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ダンジョン

ドリフターズ四巻発売したのいつだっけ……五巻でるけど、六月だよ……

重なり合う世界の果て、巨大な境界線に遮られようとも、人は食らい合う。

生きねばならない。死にたいものなどいないから。

足掻かねばならない。例えその他大勢を殺すことになろうとも。

結果に苦悩する意味はない。

罪は消えないのだから。

立ち止まろうとも、歩き出そうとも、過去は変えられないのだから。




大和国北部。ローマとの境界線近くに五人の泊まる宿屋がある。

町名は勝木とされているが、正式的な名前とは言いづらい。何しろかつての内紛でころころ変わり、ダンジョン攻略後に最近になって地図が発見されたため、町人に問えば三種類の名前でばらつきがある。そのうえその地図からも、なんとなくこの場所にあるから、この名前だろうというかなり適当な名づけであった。

ローマへの関所へと続く道路から少し外れたこの場所は、関所から道路を通れば対して遠くない場所に街があるため、細く走りにくい道路を通るこの町は寒村のごとく地味で過疎的な場所である。

良いところと言えば、海が近いところ?

町人はそう言う。つまりはたいしてよいところがないことは、住人も承知のことである。

ただこの町にも、ダンジョン攻略者。通称『攻略者』『発掘者』『自殺願望者』『進んで地獄に行くマゾ』と呼ばれる人々の施設はある。それだけ、ダンジョン攻略の需要があるということだ。

とはいえども、宿屋と同じく閑古鳥が鳴いているわけだが――。

五人組は突然やってきた。

「失礼いたします!」

剣士現れ、宮本ソフィアは施設の扉を開け放つ。ちなみに名前は最初、セイバーをご所望だったがどうみても人の名前ではないため、却下された。

じゃあ宮本武蔵!と主張したが、女の名前にしろよと総ツッコミをくらわされ、金髪なため、それっぽい名前として付けられた。つまり理由などない。

勢いよく放たれた扉の音に、びくりと受付の女性は肩を揺らす。腰に剣を引っ提げた女と、その背後にぞろぞろと引き連れて、受付の前へとぴんと、まるで背中に棒でも入っているかのような美しい姿勢で直立した。

「驚かせてしまったようですね。申し訳ない。今回は攻略者資格を得るための試験登録に来ました」

ちなみに口調は役作りである。和幸はすぐに面倒くさがると思っている。

他の魔法使いである撫子と、大盾使いのエリザも調子にのってやっているのが、彼の頭痛の種だ。

「え、あぁ……希望者ですか?」

「ええ、宮本そ……ソフィ……」

言い淀んだソフィアに、和幸が小さな声で教える。

「ソフィア」

「宮本ソフィアです!よろしくお願いします!」

あっけにとられつつも、受付なのだ、女性は業務を遂行し、一枚の紙を取り出した。

「あ、はい。えぇとそれじゃあこれに参加者情報を。お金は一人につき金貨一枚です」

「前払いで五枚を先に出します」

「あれ、四枚で大丈夫ですよ。自動人形は所有物扱いですから」

和幸はちらりとネクセルを見る。不思議だ、見た目は人間だというのにすぐに見破られた。

「わかりました」

ソフィアは懐から金貨四枚を取り出し、受付へと差し出した。

「はい、四枚たしかに。では書き終わり次第こちらへもってきてください」

五人組、ネクセル以外は頷いた。施設壁際に設置された机へと紙を持っていくと、置いてあった筆で書きこんでいく。

「ボールペン無いの?」

「無いか高価なんだろ」

エリザの疑問に、撫子が答えている間に、ソフィアの欄は終了した。

名前と年齢だけなので、時間は必要ない。さぱっと書きこんで提出する。

最後に書いた撫子が手に取り、受付へと向かっていく。

「終焉のときは来た!」

なにを考えてこんな役作りをしたのか、自分なのに自分がわからない。

「貴殿に我らの全てを記した書物を託そうぞ!」

「え、終わったんですね……?」

「是か非であれば、是である!」

「いただきます」

受付の女性は紙を手に取ると、流れるように視線を紙に這わせ、点頭した。

「はい、ありがとうございました。資格試験についてはこの冊子をご覧ください。半月後に行われますので、都のほうに遅れないようにお願いします」

「我に不可能などありはしない!だが感謝するぞ、人の子よ!」

冊子を受け取りながら、撫子はドヤ顔を放つ。

なんでこいつ自信満々なんだ?

