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季節は春。
春休みも終わりいよいよ高校生活も二年目に突入した。
始業式から一週間過ぎた後の休日、俺こと名執葉介は週課であるボランティア活動に勤しんでいた。
ボランティア活動……と一括りにするが、主な活動は地域のゴミ拾い。
それ以外にも老人ホームに行って介護を手伝ったり、公園の緑化活動をしたりとしたことはあるが、募集は毎週あるわけではなく、ほとんどがこのゴミ拾い。
十数人の参加者が集い分担して行うのだが、なかなかにこれが心地良い。ちょっとした運動にもなれば街も綺麗になる。
加えて朝早く活動するので、必然的に早起きが出来る。
休日だからと言っていつまでも寝てるようなダラダラとした生活を好まない俺にとっては、三文どころか五、六文は得してる気分になれるのだ。
動物が好きな俺は度々、献身的に捨て犬や捨て猫を拾ったりもする。
するのだが……。
「人間……だよな?」
流石に悩んだ。
疑問系になったのは、うつぶせで倒れているソレの風貌のせいだった。
背中に生えたギザギザの翼。頭に生えた二本の角。灰がかったその髪色は、少なくとも日本人のようには見えない。
「コスプレか何か……なのか?」
とにかく、道の真ん中で倒れていては危険すぎる。俺はソレを抱きかかえ、脇に寄せた。
「あのー、大丈夫ですかー?」
やはりと言うべきか、女の子だった。
男の子が女の子のコスプレをしているという可能性もあったが、十中八九女だろう。
身長は俺より少し低く、歳は……俺と同じくらいで十六だろうか。
目は瞑っているものの、その寝顔からかなり整った顔立ちと言える。
鼻筋はシュッと細く、切れ長の目。艶やかな唇はグロスを塗っている気配もないのに潤っていた。
肩まで伸びた灰色の髪は、軽くウェーブがかかっていてふわふわと柔らかい。
細身の体を包んだその服装は、全体的に紫を基調としていて、彼女の雰囲気を崩さなかった。
そして一番気になるのが、
「この翼と角……なんだけど、流石に本物じゃないよな」
そう思いつつも翼に手が伸びる。
ぎゅむ。
「んっ……」
……まず思ったのは、「思ったよりもゴム質だなー」とか、「ザラザラしてるんだなー」とか翼の感想よりも、
「今、反応した?」
今の声は、明らかに翼を触っての反応だった。いやいや、まさか。
確認するように、俺はもう一度手を伸ばす。
ぎゅむ。
「ん……」
ぎゅむ。
「んんっ……!」
ぎゅむぎゅむ。
「あっ……だめ……」
……どうも、いけないことをしている感覚に陥る。
だが、行為自体は特に不健全なことをしているわけではないので……。
そう思い、もう一度握ろうとする――――
「……何ひとの羽勝手に触っとんじゃボケ―ー!!」
「あだぁっ!?」
殴られた。グーパンで。
当たり所が良かったのか悪かったのか、危うく失神しかけた。
俺の顔を殴った張本人は息を深く吐きながら右拳に余韻を浸らせている。
「何すんだよ!」
「それはこっちのセリフ! この私の羽をペタペタペタペタ触って! この私を誰だと思ってるの?!」
「いや、知らない」
「はっ! とんだ愚民ね。私のことを知らないなんて、相当な過疎地域に住んでいるようね」
いや、たぶんみんな知らないぞ。
「いいわ、教えてあげましょう。私こそは――」
少女は仁王立ちになり、すぅっと息を吸い、
「ケルベロス家一〇代目正統門番・リリフォード=オルトロスよっ!」
あ、この子、痛い子だ。
「どう? 驚いた?」
「うん。驚いた」
脳内お花畑で。
「これで分かったでしょう? 私の身分が」
「うん。分かった」
中二病だと。