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15 オークの聖女

「お待ちくださいゴロウジロー様! お二人を殺してはなりません!」


 ライレイが身を挺するので、僕はメイスを止めざるをえなかった。


「プリズマー殿もコヨーテル殿も、オーク王より任命された『七凄悪』! お二人を殺すのは、オーク軍にとってこれ以上ない損害です!」

「そんなこと知るか。コイツらはしてはいけないことをやった」


 僕は表情を変えず、決然と言った。


「キミやキミの部下の女の子たちを侮辱し、嘲笑い。あまつさえ乱暴しようとした。今となってはキミたちも僕の大事な女性だ。その大事な女性たちに、心にも体にも掠り傷一つ付けさせない。付けようとすれば叩き殺す」

「ゴロウジロー様……!」


 ライレイが怯むように見えたのは何故か。


「今ここでコイツらを殺さなければ、僕は男として大事なものを失う。ヒトの女に手を出したバカは必ず殺すという証明だ。その証明がなくなれば、バカは『コイツの女には手を出していい』と勘違いする。何故ならそれがバカだからだ。僕はそんなバカどもにキミたちを傷つけられたくない」


 ライレイは、肩を小さく震わせていた。

 それは恐怖によるものか。


「ゴロウジロー様……。アナタの愛は苛烈すぎます。その愛で包まれる私すら焼き尽くされてしまいそうなほどに。……でも、私もどうしようもない女です。そのことに気付いた瞬間、これ以上ないほどの幸せを感じました」


 幸せすぎて震えているというのか、彼女は。


「私は決めました。今この瞬間をもって、『憤怒』の軍団の軍団長代理を辞めます。メス化して既にその資格は失っていましたが、ここで改めて宣言します。そして私の全部をゴロウジロー様に捧げます」


 そう言って体全部を、僕に重ねてくるライレイ。


「心も体も未来も、全部アナタ様のものです。私はアナタ様の所有物です。だからお願いです。プリズマー殿とコヨーテル殿を殺すなら、私のために殺してください」

「「!?」」


 這いつくばる二人が反応する。


「ゴロウジロー様は、私を守るためにお二人を殺すのです。私のせいで死ぬのです。二人を殺した罪は、ゴロウジロー様には背負わせません私が背負います!!」

「ちょ! ま! それ何の解決にもなってないフゴ!」

「オレたちが死ぬのは変わりないフゴ! 死にたくないフゴぉ!」


『傲慢』『強欲』両団長が泣き叫ぶが、僕はそれどころじゃなかった。

 僕も僕で、ライレイが見せつける覚悟に痺れてしまっていたからだ。

 オーク軍に所属する者として規律を守る。僕の女として僕の愛を受け止める。その板挟みに会いながら、双方を立たせるためにみずからを焼き尽くそうというのだ。

 なんて女だ。


「なんていい女だ……!」


 僕は自分の頭をボリボリ掻きむしると、その手でライレイの肩を抱き寄せた。


「プリズマー、コヨーテル」

「「はひィッ!?」」

「立て」


 僕が命令すると、双方ともヨロヨロと立ち上がった。


「ライレイに免じて、僕はお前たちを殺さないことにした。彼女にお前たちの命なんぞを背負わせるわけにはいかない」


 僕自身の意志で殺すのならいくらでも殺していい。

 こんなクズの命など背負った傍から捨ててやるのだが、ライレイがどうしても背負うと言うのを止めることはできないし、彼女に負担を背負わせるようなことは僕にはできない。

 ライレイの、己が身を挺した作戦勝ちだ。


「彼女に感謝するんだな。死にたかったのなら感謝しなくていいが」

「いいえ! 感謝しますフゴ!!」

「ありがとうございます! 本当にありがとうございますフゴ!!」


 もはや、みずからを律する気力の欠片もないようだ。


「しかし、お前たちを殺さなかったら、僕の男としての立つ瀬がない。さっきも言ったようにな。やはりお前たちには死んでもらうのが望ましい」

「「フゴォッ!?」」


 あちらを立てねばこちらが立たぬ。

 難しい問題だ。


「そこで、僕とライレイの面子が一緒に立つ妥協点を取ろうと思う。お前たちは殺さないが、死んでもらう」

「ど、どういうことですかフゴ……?」


 こういうことさ。

『正魔のメイス』を掬い上げるような軌道で突き上げる。二回。


「フゴォ!?」

「フギグゴッ!?」


 めぎん、めぎん。

 右足と左足の間にあるものが、潰れ砕ける手応え。メイス越しに伝わる。

 男としてのお前たちは、今この時死ぬんだ。


              *    *    *


 こうして『七凄悪』の軍団長二人も、玉を潰され女体化してしまいましたとさ。


「これが……、アタシ……!?」


 携帯していた姿見を凝視して動かないプリズマー。


「……美しい」

「おい」


 女体化してしまった自分にまんざらでもないようだ。

 変質前の長身が僅かに面影を残して、身長は今まで見てきた女体化オークの中でも一番だ。

 そして痩身だった名残りもあって、他の女の子ほどバインバインではないがむしろ全体的に引き締まり、均整のとれた芸術的なプロポーションになっている。


「さすがアタシね! 『傲慢』の悪徳を持つアタシは、メスになっても最高最美! すべてのオスをイチコロよ!」


 うーん……。


「ゴロウジロー様……」

「何だい?」


 ライレイが責めるような口調で言う。


「何であの人たちまでメス化させちゃったんですか?」


 妥協案としてね?

 二人を殺したらライレイが自分を責めてしまうけど、見逃したらまた女性に乱暴を働くかもしれない。

 だから生かしたまま二度と女性に乱暴できないようにするには、玉を潰すのが一番かと。


「それでアイツら自身も多少反省してくれたら……、とも思ったんだがな」

「新しい自分に胸躍りまくってるじゃないですか」


 ちなみに、僕の足元には、身長の低い少女が立っていた。

 コヨーテルだ。

 女体化した彼女は、また度を越えて縮小化し、見た目幼女と変わらないほどだ。

 僕の足にしがみついて離そうとしない。


「この子も一体何だろ? さっきまで殺そうとしてた僕から何で離れないの?」

「侮ってはいけませんゴロウジロー様。メス化したとはいえ『強欲』の『七凄悪』。その本質が変わったとは思えません」


 ライレイの忠告が的確すぎて怖い。

 だって見下ろして幼女の瞳を覗き込むと、その奥に「コレ、ウチの」という輝きがギラついていて怖い。

 そしてプリズマーの方もまだ鏡の前で騒いでいた。


「いいわ! この脇から腰に掛けての微妙な曲線ラインがサイコーだわ! 背中のラインもチェックしたいけど……! 鏡が二枚ないと見れない! 仕方ないわゴロウジロー! 背中を撫でて感触を確かめてくださらない!?」

「ウチの……、ウチの……」


 状況は混乱を深めた。

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