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18 魔山登頂

 邪悪の山。

 そこは竜の住処だった。


 山体が発している異様な邪気は、実は竜が発していたもの。それによって他の生物を縄張りに踏み込ませないようにしていたのだ。


「竜は非常に凶悪な生物で、地上最強とも言われています。世界に七匹しかおらず、そのすべてが災害級の強さの持ち主。遥か昔、竜の怒りに触れて滅ぼされた国家や種族は数多かったとか……」

「あまりの強さに天界軍も手出しができないのよ? 世界で一番迷惑な生き物だわ」


 ライレイの説明に便乗して、リズまで不平を垂れる。


「オーク王は竜に対応するため、ウチとリズの軍団に出撃を命じた。あとついでにライレイちゃんとこにも」

「いい加減そこを念押しするのやめてくれませんか!?」


 天界軍との戦闘中、もし竜が暴れ出して介入でもしようものなら、二軍のうち一軍を差し向けて抑えに回そうということらしかった。

 つまり竜は一匹で、襲いくる天界軍に匹敵する脅威だっていうことか。


「しかしそれだとあまりに非効率過ぎないか? 竜一匹のために軍団一つが身動き取れなくなるなんて……!」


 それだけ竜が恐ろしい相手だということはわかるが、それならいっそ戦場を別に移せばいいのではないだろうか? わざわざ危険な場所で戦ったりせず、天界軍が山を下りてきたところを迎え撃つとか……。

 僕がその辺りのことを指摘してみると、ライレイたちは憤然と抗弁してきた。


「そんなことできるわけがありません! オークは強さこそ誇り! 危険を恐れて退いたと言われては敗北以上の恥辱です!」

「そうよそうよ! 最強オークであるゴロウジローの口からそんな弱気な案が出てくるなんて、失望よ! お詫びにアタシをレイプして!」


 何でも性交渉に繋げようとするの感心しませんな。


「……それに加えて、空に開いたゲートから出てくる瞬間こそ天界軍がもっとも隙を晒す好機。空間転移直後は状況把握がままならないし、狭いゲートをくぐるために密集陣形になってる。敵に先制ダメージを与えるためにも、その瞬間を見逃すことはできない」


 比較的冷静なヨーテすら、危険を避けるという選択肢を考えていない。

 それはある意味で、オークの本能と言えるものかもしれなかった。

 戦うために生き、強さのみを信奉する。戦闘種族としての飽くなき戦いへの欲求が、戦略として至極真っ当な「鋭を避けて惰を打つ」道を毛頭からなくしている。


 このままではオーク軍は、邪悪の山に住まう竜に突貫して大いに疲弊したあと、天界軍との戦いに臨まなければならない。

 あるいはそれが相手の狙いなのか?


「まあ、どっちにしろ今のキミたちには、竜と戦うことも天界軍と戦うこともできないけどね」

「「「あーうー……!」」」


 主要三人娘が揃って崩れ落ちた。

 でも、その原因となったのは僕であること間違いない。

 繰り返し言うことになるが、その責任は取らなければな。


「じゃ、まずは行ってみますか」

「え? どこにです?」

「竜のところにだよ」


              *    *    *


 そうして僕は、邪悪の山へ足を踏み入れた。

 この山のどこかに住むという竜を探し出すためだ。

 ライレイたちの話によると、天界軍がやってくるのはもう少し経ってからということなので、それまでに竜のことは何とかしたい。

 幸い僕は、故郷の周囲にいくつもの山があって、何度となく登山し、時には潰したりもしたので登山はまったく苦にならなかった。

 ただ……。


「ゴロウジロー様……! 待ってください……!」

「歩くの速すぎ……! メス化して体力の落ちたアタシたちのことも考えないさいよ!」

「ウチ、歩くの自体久々……!!」


 ライレイ、リズ、ヨーテの三人が、僕の後を追ってきている。

 危険だから女の子たちは麓に置いて来て、山に入るのは僕一人でいいと言っておいたのにな。

 結局コイツらだけは強引について来てしまった。


「ふざけないで! 天界軍討伐も、竜退治もアタシたちに与えられた使命なのよ! それをおいそれと他人任せにしたんじゃ、『傲慢』軍団長のアタシのプライドが許さないわ!」


