。


「な、なんだ!? 何を聞かれても私は喋らんぞ! たとえ貴様らオークの醜く太った体に組み伏せられ、数人がかりで前から後ろから口にするのも汚らわしい行為を去れたとしても!」

「レイプのことか?」

「ハッキリ言うな汚らわしい!」


 明言しないだけで、それを想起させるような言い方をさっきから言いまくりなのがアナタなのですが。


「……ゴホン、我々にとってはバルキリーなどどうなろうと知ったことではないが、一応安心するがいい。周りを見ろ」

「え?」


 ライレイに促されて、メイデは右を見て、左を見る。


「女の子しかいない。しかも全員美人」

「ありがとうございます。……じゃなく! ……見ての通りだ。我々は故あって全員メス化し、レイプする側からされる側へと転身した。よってお前を凌辱することも……」

「ということは、百合!?」


 もうやだ、この娘。


「ま、まさかこの私を、同性で寄ってたかって手籠めにし、おっぱいをおっぱいで、お尻をお尻で潰し合う肉感の虜にして堕落させ、身も心も淫欲に塗れさせて最終的には自分のことを『お姉様』と呼ばせる気なんだな!?」

「するかそんなこと!」

「しないのか、お姉様!?」

「誰がお姉様だ!?」


 バルキリーって恐ろしい生き物なんじゃないかなって気がしてきた。

 いや、あくまで彼女という一個体のみが恐ろしくて、バルキリー全体があんなスットコドッコイな性格をしているのではないと信じたいが。

 ……だが待て。同じバルキリーであるところの母さんが、毎日のようにオヤジと虚空から砂糖を生み出すようなダダ甘ライフを満喫していたのは……。

 かつてオーク軍最強の狂戦士と言わしめたオヤジを少しずつ洗脳して……?

 ……まさかな。まさか……。


「うわ~ん。ゴロウジロー様ぁ、私にはもう無理ですぅ~!」


 そしてライレイがついに匙を投げた。

 まあ仕方ないよな。

 というわけで僕が尋問役をバトンタッチ。メイデの前に出る。


「ヒッ!? ついに男が! 私をメチャクチャのトロトロにする気か!?」


 しませんから。


「というかキミ、僕のことは知っているはずだろう? 何しろ僕を狙って、剣を突き立ててきたんだから」


 その剣は、僕の皮膚を破ることすらできなかったけれど。


「とりあえずそこから聞こうか、何故僕を刺したんだ?」

「そんなの決まっている! 貴様がハムシャリエル様の仇だからだ!!」


 だよね。

 それぐらいしか思い当たる節がないわ。


「ハムシャリエル様だけではない! 我が同志、『勇気』の軍勢までも一人残らず全滅させた悪魔め! 彼らは、大神ヴォータン様よりの使命を実行するために遣わされた聖なる軍隊だったのだ! その聖務をブチ壊しにした罪は重い!!」

「……」

「こうなったら一騎打ちだ! 一対一で私と果たし合え! たとえ貴様を殺すことはできなくても、せめて一太刀浴びせてから死んでやる! それが先に死んでいった同胞たちの無念を……!!」

「キミの仲間が死んでいったことが無念なら……」


 声に自然と怒の熱気がこもる。


「……キミらに殺された多くの種族の無念は、何処で晴れる?」


 その指摘に、メイデは即座に息を詰まらせた。


「忘れたとは言わせんぞ。キミが、お前たちが戦いの前に見せびらかした何十万という頭蓋骨を。お前たちが遊び半分で殺し、その証拠をひけらかすようにして持ち歩いていた。死者を死してなお弄ぶかのような所業だ」

「そ、それは……!」


 メイデは口ごもる。


「お前も持っていたのか、あの反吐の出るコレクションとやらを?」

「私は……、実は生産されたばかりで、今日が初陣で……。上官からは、今日の戦いでたくさんのオークの首を落として、自分のコレクションを作れと言われていたけど…………!」

