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24 天の半身

「ゴロウジロー様が……!?」

「半分はバルキリー? バルキリーって天界人の一種でしょ!?」

「別名、戦乙女。天使とは別の種族だけど天界人としてはけっこう有力」


 地上から見上げるライレイ、リズ、ヨーテも困惑を隠しきれない。

 当然か。ハーフオークであることは前々から言っていたが、オークと何のハーフであるかは明かしていなかったから。

 彼女たちが怨敵とする天界人の血が半分混じっていると知られれば、彼女たちの僕への認識も変わるかもしれない。

 それを恐れていたのか。


 だが今は、別の相手に向き合う。

 憎んでこようが、疎んじてこようが、どうでもいい相手に。


「雑種……! オークとバルキリーの……!? バカな!?」


 天使ハムシャリエルは、額に青筋立てて激昂する。


「汚らわしいオークと交わる恥知らずが、天界人にいるというのか!? そんなことあるものか! そんな汚らわしい……! 汚らわしい、汚らわしい、汚らわしい! なんと汚れた女なのだ、そのバルキリーは! 許しておけぬ、殺さねば! 絶対に殺さねば!!」

「許されないのは、お前だ」


『正魔のメイス』の柄頭を突きつける。


「この世には、殺すことより殺さないことの方が罪になる者がいる。まさにお前のことだハムシャリエル。親と故郷を侮辱する者には、死の制裁がなくてはならない」

「ふざけるな! 制裁されるのは貴様の方だ!!」


 ハムシャリエルは一振りの剣を引き抜き、僕のメイスを真似て切っ先を突き付け返す。

 それと同時にヤツがコレクションと称した何百という人骨は、鎖を離され地上へと落ちて行った。


「貴様は汚れだ! 貴様ほど罪深い汚れには出会ったことがない!! 今すぐ浄化してやる! 肉片一つ残らず浄化してやるぞ!!」


 喚き散らしながら、手にした剣を激しく振り回す。

 威嚇か何かのつもりだろうか?


「見るがいい! 我が『勇気』の称号と共に授かりし聖剣アンドレイア!! 我が『勇気』に感応してすべてを斬り裂く断罪の剣よ! 貴様のもつ不格好な棍棒など足元にも及ばぬわ!!」


 自慢げに掲げられる剣は、曇り一つなく銀色に光り輝く。


「一太刀では殺さぬ。薄皮一枚ずつ寸刻みにし、これ以上ない苦しみを味わいながら死なせてやる。貴様は生まれてきたこと自体が罪なのだ! 故に貴様は、生まれてきたことを後悔して死なねばならぬ!」

「血曇りも刃毀れもない、綺麗な剣だな」

「媚びても遅いわ! 血を流せェェェェッ!」


 ハムシャリエルが剣を振り上げ、僕へ突進してくる。

 空中の激突。

 僕は相手に合わせてメイスを振り上げ、剣と鎚がぶつかりあい、そして……。


 粉々に砕け散った。

『勇気』の剣が。


「なぁにぃぃぃぃぃーーーーーーーーーーーーーッッ!?」


 メイスの衝撃に、聖剣は一瞬たりとも耐えきれず破砕された。

 それも曲がったり折れたりすることなく粉々に。

 それだけ双方の腕力と武器強度に差があったということだろう。

 ハムシャリエルのヤツにとっては自慢の聖剣がいともたやすく砕け散ったのは悪夢でしかなかろう。

 しかし真の悪夢はこれからだ。

 砕けた聖剣の破片は、砂利のように小さく、その数は無数。しかもそれらは砕かれた衝撃によって、相応の勢いをもって飛んでいく。

 飛ぶ方向は、当然砕いた方から砕かれた方へ。剣を持っていたハムシャリエルの全身めがけて、剣の破片が襲い掛かった。


「んぎゃああああーーーーーーーーーーーーーーーーッッッ!?」


 腕に、胸に、顔全体に、無数の破片が浴びせかけられ突き刺さる。

 ハムシャリエルは、辛うじて残っていた剣の柄も痛みに耐えかね捨て放ち、悶え苦しみ、のたうち回る。


「痛い痛い痛い痛い痛いぃぃ~~~!? 何故だぁ! 我が『勇気』の剣アンドレイアがぁ!? 雑種オークごときにぃぃーーーッ!?」


 僕はかまわず第二撃。『正魔のメイス』を横方向へ振り薙いだ。

 それだけで大天使の左腕と左の翼が容易く弾け飛んだ。


「ほんげぇ~~~~~~~ッッ!?」


 これでもう勝負の大勢はついたと言える。

 武器を失い、体の一部まで失ったハムシャリエル。

 その一方的な流れに、天に漂う数万の天界軍も身動きが取れずにいる。


「なんでだぁ……!? 我は『七神徳』……、『勇気』を司る聖戦士の一人だぞぉ……!? それが何故、雑種オークごときに……?」

「一つ聞く、フリッカという名に聞き覚えがあるか?」

「へぇッ!?」


 心当たりがあるのか、ハムシャリエルはすぐさま表情を変えた。


「何故貴様がその名を!? 最強聖戦士『七神徳』の中でもさらに最強と讃えられた。『正義』を司るバルキリー……。ッ!? バルキリーだと……!?」


 やはりそうか。

 母さん。昔のことはまったく話さなかったからなあ。

 でもそんな母さんの気持ち、コイツらを見ていたらわかる気がしてきた。


「まさか、まさか、まさかッ!? 貴様を産んだ汚れしバルキリーとはあの『正義』のフリッカ様だというのか!? 十数年前に敵オークとの死闘の中消息を絶ち、以来杳として行方の知れなかった……!!」

「ついでに教えてやるが、そのフリッカ様が戦っていた敵オークのことは知っているか?」

「ヒェッ!?」

「お前ら『七神徳』に相対するオーク軍の『七凄悪』。その中でも一番強いと言われた『憤怒』を司る戦士なんだってよ。ウチのオヤジは」

「はんごえッ!?」


 もはや驚きすぎて、ちゃんとした言葉も出ないらしい。

 そしてそれ以外の者たちも……。


「ライレイ……。聞いた今の?」

「はい、リズ様……」

「もしかしてアタシの耳がおかしくなったのかもしれないんだけど。ゴロウジローなんて言った?」

「お父様は『憤怒』のイチロクロー様。そして母親はフリッカという『七神徳』の『正義』を司るバルキリー、だと……!」

「つまりこういうこと? ゴロウジローはオーク軍歴代最強の戦士と、天界軍歴代最強の戦乙女との間に生まれた……!」

「最強と最強の掛け合わせ……!!」


 どうやらそういうことらしい。

 旅立ちの際、母さんが僕に言ったことの意味がやっとわかった。


「お前は『正義の怒り』だ」と。


 つまり僕は母さんの『正義』、オヤジの『憤怒』。

 それぞれがもつ『神玉』と『竜玉』の力が遺伝し、混じり合ったものをもって生まれた。

 それが『正義の怒り』。

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