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16 女人大隊

「せーの」


『正魔のメイス』で地面を叩く。

 すると、前の一撃で起こした地割れの底から剣のようにとがった岩盤が隆起し、それに引っかかって転落したオークも生還してくる。

 さすがに生命力旺盛だな。


「さらに、せーの」


 再び『正魔のメイス』を振り下ろす。

 ただし今回叩いたのは地面ではなく、空気だ。

 したたか打たれた空気は、ある種の振動波を発して空間を伝わる。

 振動は、ある種固有の揺れ幅を持っていて、波長が合うものと共振して通常以上に揺さぶりをかける。

 限界以上まで揺さぶられた物質は、みずからの強度を越えた振動に耐えきれなくなり自壊する。

 今回の場合、共鳴したのはオークたちの玉だ。

 そんなわけで共鳴震動を引き起こした玉は次々と崩壊し、『傲慢』『強欲』両軍合わせて七万六千の玉が残らず砕け散った。


「ゴロウジロー様ァーッ!?」


 またライレイに怒られた。


「何するんですか!? 事のついでみたいになんてことしやがるんですか!? どうしてゴロウジロー様はオークの、その、アレを執拗に砕こうとするんですか!? そして実際砕くんですか!?」

「ライレイたちを襲うおうとしたのは軍団長だけじゃなくて下っ端も同じだし、それにこれまでの経験からいって、もうオークは吟味なしに殺すか玉砕いていいと思ってさ。でも、さすがに遠慮会釈もなしに撲殺するのは可哀想でしょう?」

「だからって遠慮会釈もなしに砕いていいことにはなりません! それになんですか今の技は!? どうして空気を叩くだけで何万人ものオークを砕いちゃったんですか!?」

「その前に三千人も砕いたから、コツぐらい覚えるよ」

「コツを掴めばできるような技なんですかーッ!?」


 真面目なライレイは苦労性だなあ。


「さすがアタシのゴロウジローだわ!!」


 と横から長身の美女が抱きついてきた!?

 女体化しても僕とほとんど身長差のない芸術体型。その正体は『七凄悪』の一人。『傲慢』のプリズマー。……だった。


「プリズマー、という名は今となっては色気がないわねえ。……そう、リズとでも呼んでもらおうかしらゴロウジロー? さん、ハイ!」

「り、リズ?」

「ワンモア!」

「リズさん?」

「ありがとう! アタシも大好きよゴロウジロー!」


 僕何も言ってませんけど!?

 オークってなんで女体化すると色々ガラッと変わるの!?


「……性別の変化は、基本的にリセットだから」


 いまだ僕の足にしがみついている幼女が言う。

 こっちはコヨーテル。『強欲』を司る『七凄悪』だった。

 まあ、既にお馴染みだが、かつての面影など欠片もない無垢な少女だ。見た目には。


「……ヨーテ」

「はい?」

「ヨーテがいい。コヨーテルだと可愛くない……」

「そうですか」

「……メス化は、オークにとって再出発の儀式。戦士であることを辞めて、戦士を産み育てる役目を担う。それまで戦士として積み上げてきた経験や功績も全部ゼロになって一からやり直す」

「別人と言ってもいいってこと?」

「そうかも、ウチもこれまで『強欲』の力で奪ったもの全部なくした。……一からやり直し」

「またヒトから奪ったりしたら、僕怒るぞ?」

「問題ない。今ウチが欲しいのは一つだけ……」


 そう言ってギュッと僕の足を抱きしめるヨーテ。

 一体なんだ?


「それでそれでゴロウジロー!!」


 またリズが『傲慢』の使徒らしい堂々さで僕に迫ってくる。


「いつアタシのことレイプしてくれるの!?」

「しませんよ!!」


 またこのパターンかコイツら!?

 メス化するとレイプされることしか考えないのか!?


「……ダメ。ゴロウジローの精は、全部ウチの。独り占め」

「ヨーテさん!?」


 僕を挟んで、リズとヨーテのデコボココンビがバチバチ火花を散らす。


「あーら、ヨーテさんてば独占宣言なんて、さすが『強欲』。欲深すぎるんじゃない?」

「……リズこそ。こんなにたくさんゴロウジローの奴隷がいるのに率先してモーションかけるなんて、まさに『傲慢』。身の程知らず」


 奴隷とか言うな!

 ここにいる女の子たちをそんな風に思ったことは一回もないよ!?


「だから言ったでしょう、ゴロウジロー様」


 ライレイが呆れ口調で言った。


「メス化したオークにとっては、自分を負かしたオスの子を産むことが最重要急務なのです。それは本能の命令でもありますし、社会通念でもあります。ここにいるオーク七万九千人は全員ゴロウジロー様によってメス化されましたから、全員ゴロウジロー様のお子を欲しているのです!」

「七万九千?」

「七万九千です!」


 またまた御冗談を。


「ダメよ! ゴロウジローの子を最初に産むのはアタシよ!!」

「リズさん!?」

「アタシは確信したわ! ゴロウジローこそオーク史上最強のオークよ! そのゴロウジローに、『七凄悪』のアタシがメスとなって結ばれれば、その間に生まれる子こそ最強!! アタシは最強オークの母になって見せるわ!」

「だからそれが『傲慢』。ゴロウジローの精はウチのもの。最初の子供も二人目も三人目もウチが産む」

「ヨーテさん!?」


 コイツも大概『強欲』ですが!

 さらに軍団長の対立に煽られて、他の女の子たちもヒートアップしていく!


「リズ様もヨーテ様もズルいです!」「私も最強オーク産みたい!!」「メスになったからにはそれが究極目標でしょう!!」「とにかく試しにヤッてみましょう!!」「ゴロウジロー様! 私を抱いてください!」「ちょっと! 『傲慢』や『強欲』は引っ込んでなさいよ!」「そうよ! ゴロウジロー様は私たち『憤怒』の軍団長様なのよ!」


 七万九千人が! 七万九千人が一斉に押し寄せてくる!

 さすがに収拾がつかなくなって、さながら戦場のようだ。

 元々コイツら戦争しに来たわけだが、別の意味の戦争になっている!


「……だから言ったじゃないですか」


 騒動から避難しつつ、一緒になって逃げるライレイから批判がましく言われた。


「オークをメス化させるというのはそういうことです。女の存在意義を求める別の生き物になっちゃうんです。ゴロウジロー様仰いましたよね? 何かを自分のものにするなら、背負う責任が必要だって」

「言ったような……?」

「責任、取ってくださいますよね?」


 一緒に逃げながら、ライレイに睨まれた。


「当然私も、ゴロウジロー様のお子を産みたいですから。無理やりはダメなんですよね? しっかり愛と一緒に注いでくださいね?」

「……ハイ」


 混乱はまだ収まりそうにない。

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