09 愛と繁殖
9/19、本作がハイファンタジー日間ランキングのBEST5に入りました!
これも読んでくださる皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございます!
これからも楽しんで読んでいただける作品作りを頑張っていきたいと思います。
それでは、本編をお楽しみに下さい!
肉体は精神の影響を受けるが、精神だって肉体の影響を受ける。
ケガや病気などで一定以上に苦痛が続くと、人はイライラと怒りっぽくなるし、酒を飲んで酔っ払えば気が大きくなり楽しくなる。
それらに比べれば、男から女になるなんて段違いの肉体変化なのだから、精神にも影響が出ないはずがない。
オスオークだった時は武人というべきだったライレイも、女体化したことで剛直さが貞淑さにシフトチェンジしている。
恐らく芯の部分は同じなのだろう。しかし芯から投射された光が、「男として振る舞うか」「女として振る舞うか」、透過するレンズを替えることで、まったく違う色となる。
とにかく僕は、拒絶されたことで傷心のライレイを慰めるために七転八倒、四苦八苦しなければならなかった。
普通に戦ってた時より数倍大変。
「ライレイ。よく聞きなさい。僕はハーフオークなんだ」
「ハーフオーク?」
「この体の半分はオークだが、もう半分には別の種族の血が流れている。だからキミたち純粋なオークと同じようで、色々違うところがある」
腹筋バキバキだし、髪の毛フサフサだし。
それにきっと僕は玉潰されても女体化しないだろう。バルキリーたる母の血を受け継いだ結果だ。
「体のことだけじゃない。価値観もそうだ」
「価値観?」
「何が尊いかを決める判断基準というべきか。とにかくハーフオークである僕は価値観も、キミたち純粋なオークとは違う」
「それはどう違うのでしょうか? 私のことを孕ませてくれないのと関係があるのでしょうか!?」
割と必死そうに食いついてくるライレイ。
そんなに僕の子種が欲しいのか、と若干及び腰になる僕。
「僕は、女性を乱暴したりはしない。それは僕にとってもっとも下劣な行為だ」
「ええッ!?」
「それは生き物に誇りを失わさせ、最下等の獣へと堕とす行為だ。だから僕は女性に乱暴しないし、それをしようとするヤツは殺してもいいと思っている。……いや、殺さなければならない。絶対にだ」
だから男だった時のライレイたちを皆殺しにするつもりだったのだし。
「でっ、ですがゴロウジロー様! それではアナタ様はどうやって子孫を残してゆくおつもりなのですか!?」
「そうですよ! メスを屈服させないと孕ませられないじゃないですか!!」
「まさかゴロウジロー様は独身主義者!?」
ライレイだけでなく周りの女の子(元オーク)まで騒ぎ出す。
いや、そんなことないけど。
僕だって一応あのアホ夫婦に、孫の顔を見せてあげたいと思っているけど。
「でもやっぱり、そういう行為には…………!」
「ん?」
「愛がないと」
「愛ィ!?」
なんかライレイが予想以上に激しく反応した。
「何を言い出すのですゴロウジロー様! 愛などと! 汚らわしい!」
「汚らわしい?」
しかも想定外の拒否反応。
何故愛が汚らわしいんだよう?
「『愛』とは、『七神徳』の一つではないですか!!」
「しちしんとく? 何ソレ?」
「ご存じないのですか!? 我らオーク軍最大の宿敵、天界軍。その最強たる七人に与えられる称号。『信仰』『愛』『希望』『正義』『節制』『知恵』『勇気』です!」
「えぇー……?」
「我らオーク軍における『七凄悪』と対なす者。現在は両陣営とも『正義』と『憤怒』が姿を消して各六人となっていますが……。ゴロウジロー様ほどの強いオークが敵の美徳を口にするなど、あってはなりません!!」
『正義』と『憤怒』……。
なんかすっげえ心当たりあるけど、今はどうでもいいや。
「なんでさ? セックスには愛が必要不可欠だろう? 愛のないセックス、イズ空虚」
「そんなこと知りません! とにかく! ゴロウジロー様がそういうおつもりであれば、私もこの体を許すつもりはありません! 私は凌辱以外でゴロウジロー様に触れられることを断固拒否します!!」
また言ってることなんかおかしい。
女性側が拒否しているのに無理やり性交渉するから凌辱なのであって。それ以外を拒否するけど凌辱なら拒否しないというなら凌辱の根拠が成り立たず。ならば凌辱以外で相手の意志を無視して関係を迫れば……。
……わけわかんなくなってきた。
「何故そんなに凌辱されることに拘るの?」
「当り前です! オークにとって力こそすべて! だから力ずくで奪い取らなければ意味がないのです!」
それはオークの価値観だ。
そしてハーフオークである僕には別の価値観があると説明したばかりだ。
彼女にはそれをわからせなければならない今ここで。
愛はパワーだ。
愛があれば無敵なのだ。
僕がその信念を断固として曲げないということを彼女に理解させなければ、これから彼女と良好な関係を築くことはできまい。
そこでやるべきは知っている。
生まれてこのかた散々アホ夫婦に見せつけられてきたことで自然に覚えた、四十八のイチャコラ技を今、使う時。
「どうしました? 黙っていたって、私は自分から凌辱されたりなんて……、いッ!?」
ガバリとライレイのことを抱きしめる。
オヤジと母さんが日に最低二十回は行っている基本技、ハグだ。
体を密着させることで、互いの存在を感じ合うのだ。
「ゴロウジロー様!? 何ですそんな!? ただ抱き絞めるだけなんて、そんな子供のままごとのような……!」
しかし動揺は声からしっかり聞き取れる。
ここは追い打ちをかけて……!
「ライレイ、好き」
「えええッ!?」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き、好き~!!」
ウチのアホ夫婦が日に最低五十回はしあっているもう一つの基本技、囁き。
言葉にすることで、好意を明確化させる効果があるのだ。
「ゴロウジロー様! お戯れを……! そんなこと関係ないです! 私はアナタ様の、強さだけを……!」
「強いだけでは強くなれないのだ。好き好き好き好き……!」
「そんなこと知りません! だから、あの……、好き?」
「好き」
「好きです……! ゴロウジロー様……! 好き、好き好き好き好き……!」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……!」
「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き……!」
いつの間にかライレイの方からも、両手を僕の背中にまわして抱きしめ返してきた。
堕ちるの早い。
っていうか抱きしめ返す力強い。あまりに直向きなパワーで僕の方が押し負けてしまいそうだ。
二人力いっぱい抱きしめ合ったあと、何かを確認するように体を離し、見詰め合う。
「ゴロウジロー様、一生、お傍に置いてください……!」
「こちらこそよろしくお願いします……!」
あれ?
なんかおかしい気がしたが、抱擁してからライレイのことが十数倍可愛く見えるようになってしまったので、どうでもよくなった。
愛は無敵だが、無敵の愛が打ち倒すのは自分以外とは限らない。
「「「「「「「…………ッ!!」」」」」」」
なんか周りからウズウズした気配が伝わってきた。
「ゴロウジロー様凄いです!」「それアタシたちにもやってください!」「ライレイ様ばっかりズルい!」
控えていた他の女の子たち(元オーク)が、我慢の限界とばかりに一斉に飛びかかってきた!?
女の子の群れにもみくちゃにされる僕。
四方八方から押し寄せるおっぱいの柔らかさにもみくちゃにされながら、「当初の目的は何だっけ?」と考えられずにはいられなかった。