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02 愛する家族

 きっぱりNOと言えるハーフオーク。

 それがこの僕ゴロウジロー。

 即座に拒絶されたためか、オヤジは、そのオーク特有の潰れ鼻の上に皺を寄せながら、言い重ねる。


「しかしフゴ息子よ……」

「ノゥ」

「そうは言うがなフゴ息子よ……!」

「絶対にノゥ」

「聞けフゴ父の話を!!」


 父キレた。

 やはりこの堪え性のなさが、凶悪生物オークの根底なのかもしれない。


「いいかフゴ! オスは親から独立するものフゴ! 生まれ育った家を出て、自分の家、自分の家族を作ってこそ種は繁栄していくものフゴ! オークともなればなおさら外の世界に出て、手当たり次第にメスを襲い孕ませてこその邪悪生物ではないかフゴ!」


 アンタは邪悪であることが誇らしいのかそうじゃないのか?


「この儂とてそうフゴ! 儂は戦乙女とあだ名されるバルキリーを手籠めにして屈服させ、自分のものにしたフゴ。しかもただのバルキリーではないフゴ。その中で最大最強、敵する者を残らず消し去る『死の女神』と恐れられ、にも拘らず眉目秀麗、輝くような美貌と、その上に知性まで併せもつ、その隙間から垣間見える優しさが堪らなく愛おしい……。つまり、お前の母親を屈服させたフゴ! 今ではアイツも儂の言いなりとなり……!!」


 母さんが台所から出てきた。


「オイご主人様、片付けやすいように食い終えた皿は重ねておけと言っておいただろうが」

「ハイ、すみませんフゴ!!」


 オヤジは母さんに平謝りした。

 このオーク弱い。


「しかしな我が息子。ご主人様の言うことにも一理あるぞ」


 母さんまで僕を追い出したい派なのか?


「いい年をした大人が独立せず、いつまでも親の脛を齧っていてどうする? そんな自分を情けないとは思わないのか? オーク、バルキリーの区別なく、男たるもの外の世界へ自分の力を試しに行くのが本道だ。このご主人様のように」

「オヤジがですか?」

「そうだ、我がご主人様を見ろ。こんな鼻が潰れて醜悪で、やることなすこと粗暴劣悪。半日洗わないと獣臭くなるわ、どれをとっても最悪の生物だ。しかし!」


 母さんは握り拳を震わせた。


「そんなご主人様でも力があるから私という女をものにできたのだぞ! 力づくで屈服させ、凌辱して、身も心も支配して私のことを所有物にしたのだ! 敗者の屈辱と女の幸福がごちゃ混ぜになった混沌とした感覚! 最強のバルキリーなどと呼ばれていた私にそんな感覚を与えられるのは、最強オークのご主人様だけだ!」

「そんな、照れるフゴ……!」


 オヤジは真実照れているかのように後頭部をボリボリ掻いた。

 照れるところかそこは?


「しかもな! ご主人様の凄いところはそれだけじゃない! 最強だけでも物凄いというのに! さらにもう一つ凄いところがある! ……メチャクチャ優しい!」

「もういいです。やめてください。その辺にしておいてください」


 僕の哀願を、母さんは聞き入れない。


「二人しがらみを捨てて逃げようと最初に行ってくれたのはご主人様なのだ。オーク最強の将という栄誉を捨てて私を選んだ。その時言ってくれた言葉を私は一生忘れないのだ。……曰く『お前という最高の女を手に入れるのは、世界すべてを手に入れるに等しい』」

「もうやめてくださいってば!!」


 想像に易いことだが、母さんからこの話を聞くのはこれが最初ではない。

 何回目か数えきれない。栄えある千回目から数えることをやめてしまった。


「まあ、何を言いたいかというかだ。息子よ。お前も家を出てご主人様のように、雄々しきオスとなりなさいということだ」

「外の世界に出れば、いいメスをたくさん抱けるフゴ。それこそ儂のフリッカのようにいいメスをフゴ。……いや、ないフゴ。儂のフリッカよりいいメスなんて天上地上のどこを探してもにもいるわけないフゴー!!」