和幸は恥ずかしくてたまらない。

撫子は和幸たちへと近づくと、涙目となって

「……反応薄い」

と言った。いや知らんがなと和幸は思った。

撫子は残念そうな表情を見せる。

「面白いと思ったんだけどな」

本体である和幸は死ぬほど面白くない。

和幸はいまだと思い、笑顔で薦める。

「じゃあ辞めるべきじゃない?」

「いや、もう少しがんばってみる」

なんでやねん。

どうしたものか、と助けを求めるように周囲を見回す。

ソフィアとエリザがにやにやと笑っていた。

確信犯だった。役作りでじわじわと和幸がダメージを受けているのに気付いていやがったわけである。

和幸は顎に手を当てて、どう説得すべきかと必死で考えていると、

「さぁて、どうする?一応一番低いダンジョンなら資格なしに行けるらしいけど。敵は逃げられる程度だってさ」

ソフィアがわざとらしく移動を提案する。どこまでも和幸にダメージを与えるつもりだ。

「茶葉を買います」

いつもの淡々とした口調だが、すごく四人の耳に印象に残った。発生源のネクセルへと自然と視線が集まる。

「茶葉を、買います」

「俺たち水でも大丈夫だけど……」

他三名が同意する。

和幸の言葉へと、再び

「茶葉を――買います」

そう続けられる。こうなると有無を言わせないだろう、と経験則で和幸は判断する。

「うん、買おうか」

「ありがとうございます。計ってみると三百年でございます。起動してから前の主が死んで、それから三百年。建物の魔力を必死で吸いながら、かろうじて生きてきました。思考を働かせずに、できるだけ動かずに。ただ私の役割は仕えるためにあるのです、護るためにあるのです。お茶を入れずにメイドは語れないのです」

あっはい、四人は同時に真顔でそう言った。

施設から五人組が外に出ていった。受付の女性はそれを見届けて、安堵のため息をつく。

奇妙なヤツラだったが、まぁ暇よりかはマシだったのかもしれない。

部屋の奥から、マグカップを手に持った肌の黒い、長身の男が現れる。

「どうかしたのか?」

コーヒーの入ったマグカップを目の前に置かれ、女性はそれを手に取って、口元へと持っていく。ずずず、と音をたててすすると、喉の奥が暖かくなってホッとする。

「変な人たちが来たのよ。男一人女四人。女は見惚れるくらい美人だったけど、変わり者で、男が顔を引きつらせていたわ。しかし、自動人形がいたから、いいところのボンボンね。たぶん――剣士のほうがお嬢様かな。彼女の持ち物だと思う」

