11 美女軍団
「ゴロウジロー様ぁーーッ!!」
ライレイに泣きながら叫ばれた。
その頃には玉砕き作業も一段落し、栄えある三千ボール目をたった今粉砕したところだった。
一人につき二つだから六千ボールか?
「なんてことを! なんてことをなさるのですか!? 我ら『憤怒』の軍団が、瞬く間に全滅、一人残らずメスに……!」
「だってしょうがないじゃん。僕のライレイを襲おうとするんだもの」
そしてそんなヤツらは僕の可愛い妹たちにとっても有害であるに間違いない。
ここで殺しておくことに何も間違いはない。
「それでもライレイにとっては可愛い部下だろうから、玉を砕くところで留めておいたんだよ。大いなる妥協だよ?」
「ですがしかし……! うぅ、そんな暴挙を短時間で完遂させながら、ゴロウジロー様自身にはかすり傷一つない……! やっぱり最強です……!」
まあ、オーク軍団側から少なからず反撃もあったけど、そよ風程度にもならんかったな。
そうなった以上、当然僕の周囲には三千人の美女軍団が広がっているわけで、やっぱりオークの玉砕くと女体化するのは何かの間違いじゃなく本当だった。
さっきまでのむさ苦しさがウソのよう。周囲には柑橘系の匂いが漂い、収穫期のミカン畑にでも迷い込んだ気分。
どいつもこいつも巨乳巨尻。
「どうするんですかぁー!? 全滅ですよ! 『憤怒』の軍団、今日にて壊滅です! せっかく全盛期の軍団復活になると思ったのに……。軍団最期の日になるなんて思っても見ませんでしたよ!!」
ついにオイオイ泣き出してしまうライレイ。
こりゃいかんと慰める。
「落ち着くんだライレイ。僕も自分のしたことには責任持つよ」
「責任?」
「キミたちのことは僕が守ろう。何があろうとキミたちを危険な目にあわせない。男の強さは女を傷つけるためじゃなく、女を守るためにあるんだ」
「ゴロウジロー様ァ!!」
感極まって僕に飛びつくようにして抱きつくライレイ。
それが他の女の子たちの嫉妬心を刺激したのか、一斉に巻き起こる三千人分のブーイング。
「ライレイ様、独り占めよくないブーブー」「ゴロウジロー様は皆のものブーブー」
「うっさい! お前らもうブタ鼻じゃないクセにブーブー鳴くな!!」
とにかくも三千人のオーク軍団は消滅し、ここに三千人の美女軍団が誕生した。
なるようになれ。
「…………とにかく、今はオーク王から下された使命を果たさないと。メス化したってやるべきことは変わらないわ」
「マジッすかライレイ様!?」
「ムチャでしょ! メス化した私たちじゃ達成能力不足でしょう!」
「死にに行くようなもんですって! これが美人薄命か!」
「美人薄明! メス化したからさっそく使ってみました!」
なんか急に揉めだしたぞ?
そういえば、この軍勢たちは何をしているんだ?
こんな何もない野っ原に野営して。どこかへ行軍中だったのか?
「ゴロウジロー様、我々『憤怒』の軍団は、オーク王よりの命令で、ある場所へと向かっているところだったのです。その途中にアナタ様に遭遇したのです」
「ある場所?」
「それはとても恐ろしい場所で、足を踏み入れた者は生きて出ること叶わぬとまで言われています。ですが私たちは、そこに天界軍を迎え撃つ橋頭保を作らなければいけないのです。そこは……」
* * *
「ここがその、邪悪の山か……!」
ライレイたちの行軍に加わって、はや三日。
僕たちの前に、禍々しき大山がそびえ立っていた。
緑の絶えた禿山で、山全体を覆う灰色が死の瘴気を漂わせる。
「この周囲一帯で一番高い山です。それもダントツに」
ここ三日ですっかり僕の副官然となってしまったライレイが、説明してくれる。
僕らの背後には当然のように三千人の美女軍団が付き従っていた。
「天界軍は、常に空から攻め込んできます。我々オークはそれを迎え撃つために空にもっとも近い場所に布陣し、敵が地上に降りて広がる前に先制を加えるのです」
「空にもっとも近い場所……、高所か」
「そうです、高所つまりは山。情報により、今度の天界軍の侵攻はこの辺りから来るとわかっています。天界軍を撃退するためにも、あの邪悪の山の頂にてヤツらを迎え撃たなければなりません」
なるほどそういうことか。
たしかに危険そうな任務だな。
オークたちが天界の何ぞやいう相手と戦い続けていることは聞いているし、だからこそ僕の両親は出会って結婚した。
天界軍というものが何者かわからないし、そもそも危険生物オークを根絶やしにする目的で旅立った僕には関係ないことだ。
が、今となってはライレイたちを見殺しにするなんて絶対できないし。
「わかった。じゃあ僕はあの山に登って天界軍が来るのを待とう。キミたちはどこか安全な場所に隠れていてくれ」
「ゴロウジロー様お一人で!? いけません! 殺されに行くようなものです!」
「僕が負けると思う? 天界軍が何十万人来るか知らないけど」
「…………」
ライレイが「認めたくないけど認めざるをえない」みたいな顔になった。
「ですがゴロウジロー様、ことはそう単純ではありません。天界軍が攻めてくるまでにやらなければいけないことが数多くあります」
「え?」
「まず、この命令を受けたのは我々『憤怒』の軍勢だけではありません。悔しいですが今の我々には、単独で任務を言い渡されることなどまずないのです」
真実、ライレイの美しい顔からは悔しさが滲み出るかのようだった。
オヤジに放り出されてから『憤怒』の軍団は没落の一途だったんだっけ。
「今回の作戦は、『傲慢』『強欲』『憤怒』の三軍団によるものと決まっております。それぞれ別ルートを行軍し、山の麓で合流する予定です」
「なるほどね、全部合わせるとどれくらいの数になるの?」
「七万九千です」
「え?」
「七万九千です。『傲慢』の軍団三万二千、『強欲』の軍団四万五千、それに我ら『憤怒』の軍団が三千です」
桁が違うじゃないか。
まさかそれも没落が原因で?
そう思っていたら、視界の左右両端から、何かが波のように押し寄せてくる。
眼前の邪悪の山の山体同様、麓の平地も草一本生えぬ荒野、その地肌を塗り潰すように広がっていく塊は……、オークの集団?
「現れました。『傲慢』の軍団と『強欲』の軍団です」