大好き…
いつものようにミリアに会いに行くと、教会の扉は壊されていた
「!!」
教会内の全てを探し回った
(ミリアが…ミリアがいない!?)
パニック気味な頭を落ち着かせて、もう一度教会をぐるっと見回した
扉は壊され、部屋は荒れていた
ミリアが連れ去られた可能性がわかると走り出した
ひたすら町中を探し回った
奴隷商までいったが見当たらなかった…
もう一度教会を探してみることにした
教会の中に人影があった
「誰だ!?」
「お前の探してるのはこの女か?」
ニヤリと汚い笑いを浮かべて振り返り足元に倒れている少女の髪をつかんだ父親だった
「ミリア!!…なんで親父がここにいるんだ!?」
「最近お前がおかしいから後を付けたら…ガキの癖に色気付きやがって」
気に入らなそうに掴んでいたミリアの髪を乱暴に放した
ミリアは意識を失っているのか動かない
「あんたには関係ないだろ!金だってちゃんと渡した」
「ちゃんと?わからないと思ってんのか?お前がこの女のために貯めてることぐらいわかってんだよ」
(くそっ!せっかくミリアの為に貯めたのに…こんな奴に渡せるかよ!)
「渡したくないなら、別にこの女を娼婦にでもするさ」
「なっ!?この野郎!」
沸々と沸き上がる殺意…
今までに感じた憎しみ、怒りなど比べ物にならない強い感情が支配していく
「それか奴隷商に売って、そっち系の貴族様にでも買ってもらえば金になるぞ!」
「ふざけるなぁー!」
怒りに任せて狩り用のナイフを抜いたたが、ミリアがいるため下手に動けなかった
それを嘲笑うように父親も剣を抜いた
「あはは、そんなにこの女が大事か!?」
「その子は関係ない!金なら全てくれてやる。だからその子に、ミリアに手を出すな!」
「王子様気取りかよ。」
「金ならここにある!」
ミリアの為に貯めたお金だが、ミリアが無事ならどうでも良かった
お金を袋ごと父親に投げた
「おぉ、たんまりあるじゃねぇか!今日はご馳走だな。」
「早くミリアを放せ!」
「そうはいかねぇ!こいつも売っぱらって一儲けよ!」
「話が違うぞ!」
「知らねぇよ。あんまりうるせぇとこの女殺すぞ?」
ミリアの頬に剣が当たり、赤い線ができた
ゆっくりと血が滴り落ちる…怒りに全身の毛が逆立つ
すでに理性などきかなくなっていた…あるのは黒い感情のみ
まるで闇を纏っているように全身を赤黒い魔力が包む───《魔力暴走》だ
感情に誘発され魔力が一気に燃え上がり、さながら魔物と化していた
「なんだ!?」
「ガァアーーー!!」
ただの咆哮だったが周りの物は吹き飛び、殺気にあてられる
「お…俺が悪かった!ほら、この女返すから落ち着けよ!な!?」
慌ててミリアを解放するが
何を言ってももうアルタナには理解する理性は残されていなかった
「な…んだよ!女返しただろ!女なんか他にもたくさん…えっ?」
一瞬の出来事だ
目の前から消えたと思うと男は自分の頭の無い体を見ていた
最後に見たのは、自分の頭を掴み殴りかかる鬼だった
(ルタ…やめて!そんなのルタじゃない!)
意識が戻ったミリアが見たのは、真っ赤に染まり、原形を留めていない何かを一心不乱に殴るアルタナだった
殴り続けている間にも魔力は燃え続けていた
「ルタ!お願いやめて!戻ってよ!」
軋む体を起こし、ルタに歩み寄る
「ルタ、もういいよ。誰もルタを傷つけない。だから戻って!このままじゃルタが死んじゃうよ!」
「グルゥアァー」
アルタナの暴走で教会はすでに崩壊を始めていた
ミリアは少しずつアルタナに近づいていった
足は震え息が苦しいが、力を振り絞りアルタナを抱き締めた
「ルタ…一緒に帰ろ?私はいつも笑ってるルタが好きだよ!」
「グアァー!!」
最後の咆哮により教会は完全に崩れ去った
意識が暗闇の中から覚める
「うっ!?…たしか…ミリア!!」
ミリアはアルタナの胸に手を当て何かを唱えていたが、アルタナに気づくと覆い被さる形で倒れた
「よかっ…た、まりょ、く、わたせ…た」
「ミリア!!」
慌ててミリアを抱き起こす
そこには真っ青な顔に脇腹には木の破片が突き刺さっているミリアがいた
既に大量の血が流れたのだろう
アルタナ達の回りには血溜まりができていた
「俺の…俺のせいだ!なんで…どうして…」
「ルタ…じゃ…ない…よ。」
「しゃべるな!絶対助けるから!絶対…助けるから!」
「…」
「『ヒール』『ヒール』『ヒール』!」
「ルタ、もぅ…いい…」
ミリアはルタの手を握り、微笑んだ
魔力暴走で既に魔力は尽きているが、それでもアルタナはがヒールを唱えるのをやめなかった
代わりに、涙を凝られることはとっくにやめていた
「わた…しは…ルタ、に…あえて、よかっ…た…」
「しゃべるなって!」
「わたし、は…しあわ、せ…ゴホッゴホ」
「ミリア!」
「ルタ…ゴホッ!」
「もう…いい!もういいから!」
どんどんと脇腹から血が流れだし、水溜まりを大きくしていた
『ヒール』を繰り返すが傷口は一向に塞がらない…わかっていてもやめられなかった
「きいて…ルタに、あって…すく、われた。だか、ら…の…ような、こを…けて…あげ、て…」
「わかった!約束するから…お願いだから…」
「ルタ…りが、と…だぃ、すき…よ…」
ミリアの手からゆっくりと力が抜け落ちた
「あ…あっあぁぁぁー!!」
(どうして!俺の大切な人ばかり奪うんだ!なんで!?誰か答えてくれよ!俺一人で何ができるんだ!?側に居てくれるんじゃ…なかったのかよー!)
朝日がさし始めるころ
教会から少し離れた丘の上には、ミリアの遺体を下ろし優しく口づけをする少年の姿があった