自動人形は三百年以上前に現れた天才が、世に十台生産したとされている。

されているというのは、天才についてがかなり不明確で、居たか居ないかがハッキリとしていないのである。もはや都市伝説と言ってもいいだろう。

天才が言ったとされる話がひとつある。

『この世界は喰らいあってるんだ』

と、彼は友人に述べて、失踪した。

現在存在が発覚している自動人形は九台。好奇心旺盛な陰謀論やら、予知やらを好む者は人形たちに情報を問う。が――答えは首を傾げるのみだった。



茶葉購入後、ネクセルは我が子のように缶を抱いて放さなかった。

「宿に向かいましょう」

と、言って聞かなかったので、四人はどこか速足なネクセルの背中を追って、宿屋へと向かった。

主人へと彼女が紅茶セットを借りてから、部屋へと後で向かうと言われ、四人は椅子に座って紅茶を待っている。

ただそれだけでは暇なので、和幸は本を開いた。いい加減手に持っているのが面倒すぎて、バッグか何かが欲しい。

ステータス画面を見ると、名前が描かれていた。

昨日も見たが、HPとMPが書かれている。


名前:ソフィア

HP:16428/16502

MP:8190/8190


名前:撫子

HP:9380/9411

MP:17820/17820


名前:エリザ

HP:21820/22081

MP:3021/3021


「おっステータスな、昨日はしっかりと見なかったから――ブハッ!?」

ソフィアが横から覗き込んできたかと思えば、思い切り噴き出した。それに気が付いた二人も、覗き込めば同じように吹き出し、床を転げまわり始める。

「……なんだよ」

と和幸は不満そうに言うが、理由はわかっている。

自分のステータスだ。


名前:和幸

HP:972/1011

MP:2218/2242


ソフィアはぷぷぷと小ばかにしたように笑うと立ち上がった。

やれやれと首をすくめる。

「仕方ないなぁ……守ってあげようではないかぁ」

「うるさいな、元はお前らもこれだぞ?」

「だが今は違う。どうだこの俊敏な動きを!ウサイン・ボルトも脱帽だ!」

室内でソフィアは反復横跳びを始めたり、縦横無尽に飛び回る。

軽鎧を着こんでいるというのに身軽な奴だ。

スカートなので、飛び上がるたびに捲れて太ももまで露わになっている。

和幸は無防備すぎることに呆れ、注意する。

「パンツ見えんぞ」

「うぉ!?」

ソフィアは空中でスカートを押さえ、そのままベッドの上に膝で着地する。

顔を真っ赤にさせつつ、周囲を見回しながら言った。

「うおおお、なんかすごい今恥ずかしかったぞ」

「まぁそりゃ女の体なんだし、そういうものじゃないのか?」

撫子が何気なく言った。その言葉にソフィアは首を傾げる。

「あれ、それって女性化しはじめるっていう――」

言葉は最後まで言われることはなかった。部屋の扉が開き、トレイにティーポットとソーサーに乗ったカップを乗せたネクセルが現れたのである。

「お茶です!」

今までにないほどに力強い声だったと思う。

速足で室内へと入ると、机の上へと順々に乗せていく。

「飲んでください」

あ……はい、と四人は同時に頷き、席へとついた。

カップの取手を摘まみ、口へと付け、傾ける。ごくん、と喉が鳴る音が響いた。

「美味い」

和幸が思わず口に出した。それを皮切りに三人が賞賛を始める。

瓶から砂糖を掬い紅茶へと入れ、混ぜる。紅茶を口に含むと、ほんわりとした甘みが口に広がり、安らぎの時間が訪れる。

からっぽになったカップをトレイに乗せて去るネクセルの背中は、なんとなく満足げだったように思う。

「――さて」

笑みを浮かべて、ソフィアは立ち上がった。剣を引き抜き、切っ先を窓へと向ける。

「戦いだ!」


「戦いだとは言ったが、戦うとは言っていない、か」

エルザが盾を構えながら、隣を歩くソフィアを見つつ、ため息交じりに言った。

剣を構えるソフィアが眉をしかめ、うるせぇと返す。

その二人の後方に撫子と和幸、ネクセルの三人が歩いている。

撫子はあくびすらして暇そうだ。

「もっとこうバーンと来てもいいんだけど。昨日覚えた魔法を使いたいのに」

