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20 罪の根源

「「「シャベッタアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」」」


 ありのままの事実に、ありのままに驚くライレイたち。

 でも僕だって驚きだ。まさか竜が言葉を理解するなんて。


『何を驚くかいのう? 我ら竜は、おんしらオークより遥か太古から生きておる。そのワシらが言葉も介さぬ愚かな生き物と、本気で思っとるんかのう?』


 思っているというか、想像したこともなかった。

 竜という生物があまりに別次元の存在すぎて、それがどういうものか真剣に考えたこともなかった。

 竜は、とりあえずもう戦闘の意志はないらしい。

 というかコイツにとってはさっきまでの大炎も戦闘と言えるのか? ただ単に小アリを息で吹き飛ばそうという程度の気分ではなかったのか?

 ヤツは、その眠たげな視線を横へ流す。

 僕の後ろの女性たちを見ている。

 まずはリズ。視線が合っているのに気づいて彼女は「ヒッ!?」と短く悲鳴を上げた。


『……ルシファー』


 次にヨーテを見る。


『それにマモンより力を与えられた者かのう』

「え?」


 何を言っているのかわからないが、さらに僕へ視線を向ける竜。


『そしておんしはサタンの力を……。いや、少し違うの。別のものが混じっておる』


 ますますわけがわからない。


『しかしオークどもよ。何の故あってワシにつっかかる? おんしどもが殺し合うべき相手は天より湧きし小バエども。そのためにおんしどもに力を与えた。その力をワシに向けるなど、忘恩のそしりを免れまいのう?』

「な、何を言っているの!?」


 こらえきれずにリズが声を上げた。


「アタシたちがアンタから力を貰った? そんなことあるわけない! もし『七凄悪』の力を言っているのなら、この力はオーク王から頂いたものよ! アンタら竜からじゃあ、絶対にない!」

『なんと、あの矮小なる愚物め。事実を隠しておるのかのう。ならば真実を教えてやるかいのう』


 竜は言った。


『オークども、おんしらの言う「七凄悪」の力は、ワシら七竜がくれてやったものじゃ。七匹の竜がそれぞれに絞り出した力の結晶を、ある一人のオークに預けた。それがおんしらの言うオーク王じゃ』

「なん……ですって……!?」

「そんなの初耳……」


『七凄悪』のメンバーであるリズ、ヨーテも困惑を隠しきれずにいた。

 一体何の話が始まるのか。


『始まりから話してやるとするかのう。ワシら竜は、それこそ数千年前から生きておる。この地上にはワシら以外にも数多くの生き物が湧き、そして滅びていったが、ワシらを超える生物は一種たりとて現れなんだ。おんしらオークもその有象無象の一種じゃ。しかしある時異変が現れた』


 異変。


『天空より扉が開き、神の使いと称する連中が現れたんじゃ』

「天界軍のことか!?」

『そうじゃ、ヤツらはこの世界を不浄な魔界と罵り、地上に生きる者を悉く殺し始めた。浄化だと言ってな。そのために数多くの種が滅びた。コボルト、フェアリー、エルフ、ホビット、ゴブリン、オーガ、獣人、人間。すべて天界軍の手によって残らず殺され、今はない』


 それだけ多くの生命が、天界軍によって滅ぼされたというのか。

 天界軍は何故そんな非道なことを……?


『ヤツらにとってはこの世界そのものが汚れなんじゃよ。汚れをすすぎ、清めることは善行であり、汚れた生命を殺すことそのものも善行じゃ。そして我ら竜もまた、ヤツらの標的となった』


 天界軍は、竜にも挑んだという。

 しかしそこはさすがの地上最強生命。天界軍と言えども竜には傷一つ付けられず、逆に何千という天界の戦士が返り討ちにあって消し炭となった。


『しかしヤツらは諦めんかった。何千何万と殺そうが、しつこくワシらを付け狙ってきてのう。ウンザリしたワシらは辺りを見回してみた。そして目に留まったのがオークじゃ。地上には、もはやその種しか残っておらなんだ。度重なる天界軍の虐殺に、類稀なる戦闘力と繁殖力を持つオーク以外は消え去っていたんじゃよ』

