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19 邪竜現る

「ギャアァァ!? 出たあああッ!?」


 ライレイ、リズ、ヨーテの三人が、僕の体から転げ降りる。

 噂の竜はたしかに実在していて、今や僕らの目と鼻の先に鎮座ましましていた。

 巨岩のごとき巨大さに、全身覆うウロコも岩石のごとき硬さと色。

 これでは巨大な岩山と見紛えて、相当接近しないと気づかないだろう。そして気づいた時には運の尽きというわけだ。


「りりりり、リズ様! よよよよよ、ヨーテ様! 出番ですよ、早よ何とかしてください! ふだん軍団長って威張り散らしているんですから、威厳を見せつける絶好チャンスですよ!」

「うっさいわアンタこそこういう時だけ持ち上げやがって! でもいいわ! 期待に応えて軍団長の実力見せてあげるわよ! 目ん玉かっぽじってよく見てなさい!!」


 威勢はいいが、ビビり慌てているのが慣用句のおかしさからよくわかる。

 リズは、竜に向けて光り輝く指をさした。


「シャイニング・プラァーイド!!」


 そして放たれる『傲慢』の閃光。

 女体化してもその威力だけは衰えず、的もデカくて狙いやすいため閃光は竜に命中した。

 しかし快進撃はそこまでだった。

 閃光は竜の巨体に阻まれ、岩に砕ける波濤のごとく飛散した。

 当然、竜にはダメージらしきものはない。


「ヒィッ!? まったく効かない!?」

「引っ込んでて役立たず。ここはウチが……!」


 のっそりと前に出る『強欲』ヨーテ。


「『強欲』の力で、あの竜の力を奪い取る。ゴロやんには禁止されても、生き残るためには仕方なし」

「そんなことできるんですか!? 是非ともお願いします!!」


 そんな彼女たちのやり取りが鬱陶しいとでも言うのだろうか。

 竜は、一度ググッと喉を鳴らすと、口から盛大に炎を吐き出した。

 炎は、何故か上へ向けて放たれたため僕たちを襲うことはなかったが。それでも凄まじい勢いで天空いっぱいに炎が広がる。

 天を焦がさんばかりとはこういうことを言うのか、その高熱もすさまじく、リズの『シャイニング・プライド』の数倍はあった。

 僕らは余熱に煽られただけで危うく焼け死にそうだ。


「あっつッ!? あつつつつつつつ!?」

「ゲホッ! ゲホッ!? ……熱した空気を吸い込んだだけで、肺が焼けるッ!?」


 その様を見て、ヨーテは腰を抜かしてへたり込んだ。


「これ無理……! こんな力を収奪したら、さっきのゴロやんの時みたくキャパオーバーでブッ壊れる……!」


 オークと竜との差が、これほどまでに絶望的なものだとは。

 もしオーク軍が全員女体化することなく正面からぶつかり合っていたら、出る犠牲は数千程度では済まなかっただろう。

 ライレイたちも既に、戦意を失い泣き顔になっている。


「どどどど、どうしよう! 逃げ、逃げないと……!」

「やだぁ! 子供一人も生まないまま死にたくないぃ!!」

「メスになると、自己保存の本能が優先されると聞くけど、本当なんだぁ」


 恐らく天に向かって放たれた炎は、咳払いのようなものだったのだろう。

 喉がスッキリし、気兼ねなく竜は僕らに向けて大炎を吐きかけてきた。

 勢いといい範囲といい、今さら走っても絶対逃げられそうにない。山裾まで一気に黒焦げになるだけだ。


「「「ひぃぃーーーーーーーーーーーーーッ!?」」」


 誰もが死を覚悟する、そのタイミングで……。

 ガシャランッ! と。

 炎が砕け散った。


「はッ!?」「ふッ!?」「ほよん?」


 驚き戸惑う三人を背に置いて、彼女らを庇うかのように僕、参戦。

 背中に下げていた『正魔のメイス』を握り、グリップを確かめるように二、三度素振り。


「皆は下がっていろ。あとは僕がやる」

「あとは……って、正気ですかゴロウジロー様!? 逃げましょう! やはりオークでは竜に歯が立たない……!」


 逃げる。

 そんなことこそ無理な相談だった。

 竜にとっては僕たちが走る何倍もの速さで広がる炎を、それこそ山の麓まで飛ばすことができる。

 既に咳払いではない本気の炎が、再びその口より放たれた。


「ぎゃあーーーーーーッ!? 死ぬぅーーーーーーーーーッ!?」


 死を覚悟したようなリズ辺りの悲鳴。

 一方僕は、迫りくる炎に対してメイスを一振り。

 ガシャラン! とまたしても、大炎が砕け散った。メイスに砕かれ炎が散った。


「えええッ!?」


 それを目の当たりにして、ライレイだかが困惑の声を上げる。


「すまないな竜よ。僕も、お前の攻撃を全部受けきる、と言うほど自信過剰にはなれないから、弱者の戦いをさせてもらう」


 さらに放たれる炎。

 さらに砕かれる炎。

 本来なら一吹きで、僕らを十回は殺せるだろう大炎も、メイスの柄頭に砕かれて決して僕らには届かない。

 僕が砕いているのは、正確には炎じゃない。僕の面前にある空気だ。

 限界以上の筋力で空気を消し飛ばし、真空の壁を作ればいかなる業火であろうとも消え去らずにはいられない。

 あらゆる攻撃が空気を伝わってやってくる以上、僕の空気砕きに阻めない攻撃はない。


「ゴロウジロー様……! たしかお父様の教えで、敵の攻撃はすべて受け切れと言われてたって……!」

「つまりアイツにとって、正面から敵の攻撃を躱したり捌いたりすることすら、弱いヤツの戦い方になるってこと!?」


 竜の口から炎が出続ける限り、メイスを振るい続け、炎を砕く。

 いかに竜と言えども長時間炎を吐き続けるのは不可能だろう。呼吸の問題もあるし。

 息が続かず、炎がやんだ時こそ反撃の契機。その眉間めがけてメイスを叩きこんでやる。

 そして予測通りに炎が止まった。今だ!

 メイスを振り上げ、飛びかかろうとしたところへ……。


『……やれやれ、久々の来客かと思ったら、とんでもない珍客じゃのう』


 振り下ろそうとしたメイスを慌てて止めた。

 なんだ今の声は!?

 こんな荒廃した山の中、いるのは僕とライレイとリズとヨーテ。言葉を介しそうな生き物はそれぐらいのものだ。

 あといるとすれば……。

 目の前の竜。


『そうじゃとも、言葉を発したのはワシじゃとも』


 竜は言った。


『ワシは地上を総べる七匹の邪悪竜が一匹、怠惰竜ベルフェゴールである』

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