「……」


 僕は、彼女に顔を近づけ、その瞳をジッと覗き込む。


「ヤツらは他者の尊厳を踏みにじり、命を踏みにじった。である以上同じことをされても被害者面をする資格などない。願わくば、ヤツらを皆殺しにしたことでヤツらに殺された者たちの霊が少しでも慰められたらいい」

「…………」

「無論、キミにも同じことをやる権利はある。でもな、それはただの憎しみの連鎖だ。それを否定する気はないが、やるならばまず『勇気』だの『聖なる』だの飾り立てる言葉は捨ててからこい。『自分が正しい』なんて甘えで身を守っているうちは、憎しみに身を任せる資格なんてない」


 メイデは、もはや何も言い返さなかった。

 それを確認して、僕は彼女に背を向けた。


「ライレイ」

「はいッ!」

「彼女も一緒にオークの都とやらに連れて行く。捕虜だ。拘束したまま我が軍に加えろ」

「捕虜ですか? ですが……」

「虐待は許さない。賓客のように遇する必要もないが、捕虜は捕虜として、けじめをもって扱え」


 僕自身、天界軍のことはまだよくわからず、かねてから知りたいと思っていた。

 彼女はいい情報源となる。オークの都へ向かう道すがら、色々聞かせてもらうとしよう。


「恐れながら申し上げます。私は反対です。たとえ変な性格でも、ヤツは天界軍。生かしておくと何をしでかすか……!」

「彼女は他の天界軍とは違う」


 少なくともハムシャリエルのような、どうしようもないクズではない。


「その証拠に、僕が天界軍の非道を指摘すると何も言い返せなかった。バカやクズは、そこからどうしようもない屁理屈をこね上げて反論してくるものだ。もしくは耳を塞いで聞こえないふりをする」


 メイデはそれをしなかった。

 それは彼女に、天界軍の悪逆に眉を顰める良心があるということだった。


「ハムシャリエルは堂々とそれをやったがな。自分たちが虐殺されるのは許さないが、自分たちは神聖だから虐殺してもいいと来た。だから僕も最後までメイスを振り抜けた」

「ゴロウジロー様」

「しかしメイデに対しては、僕はもう何もできない。彼女に対して認めるべきものを見つけてしまったから。でもライレイたちがどうしてもと言うなら、今からでも殺すけど……」

「いいえ、私は既にゴロウジロー様の女です。ゴロウジロー様の決定されたことを蒸し返すようなことは致しません」


 そうか。


「ですが……、他の者たちがどう思うかはわかりませんが……」


 そうだな、リズとヨーテ率いる『傲慢』『強欲』軍は往路同様復路も別行動となるが、ここにはまだ三千人もの『憤怒』の軍団がいる。

 女体化したとはいえ、敵たる天界軍への憎しみを早々捨てきれるとも思えないが……。

 そう思って、当のメイデの方を見てみると、既に数十人のオーク娘たちが……。


「ねえねえ、これが戦乙女のおっぱい?」「ひゃあ肌がツルツル!」「指でこするとキュッて音が鳴るよ!」「私たちメスオークと何が違うのかしら!?」「色も白くて透き通ってるし!」「つむじからいい匂いがする!」「ウソ! アタシにも嗅がせて!」


 案外大人気であった。

 まるで迷い込んだイヌかネコでも取り囲むかのメイデのことを撫で回している。


「オークは基本的に深く考えませんから……」


 ライレイが苦笑い気味にその情景を眺めるのだった。

 今回はその楽天さに救われたか。僕も、メイデも。


「うわああ、くっ殺せ!! おっぱいや尻を指で撫でるくらいなら殺せ! つむじをスンスンするのも肘の裏に口押し付けて深呼吸するのも! そんなことするくらいなら、お、お姉様! お姉様ぁ~~~!!」


 そしてライレイのあの変な性格にも、救われたのかもしれない。

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