「地上をオーク軍が席巻しているのには、そんな理由があったのか……!」

「何よ天界軍。ますますもってクズじゃない」

『ワシらは一計を案じ、最後の生き残りであるオークに力を与えることにした。オークが力増し、代わりに天界軍と戦ってくれたらワシらも手間が減って大助かりじゃからのう。ワシら七竜はそれぞれの力を抽出し、結晶化させ、宝珠を作った』

「宝珠……」

『それぞれの竜が力を移した「竜玉」じゃ』


 傲慢竜ルシファー。

 強欲竜マモン。

 怠惰竜ベルフェゴール。

 暴食竜ベルゼブブ

 嫉妬竜リヴァイアサン。

 色欲竜リリス。

 憤怒竜サタン。


 それぞれが力の一部を搾り出し、結晶化させた『竜玉』。


『「竜玉」をその身に埋め込まれた者は、ワシら七竜の力――、そのほんの一部を自在に操ることができる。ワシらは全七つの「竜玉」をオーク族の代表と名乗る者にまとめて与えた』

「アタシ……、心当たりがある!」


 リズが言った。


「アタシが『傲慢』の軍団長になった時、就任式としてオーク王に拝謁したんだけど。その時オーク王は引退する前『傲慢』軍団長の体から珠のようなものを抜き出して、アタシの中に埋め込んだの。シャイニング・プライドのような『傲慢』の力が使えるようになったのは、それから」

「ウチも、同じ感じ」


 両軍団長から話の裏がとれた。

 では僕も?

 僕の力は、オヤジと母さんからそっくりそのまま受け継いだものだ。

 もし『竜玉』とやらがオークの体内を渡り歩いて強化させてきたものだとしたら。でも僕には心当たりがない……!


『強き者よ。おんしの体内には「竜玉」とも「神玉」とも違うまったく別の力が宿っておる』

「『竜玉』と……、しん、ぎょく?」

『その双方が混ざり合い、同時に反発するかのごとき力。元となるものと同じであり、まったく別の力じゃ。よくわからんし、興味深くもある』


 そうか。

 よくわからないが、とにかくオヤジの中にある『憤怒』の『竜玉』が僕の中に移ったわけではないんだな。

 それはそれで安心できた。オヤジには故郷に残した妹たちを守ってもらわなきゃいけないんだから、力を失っていたりしたら超困る。


「あの……、『神玉』というのは……?」

『おんしらの宿敵、「七神徳」の力の源じゃ。天界軍の長ヴォータンがみずから左目をくりぬき、砕いて、七つの欠片に分けた。それを子飼いの部下七人に一つずつ与え、自分の力を移し替えた。その神の目の欠片が「神玉」。神の力を与えられし戦士たちが「七神徳」』


 怠惰竜ベルフェゴールは、眠気を払うように、一度欠伸する。


『さて、ではそろそろこちらの質問に答えてもらおうかのう。矮小なるオークどもよ、ここへ何しに来た? 何ゆえ大恩あるワシに鎚を向ける?』


              *    *    *


 もうすぐここへ天界軍の軍勢がやってくる。

 この山を迎撃の橋頭保にしたい旨、説明が終わると竜は面倒くさそうに身を震わせた。


『なるほどのう、ここが戦場になるか。ならばワシはしばらくどこぞへ退散しておくことにするか』


 つまり、この山を前線基地として使わせてくれるということか。

 竜の介入がないなら天界軍を迎え撃つ上でとても助かるが……。


「あの……、一緒に戦ってくれたりしない? 天界軍が竜にとっても迷惑なら……?」


 恐る恐るヨーテが聞いたが、返事はすげない。


『甘えるでないオークども。何のためにおんしらに力を与えたというのか? おんしらが肉壁となって、ワシらの安穏を守ってくれるからこそ力を分け与えた意味がある。何よりワシは怠惰竜ベルフェゴール。面倒くさいことは何より嫌いじゃ』


 自慢げに言うことか。

 竜は翼を広げた。


『それにのう、ワシの助けなど借りるまでもなく、そこな強き者が一人いれば、天界軍など木っ端であろうよ』


 最後に意味深なことを言い残して、竜は飛び去っていった。

 何やら様々に予想外なことを吹き込まれたが、竜の危険を排除してこの山を確保するという最初の目的は果たした。


 次なるはいよいよ主敵、天界軍を迎える番だ。

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