「もう! それを言ったらご主人様より強い男だってどこにもいやしないぞ!」


 ウザいこの夫婦。

 外界と隔絶した山奥に住んでるからって。惚気られる相手が自分の子供しかいないからって。本当に自分の子供相手に惚気るとか正気かコイツらは。


「……オヤジ、母さん。何と言われても僕は、この家を出たりしない」


 決然と言い放つ僕に、アホ夫婦はイチャつくのをやめた。


「まず、僕が親の脛を齧って独立を拒んでいるという意見だが、そんなことはない。僕は、この家が営む生活に、充分貢献していると自負している」


 そりゃ僕だって十五歳のハーフオーク。立派な大人だ。

 山中に入って狩りをしたり、地を耕して畑を作ったり、食べるものを得るため父母ともども必死に働いている。


「思い起こせば五歳の時……。『お前もそろそろ自分で食い物をゲットしろ』とか言われて家から叩き出され、『何でもいいから食べ物をもってくるまで家に入れない』とか言われた時の絶望感よ……! あれが僕の狩りデビュー……」

「それでお前一日かけて山中で野生馬を仕留めてきたっけ」

「儂らもっと小さな獲物を想像してたフゴ。っていうか山菜でも摘んで来れば充分って思ってたフゴ」


 あの時食べた桜鍋の美味しさを僕は一生忘れないだろう。


「その後だって、家の周りを開墾して畑作ったのは僕だぞ。山一つ潰したんだからな!」

「一つだろうと山を丸々潰すな……!」

「あんな広大な農地。儂ら家族だけじゃとても管理しきれねーフゴ」


 一ヶ月がかりの大作業だったのに。

 結局開墾したほとんどの農地は雑草ぼうぼうとなって野生に還りました。


「今日の誕生パーティーのご馳走だって! 祝われる当人の僕が用意したんじゃないか! 大変だったんだぞドラゴン狩ってくるの!」

「世界に七匹しかいない究極生物を狩ってくるな……!」

「コイツが一匹狩ったから残り六匹フゴ……!!」


 事ほど左様に、我が家族が生きるために僕は多大な貢献をしていると自負しております。

 だからこそ親の脛齧りでは断じてない!

 独立のために追い出されるなどお門違いというものです!


「息子よ……。本当のことを言わないフゴ…………?」

「本当のこと?」

「お前が、この家を出ていきたくない理由フゴ」


 静かに問うてくるオヤジ。

 ……。

 そんなこと、決まってるじゃないか。

 たしかの僕には、まだ言っていない、この家を出ていきたくない本当の理由がある。

 それは……。

 口に出そうとしたところで、パタパタとこちらに近づいてくる足音。


「にーちゃ! にーちゃ!」「にーちゃ! 風呂入った!」「遊んでー!」


 僕の半分ほどの背丈もない可愛い可愛い女の子たちが複数、僕へ駆け寄ってくる。


「にーちゃ! おたんじょーび、おめでとー!」「おめー!」「おめー!」


 今のところ六名。

 全員僕の可愛い妹たちだ。あの結婚生活十年を越えようともイチャラブが留まることを知らないアホ夫婦が毎年ポコポコ生み落とす可愛いい可愛い妹たちだ。

 あんなアホのようにイチャつくオークとバルキリーである。生まれる子供が僕一人だけなどあるはずがない。


「おー、おー、よしよしよしよし! 一緒に遊ぼうなー。今日の誕生パーティーのご馳走は美味しかったかー?」

「おいしかったー!」「ドラゴンおいしかったー!」


 そうかそうか。

 喜んでくれてよかった。リクエストに応えてドラゴン叩き殺してた甲斐があったというものだ。


「にーちゃ大好きー!」「あたしも、にーちゃ好きー!」


 なんて愛らしい生き物たちなのだろう。

 そうだ。この家にはこんなに可愛い可愛い妹たちがいるのだ。

 こんな可愛い妹たちを残して独り立ちなどできるものか!!

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