26 勝ちて宴を
戦いは終わった。
怒りを発散した『正魔のメイス』も元の大きさに戻り、背に仕舞う。
その前にふと、地上を見下ろした。
あの不快な天界軍が誇示していた大量の人骨。それらはヤツらが慌てふためいて逃げる際、残らず投げ捨てていった。
今頃は重力に引かれ、大地にばら撒かれていることだろう。
それでいいのかも知れない。彼らも眠るなら、自分たちが生まれたこの大地の上がいいだろう。
一時、祈りによって心を無にし、それから地上へと降りた。
* * *
再び邪悪の山の頂へと降りる僕。
バルキリーの翼による飛行能力を持つ以上、何処に降りてもよかったが、ここに僕の帰りを待っている人たちがいた。一応。
ライレイと、リズと、ヨーテ。
「…………」
「…………」
「…………」
やはり、いずれも浮かない顔をしていた。
僕の隠された半分、バルキリーである母さんのことを知れば、こうなるのではないかと思っていた。
彼女たちオークにとって、天界軍は怨敵。
しかも酌量の余地なく憎むべき相手だというのは、今さっき全滅させたクズどもからも一目瞭然じゃないか。
僕自身は、僕や妹たちを一心に愛し育ててくれた母さんが、あのクズどもとは違うと確信できる。
しかしライレイたちにとっては、どれも同じ天界人だ。
僕の中に半分流れる血を、彼女たちが憎んだとして誰もそれを責められない。
これまでは慕ってくれたのが、まったく反転してしまうこともありうる。
僕と彼女らは、ある種の緊迫感をもって向かい合うが……。
「「「……抱いてッ!」」」
別にいつもと変わらなかった。
「凄いですゴロウジロー様! 元々強いのはわかっていましたが、こんなにもメチャクチャ強いなんて!」
「『七凄悪』と『七神徳』の掛けあわせなんて無敵じゃない!」
「これは益々、良オスの確信……! 子種は全部ウチのもの……!」
やはりというか、彼女らオークにとっては強さこそが正しく、その前では多少の倫理観は些事らしい。
「そして……、ありがとうございます!」
「え?」
鼻息荒く迫ってくるライレイ。
「天界軍を蹴散らしてくれて。アイツらに殺された他種族の人たちも、きっと喜んでくれていると思います。私も胸がスッとしました。ゴロウジロー様は、私たちの救世主です!」
「…………」
「きゃッ!?」
思わずライレイを抱きしめてしまった。
僕はここまで人から嫌われることに恐怖していたのか。それともライレイに褒められたことで自分が正しいことをしたと信じられたからか。
とにかく嬉しかった。
「あーッ!? この中隊長また抜け駆けしてッ! ちょっとゴロウジロー、抱きしめるんならアタシも抱きしめてよ!」
「辱めるなら公平に……」
仕方ないのでリズとヨーテも一緒に抱きしめた。
女体のぬくもり、柔らかさが、暴威の戦いが終結したことを実感させた。
* * *
さて。
「じゃあこれからどうしようか?」
元々僕は旅の途中。
ライレイたちと偶然出会ったことで彼女らの任務に同行し、とりあえず色々やった。
邪悪の山を目指し、友軍と合流し、山に巣食う竜を追い出して、襲いくる天界軍を破った。
そこで彼女たちの任務も無事終了。
やることが途切れてしまったというわけだ。
「ゴロウジロー様! 是非とも私たちと一緒に来てください!」
ライレイの鼻息がまだまだ荒い。
「オークの都、オークラへと行きましょう! そして私たちと共に凱旋するのです!」
「今回の任務って、実質ゴロウジロー一人で片付けたようなもんだから、そうしてくれないと逆に困るわ」
「全軍女体化したことも説明できない……」
三人はこぞって、オーク軍の本拠地らしい都への同行を求めてくる。
「そうでなくとも、私たちはもうゴロウジロー様のものなんですから! もう一生離れませんよ!」
「そうよね、仮にゴロウジローが都に行かないんなら、アタシたちがゴロウジローについていくだけよね」
「移動型大ハーレム……」
わかったわかった……。
「とりあえず行こう。そのオークの都とやらへ」
僕の旅の目的は、妹たちを脅かすかもしれない危害を前もって処理すること。
強さのみを倫理とするオーク族も大概だが、それに輪をかけて天界軍の害悪は見過ごせるものではない。
これらを何とかするために、まずはどちらか一方でもその中枢を見ておくべきだろう。
「やったー! ありがとうございますゴロウジロー様!」
またライレイが抱きついてきた。
なんだかこの子と抱き合うことが日常と化して来て、まるでウチのオヤジと母さんみたいだ。
「よし、じゃあ……」「せっかくだし……」「いよいよ、ここで……」
ん?
「「「レイプしてください」」」
またそれか!?
結局そこに行きつくのかキミたちは!?
「だって、すべての任務が無事完了したんですから。あとやるべきことと言ったらこれだけです!」
「次世代の戦士作りはオーク族の急務なのよ! メス化したからには一時だってこのお腹! カラにしとくわけにいかないんだから!」
「そして目の前には世界一優良な子種……。躊躇する理由なし……!」
三人ともこれまでにない前向きさだ!
どうしたものかと困っていたら、遠くの方からドドドドドドド……、と。
このけたたましい音は、足音?
しかもたくさん、七万九千人分の……。
「ゴロ様ー!」「山の中腹から見てました!」「やっぱり凄すぎですー!」「こうなったら是非ともゴロ様の子種を!」「最強オークを孕みたいですー!」「是非とも無理やり手籠めにしてー!!」
麓で女体化させたオーク軍七万九千人の美少女たちが山頂まで登ってきた!?
狙いはもちろん僕の遺伝子!?
山頂だけにヘタな逃げ場もなく、全方向から登り迫ってくる女の子たちに、僕はなすすべもなく飲み込まれるのだった。