『傲慢』であるだけにプライドを大事にするリズだった。


「使命は手柄とワンセット。手柄は欲しい、絶対に。フヒヒ……」


 そしてヨーテの方も『強欲』ぶりは健在だ。


「私は、常にゴロウジロー様のお傍でお仕えすると決めましたから! たとえ地獄の果てであろうともご一緒させていただきます! ……わわッ!?」


 などと喋りながら歩くライレイは、案の定足元が疎かになって、歪な山道に蹴躓いて転ぶ。


「大丈夫か?」


 慌てて引き返すと、ライレイは膝小僧から鮮やかに赤い血を流していた。


「申し訳ありません……! オスだった時は、この程度でケガをすることなどなかったのに。情けない限りです……!」

「仕様が変わったんだから仕方ないだろ。今のキミは女の子なんだから、綺麗な肌が傷つかないよう一際気を付けないと……」


 そう言って僕は、消毒のために傷口をベロベロ舐める。


「ひゃんッ!?」

 

 手早く応急処置を済ませてから僕は、ライレイをヒョイと抱え上げた。

 やはり女の子になっただけあって、相当軽いな。


「ゴロウジロー様!? いけませんそのような! ゴロウジロー様のお荷物になるような……!」

「その足じゃ、これから先を登るのに全身に負担がかかる。いいから黙って担がれてなさい」


 ライレイの柔らかい体が密着するのは悪い気分でもないしね。


「も、申し訳ありません……!」


 謝る声がどこか嬉しそうだった。


「「………………」」


 その様子を見守る二人。


「ああー! 痛い痛い! 足の健が切れたー!!」

「持病の癪が……!!」


 リズとヨーテが唐突に苦しみだした。

 当然というかメチャクチャ芝居臭い。


「あーこれは足の骨が折れたなー! 粉々だなー! 歩けない! これじゃ歩けないよー!!」

「医者から余命三ヶ月と宣告され、もはや指一本動かせない……!!」


 重症すぎるわ。

 ウソつくにしても、もう少し匙加減を意識して。


 まあ、彼女たちがどうしてほしいかは察しがつくので、仕方なく右腕にライレイを、左腕にリズを、背中にヨーテを背負って最強登山装備の完成。


「ちょっと二方! 何をゴロウジロー様の負担になってるんですか! ケガなんてウソだとわかり切ってるんですから、自分で歩いてください!」

「うっさいわ中隊長の分際で! アンタだけいい目見させて堪るもんですか! アタシらだって抱っこされてお姫様気分味わいたいの!」

「スイスイ、楽ちん。全身密着……!」


 姦しい荷物たちだ。

 そして何より、肌触りが柔らかくて気持ちよすぎる。


「この際だから言わせてもらいますけどねライレイ! アンタ正妻面が著しすぎるのよ! 一番最初にメスにされたからって! 軍団長のアタシたちに遠慮しなさいよね!」

「ゴロウジロー様にお仕えするのに階級肩書きは関係ありません! そもそもそんなのメスになった時点でご破算じゃないですか! 私はゴロウジロー様への献身一筋で、寵愛を得ていく所存なのです!」

「愛するより、愛されたい……!」


 さて、そろそろ……。


「皆、降りて」

「「「え?」」」


 僕の一言に三人が同時に固まった。


「すみませんゴロウジロー様! 煩いのがお気に障られましたか!?」

「ごめんなさい! もう騒がないから! 静かにするから!」

「この特等席を失いたくない……!」


 三人は勘違いをしているが、そういうことではない。


「到着した」

「え?」「えッ?」「ええッ……?」


 そう、僕たちは目的地へと到達したのである。

 目の前には、巨大な竜が立ちはだかっていた。

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