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30 生き残り

 僕に剣を突き立てた女の子は、全身をマントで包み背格好はわかりづらい。


「コイツ!?」

「ゴロ様に何してるのよ!?」


 すぐさま近くにいたオーク娘が取り押さえるが、その娘のもっていた剣は、僕の体に残った。


「ゴロウジロー様!? ゴロウジロー様ご無事ですか……!?」


 ライレイは、半狂乱で僕に縋りつくが……。


「大丈夫ですよ?」

「はい?」


 まったくもって無事。

 明確な敵意をもって僕に突き立てられた剣は、しかし突き立てられただけで、薄皮一枚も破ることができずに、僕の表面で止まっていた。

 つまり刺さらなかったのだ。


「さすがゴロウジロー様……!」


 かなり心配させてしまったようだ。

 顔中冷や汗一杯になっていたライレイ。彼女にこんな顔をさせてしまったことに腹が立つ。自分自身を刺されたことよりも。


「さて……」


 僕は早速、オーク娘たちに取り押さえられたマントの女に向き直る。

 他のオーク娘たちは、通常オークだった時の装備を上手く引き継いでいて装着し、半裸状態であるというのにこの子だけ全身覆うマント姿。

 気を付けて見れば違和感全開なのに、それに気づかなかったとは迂闊なばかりだ。

 こういう抜けたところがオークという種族ならではと言えなくもないが……。

 とにかくも、僕はまず彼女を覆うマントを剥ぎ取ってみた。


「これは……!」


 するとその中から出てきたのは、いかにも清純そうな外見の女の子。しかも……。


「バルキリーッ!?」


 僕にはわかる。

 何しろ僕を生んだ母こそバルキリーなのだから。

 この少女は間違いなく、母さんと同じ種族、同じ存在。

 背中から一対の翼を備えた戦乙女バルキリーだ。


「何故バルキリーがこんなところに!?」

「さっきの天界軍の生き残り!?」


 周囲のオーク娘たちも、突然の別種族の登場に戸惑いを隠せぬようだ。


「ゴロウジロー様……!?」


 ライレイも困惑の視線を僕に向ける。


「……ライレイ。『傲慢』『強欲』軍団を率いているリズ、ヨーテに連絡して、先に出発するように伝えてくれ」

「承知いたしました。我々は……!?」

「当然この問題に対処してからだね……」


 依然として数人がかりのオーク娘に取り押さえられたバルキリーを覗き込む。

 見た目の年齢は、ライレイたちとあまり変わらないように見える。

 しかしバルキリーというのは生来老いない生き物らしく。僕を生んだ母さんですら、目の前のこの娘と若々しさでは大した違いはない。


 ただそれでも、一目見てこの娘は僕と同じくらいか、少し年上程度ではないかとわかる。

 表情が若い……、というより幼いのだ。


「殺せ!!」


 開口一番バルキリーの少女は吠えた。


「この清流の戦乙女、ライン・メイデは! 汚らわしいオークどもの軍門に降るぐらいなら死を選ぶ! ハムシャリエル様率いる『勇気』の軍勢最後の生き残りとして、誇りは最後まで失わぬ!!」


 えぇ……?

 この娘、聞いてもいないのに、こっちの聞きたいことをガンガン喋りやがる。

 しかも向こうは心から「敵の思い通りにはならない!」という決意が表情に溢れ出ている。

 天然なのかな。天界人だけに。


「ゴロウジロー様……!」


 ライレイもその珍妙さに気付いたのか、色褪せた顔をこちらに向けた。

 とりあえず今の証言で「彼女の名前」「所属」「彼女以外に仲間は残っていないこと」がわかった。


 僕自身が叩き殺した天界軍『七神徳』の一人、『勇気』を司るハムシャリエル。

 ヤツと、ヤツが率いる天界軍『勇気』の軍勢が全滅するのは同時だった。

 しかし討ち漏らしがいたとはな。

 その当人が目の前にいる以上、間違いはないが。


「全軍に注意を呼びかけましょうか? この女が最後の生き残りと言いましたが、それがウソである可能性もありますし、仮に本当だったとしてもコイツの知らない生き残りが他に隠れていることも考えられます。ゲリラ戦など仕掛けて来たら……」

「いや、大丈夫」


 この娘はウソをついていないし、生き残りもこの娘以外にはいないだろう。

 思い出したことがある。

 あれは『勇気』のハムシャリエルが僕に押されて逃走した時、ヤツは姑息にも自分の部下をけしかけ、逃走の猶予を稼ごうとした。

 しかし上司が上司なら部下も部下。『勇気』の軍勢を構成する天界人たちは誰一人僕へ向かって来ようとせず、逆に我が身可愛さに逃げ出したのだ。


 しかし、その中でたった一人だけ僕に立ち向かってきた者がいた。


 ソイツは僕に斬りかかろうとするところを、『正魔のメイス』巨大化の余波を受けただけで吹っ飛ばされ、いずこかへと消えていった。

 しかし『正魔のメイス』の破壊衝撃そのものを食らったわけではなかったので、死なずに済んだのだろう。

 他の者は逃げたがために巨大化『正魔のメイス』の追撃を食らって四散した。だが立ち向かってきたその一人だけは、接近してきたがために巨大化する前の『正魔のメイス』余波だけ食らって、命が助かったのだ。


「本当に『勇気』ある者だけが残ったってわけか。皮肉だな」


 このメイデとかいうバルキリーの少女こそ、あの時立ち向かってきたたった一人だったのだ。

 だからこそこうして、生きて僕の目の前にいる。


「私はお前を許さない! 『勇気』の軍勢の生き残りとして最後までお前に立ち向かう! たとえ虜囚となり、権利と尊厳を奪われ、服も奪われ、獣同然の素裸となって四本足で歩かされ、その様を侮蔑と嘲笑で見られようと、私の心は決して敗北しない! さあ汚らわしいオークめ! 私に思いつく限りの責め苦を与えてみろ!」

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