28 父母の教え
僕の名はゴロウジロー。
オークとバルキリーとの間に生まれたハーフオークだ。
父方のオークについては説明飛ばすとして、母方の種族バルキリーは、別名戦乙女とも呼ばれる天界の上位種族。
なんでも女しか存在せず、神の尖兵となって神のために戦うのが仕事。生涯戦いに明け暮れ、例外なく全員が、純潔のまま戦場に散るのだとか。
そんな中あるはずのない例外が、僕の母さん。
オークであるオヤジと普通に出会って、普通に殺し合い、恋に落ちて結婚した。
その存在意義から、異性愛などという感情を持ちようもないバルキリーがどうしてオヤジに恋をしたのか?
それは母さん本人にしかわからない葛藤を経た上でのことだろうが、その心の変遷を元にして、僕にこう言い聞かせてきた。
『子を成すのに必要なのは愛だぞ。溢れても注ぎ続けるぐらいの大量の愛があって初めて、究極無敵の戦士を孕むことができるのだ』
それは子供への愛情か? それとも子の元となる配偶者同士の愛情か?
恐らく両方だろう。
母さんは口で説明するよりも率先して態度と行動で僕を愛してくれたし、オヤジとも愛し合った。
その結果として僕がいる。
オーク数万人も、天界人数万も容易く全滅させ、その中で抜きんでた剛者である『七凄悪』や『七神徳』をも容易く捻り潰し、竜とも互角に渡り合う僕が。
そんな僕を見て……。
* * *
「やっぱり愛って必要だと思いません?」
「よくわかりません!」
ライレイは、キッパリと言った。
「ですがつまり、ゴロウジロー様が最強無敵なのは、愛をもって生み育てられたからだと仰りたいのですか!?」
「まあ、そうだけど……!」
そこまで明言されると照れると言うか……。
「だから、強い子供を産みたいというキミたちが、レイプでそれを達成しようというのが納得できない。本当に強い戦士を生み育てるには、二つとないものを作り上げるのと同じような熱意と根気が必要だ。その土台こそ愛だ!」
オヤジと母さんは、僕に掛け値なしの愛情を注いで育ててくれたし、また互いに愛し合う姿を僕に示すことで、他者の愛し方を教えてくれた。
そして愛を理解できない者はゴミのように殺さなければいけないということも。
「キミたちは僕のことを最強というが、ならば何が僕を最強たらしめたかというと、両親から貰った愛情こそがそれだ!」
「しかし、互いにオーク軍、天界軍の最強軍団長であらせられたご両親の血統や、その中に宿る『憤怒』と『正義』の力も……」
「そんなものはおまけだね」
僕は即座に言い切った。
旅立って初めて知ったが、オヤジはオーク軍最強と謳われた『憤怒』軍団の軍団長。そして母さんは天界軍で『正義』を司る最強戦士だったそうな。
しかし僕にとっては息子の前でもイチャイチャしやがるアホ夫婦であるだけだ。
「だから僕はレイプなんかしない。愛もなく、女性の意思を踏みにじる行為など、僕が両親から受けてきた教えに唾を吐きかけるものだ。そんなことをしている他人を見たら、僕は必ずソイツを殺すし、僕自身がそれをするなど絶対ありえない」
「なるほど、そういうことなのですね……!」
僕の力説が通じてくれたのか、ライレイは神妙な顔でうつむいた。
「強い戦士を生むためには、強い親同士を掛け合わせるだけでいいと思っていました。それがこれまでのオーク全体の通念というべきでしたから」
「それが違うんです。ラブ イズ パワー」
他の人が言えば「世迷言を」と一笑に付されるところだろうが、これまで幾度となく圧倒的強さを見せつけた僕の言葉だからこそ真剣に受け止められているのだろう。
「ゴロウジロー様の主張は、おおむね理解できました。私もメス化したからには、可能な限りの強い子供を生み育てたい。そのための方法があるというなら試せるだけ試したい」
メス化する前からそうであったが、ライレイは真面目さんだ。
「ですが私は、愛というものがいまいちよくわかりません。敵の掲げる『七神徳』の一つでもありますし、むしろ毛嫌いしていました。そんな私が愛を獲得し、戦士育成のために使いこなせるまでに至るにはどうすれば……」
と言ってる最中もライレイは、僕と抱き合って、時折僕の髪を撫でつけたり、首筋に鼻を埋めてスンスンしたりしていた。
それを傍から見守って、もはや外野みたくなっているリズやヨーテは……。
「少なくともアタシらは……」
「『七凄悪』の『嫉妬』の心は獲得できそう」
オーク娘たちの闇が深くなっていった。
……ふむ。
だがそう言われても僕自身、恋愛経験など皆無の恋愛初心者。
人に教えられるほど大した知識もない。
あるとすれば、幼き頃より間近で見せつけられてきた両親の、激甘夫婦生活を見様見真似することぐらいか……。
「じゃあ、やってみるか」
「え?」
見様見真似というヤツを。
* * *
打ち合わせを済ませて配置につく。
前の方ではリズ、ヨーテを始めとしたたくさんの女の子たちが並んで観覧モード。
いわば七万九千人の超満席。
その前で行われる、主演、僕とライレイによる……。
「演目、僕の両親のモノマネ」
「わー」「わー」
会場からまばらな拍手が散った。
さてここから僕は、あのクソ憎たらしいオヤジだ。役に入りきらないと。
「トントントン」
と口でノック音を発声。
同時に虚空を拳で叩きノックのジェスチャー。
「ガチャ。ガハハー、今帰ったぞ愛しのハニー!」
「お、お帰りなさいませゴロウジッ……!? じゃなくてご主人様!」
そして母さん役のライレイ。
やや棒読み感が残りながらも、教えたセリフをちゃんと覚えていた。
「会いたかったぞー、会いたかったぞー。我が愛しの女よー」
「も、もー、ちょっと狩りに行って来ただけじゃないかー。寂しん坊のご主人様めー」
ここまで原文ママ。
そして本物の我が両親夫婦と同じように、互いに両腕を広げ合って突進。
ヒシッと抱き合う。
「でも私も寂しかったー! だってご主人様がいないんだもの! ご主人様のいないこの家は、すべての灯かりが消えたかのようー!」
「僕……、いや儂だってー、外を歩きながらお前のことを忘れたことはなかったよー! この尻も! このおっぱいも!」
と言ってオヤジはよく母さんの尻や胸を触っていた。
やっぱり根っこはオークなので肉欲も濃い。
「ひゃうんッ!? もうご主人様ったら! でも私もこうしてご主人様に触られたかった! 何故ならご主人様が好きだから!」
「僕……、儂だって好きだぞー! 好き好き好き……!」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……!!」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……!!」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きすキスキス……!」
「キスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ……!」
「キスキスキスキスキスキス!! んっちゅ~~~~~」
「~~~~~~~っぷはぁッ!?」
よしここまで!
さすがにこれ以上は互いの身がもたない。
やっぱり初心者では完全再現は無理で、オリジナルの六割程度と言ったところか。それでも初めてにしては上出来だ。
我が両親の狂態をトレースしたことで、ライレイにも何か得るものはあるだろうか。
肝心のライレイは、ハード演目のためか腰砕けになって肩で大きく息をしていた。
「何か……、何かまったくわけのわからないものを、やらされていると言った感じでした……!」
感想を述べるライレイ。
「でも、何か物凄く、キュンキュンしました……!」
そうか。
ライレイが楽しんでくれたなら何よりだ。




