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29 七万九千の責任

「何となくわかってきたわ!!」


 僕とライレイ演じる寸劇を見届けて、観客席の方から勇ましい声が上がった。

 元『傲慢』オーク軍団長のリズではないか。

 今では『傲慢』美女軍団長のリズだが。


「つまり好き好き言ったり、キスキスしあったりしたら愛なのね!?」


 うーん、そうとも言えるだろうか。

 少なくとも明るい笑いの絶えない家庭だからこそ子供は溌剌に育つので。


「そういうことならアタシにだってできるわ! なにせアタシは『傲慢』の軍団長なんだから! 中隊長クラスのライレイにできたことがアタシにできないわけがない!!」


 さすが『傲慢』。

 根拠のない自信だけは天下一品だ。


「さあゴロウジロー! 今度はアタシが奥さん役を演じてあげるわ! テイクツー開始よ!」

「ゴメン無理」

「えぇーーーーーーーーッッ!?」


 だって体力使うんだもんあの寸劇。身体的にも精神的にも。

 連続公演なんて超無理。


「なんでよー!? ライレイにできたことがアタシにはできないっていうの!? アタシにも好き好き言ったりキスキスしてよー!」


 肩を揺さぶられてもできないものは無理。

 せめてもう少し休んでからで……。


「やめてリズ……」


 そんなゴーマン娘をガシリと掴んで止める、小柄な少女。

 この場にいるもう一人の軍団長、『強欲』ヨーテ。


「ゴロやんは疲れてる……。そんなゴロやんをに鞭打ってはダメ」

「ヨーテ……!」


 なんと優しい物言い。


「ゴロやんに負けたウチらは、本来ゴロやんの所有物。ご主人様であるゴロやんを、下僕のウチらが振り回しちゃダメ」

「それは、そうなんだけど……」


 ヨーテの正論にリズが怯む。

 ちなみにライレイはまだ胸のキュンキュンを抑えきれずにうずくまっている。


「ゴロやんは大変お疲れ中。今の行為は凄絶な快楽に押し流されると共に、激しい消耗に陥ると見た。多用はできない」

「そうかもだけど……!」

「だから慎重に順番を決めなければいけない。次にゴロやんに好き好きしてもらうのはウチの番」

「おのれぇーーーーッ!!」


 リズとヨーテが取っ組み合い。

 相手の目論見がわかってリズさんは大炎上だった。


「このゴーヨク女ァ! 貞淑に仕えていると見せかけてちゃっかりいい席取ろうとすんな! なんでアンタがいの一番なのよ!?」

「ウチは『強欲』の『七凄悪』。欲望に忠実なのは当たり前。『色欲』だって当然強い」

「それは別の『七凄悪』だろうがぁーーーーッ!?」


 何やかやでいいコンビである。

 勢いとは言え七万九千人も女体化させて、その身の振り方に責任持ってしまったために、それらを各自率いていく役がいるのは大いに助かる。


「だんちょぉー、ケンカもいいけど、そろそろ次に進みません?」

「ここに突っ立ってたって、何も始まりませんよー」


 七万九千人の美女軍から急かす声が漏れ出した。

 そうだな、休憩にも飽きてきたし、そろそろオークの都とやらに向けて行軍……。


「「「「「「「「「「私たちがゴロ様に好き好きされる順番も決めてください!!」」」」」」」」」」


 そっちかよ!?


「いや待って、さすがに七万九千人も好き好きするのって物理現象として無理があるでしょ? 何年かかるの、って話になるでしょ?」

「単純に一日十人として計算すると、ざっと二十年はかかりますね」


 あ、ライレイが復活した。


「さすがに七万九千人は伊達じゃないですね。ゴロウジロー様、なんで後先考えずに、こんなにメス化させてしまったんですか? 好き好き行為だけですら終わりの見えない無限道だというのに、子作りになったらなおさらですよ?」

「まことに仰る通りで……」

「メス化させた以上、勝ったオークには負けたオークを孕ませる責任があります! それをしてもらえなかったメスオークは、自分の生涯が無意味になってしまうのと同じなんですよ!」


 たしかに、母親としてでも、自分の血統を次世代に残せないというのは生物にとって失敗でしかない。


「もはや愛とか言っている場合ではなく、今からでもせっせと仕込んでいただかなければとても間に合わない状況です! 一体どうするのですか!?」


 何から何までライレイの指摘通りだった。

 なんで僕後先考えず七万九千人も女体化させてしまったんだろう?

 愛があるとかないとかの問題以前に、女体化させてしまった以上その責任は取らないといけないし、その方法はたった一つ、彼女ら一人一人に僕の子供を生ませてあげること?


 しかし、気分の問題は置くとして物理的にちょっとありえない数だし、普通にやってたら最初に生まれた子が老衰で死ぬ頃になってもまだ種付けが終わらないとか普通にあり得る!


「…………ま、後々考えよう」

「問題から目を逸らしましたね。あとに回したツケが取り返しのつかない形に膨れ上がらなければいいんですが……!」


 ライレイから怖いことを言われて、背筋がゾッとした。

 本当にありそうだったため、何にしろ対策を講じなければならないと思った。


             *    *    *


「えー、では、そろそろ本当にオークの都を目指して出発しようと思います」


 おー! と女の子たちからの和やかな返事。


「皆さんにとっては帰還ですが、僕にとっては初めて訪問するオークの都です。どんなところなのか不安もありますが、皆さんについていきたいと思いますのでどうかよろしく」

「ゴロウジロー様! 不肖このライレイが、オークの都までの水先案内人を務めさせていただきます!」


 横から抱きつくように迫ってきたライレイ。

 礼儀正しいのは相変わらずだが、何だか少しずつ照れがなくなってきたというか、打ち解けてきたというか。


「私は、オーク軍の戦士である前に、ゴロウジロー様の女であることを決めましたから、常にお傍に置いてくださいね」


 可愛いことを言う娘である。

 理性をしっかり断もたないと、思ったより早く親父たちに孫の顔を見せることになりそうだ。

 アレ? でもなんでそれしちゃダメなんだっけ? ダメな理由なんかあったっけ?


 致命的なことに疑問が生じているところへ……。

 グサリと。

 ライレイが抱きついているのとは逆の方向に衝撃を感じた。

 何かと思って振り向くと、僕の体にぶつかるように突進してきた女の子がいて、その手には鋭い剣が。


「ゴロウジロー様ッ!?」


 ライレイも異変に気付いて悲鳴を上げる。

 何故女の子が……。

 僕に剣を突き刺した。

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