「非戦闘要員の俺にとってはそれでいいんだけど」

「それだけじゃあつまらないだろ?ドカーンってやりたいんだよなぁ……魔法したいっていうか」

魔法したいってなんだよ、と和幸は言いかけたが、それは止められた。

「ん?」と不思議そうに撫子が背後を振り向いたためである。視線をたどり、遅れて和幸も振り向いたが、そこにあるのは先ほど通ったものと変わらない道である。

荒れ果てた小学校の廊下。恐らくは間違ってはいない。窓の外からは太陽に照らされたグラウンドと、そこで遊ぶ子供が見える。どうしようとも窓は破れないし、開かないが。

和幸は撫子へと視線を移し、訊いた。

「どうした?」

「いや……なんか居たような」

曖昧な返答だ。ふーんと気の抜けた返答を和幸が返しつつ、前方を歩く二人へと視線を向ける。

すでにかなり前を歩いていた。

「前!前!」

「うわ、やっべ!」

撫子の肩を叩いて促すと、彼女も気が付き小走りで駆けだす。

途中和幸はネクセルが背後を見続けていて、ついてこないことに気づき、声をかけた。

「ネクセルさんも!」

「はい」

ネクセルは視線を外し、こちらへと速足で向かってきた。和幸はちらちらと背後を見て安否を確認しつつ、前へと走る。

たどり着いたのは体育館だった。頭上の証明が白い光を放っている。ボールが散乱し

瓦礫が散らばっていた。

ソフィアは剣を肩にかけつつ、体育館へと踏み入った。

「しかし……なんか違和感あるな?」

「というと?」

和幸の問いに、ソフィアは顎に手を当てて考えるそぶりを見せる。

「……なんか外がファンタジーしてるだろ?ドラゴンも亜人もいないけどさ、少なくとも現代ではない、そんな空気がある。なのにこの場所だけ現代」

ソフィアは両手を広げて、くるりと一回転する。

「なんか懐かしいだろ?だからそれがアンバランス。変。昔みたドラマで、砂漠の上に学校があって……そのなんだ」

「漂流教室?」

「そう、そんな感じの名前。それで学校が遠くから映ってた。砂漠のど真ん中で、ぽつんと、あんな感じに違和感がある」

刹那、金属同士の衝突音が響き渡った。驚き振り向くと、最後に入ったネクセルの背後の扉が閉まっているのだ。

「ん?なんだこの……よく知っているパターン」

エリザが近づき、扉へと手をかける――開かない。

静かにこちらへと向き直り、無表情で周囲を見回す。

「あれかな?」

ソフィアは手をひらひらと振って笑った。

「いやいや、無いって」

「ははは、抜かしおる」

撫子も加勢する。

が、体育館奥がミシミシと言い始めたところで、口を噤む。

全員の視線が音の方角へと集まった。

壁に穴が開き、そこから黒光りする機械の足が現れた。

「一番下って言ったじゃないですかァーーッ!!」

撫子の叫びに呼応するように、壁を破りその全貌が露わとなる。機械の蜘蛛、ダンプカーのんごとく巨大な体躯が、壁と瓦礫を吹き飛ばし躍り出た。

ソフィアが叫ぶ。

「うわあああお約束だァァァァ!」

エリザも叫ぶ。

「お約束の逃走できないボス戦だァァァ!」

ギャグみたいな状態だが、彼らにとっては大真面目かつ恐怖で身が縮む思いだった。

和幸が慌てて本を開く、その手をネクセルが止めた。驚き和幸が顔を上げると、ネクセルは何も言わずにページをめくっていった。

到達したのは、奇妙なページである。文字が空間に浮き出ているように見える。

ネクセルは和幸の手を取ると、本へと押し付けた。それをスライドさせると、ステータスが本の上部へと現れる。

「使いたい魔法は指で設定し、そこから使用対象を選ぶ――私が教えられたのはこれだけです」

「あ、ありがとうございます……えっと、――とりあえず後ろに!」

和幸は飛び出した。浮かぶ文字から『強化』を選択する。

怖い。恐ろしいし、動きを止めれば、現実を見れば、すぐに足が震えて動けなくなるだろう。

だったら――戦うしかない、これはゲームだと思い込め。ならばゲームのように全力で思考し、戦うしかない。

そこから手を伸ばし、ソフィア・撫子・エリザを対象とする。

本から光が飛び、三人にぶつかった。光は体へと溶け、淡い光を灯す。

その異変に三人はすぐに気が付いた。

ソフィアが呟く。

「うお……なんだこれ体が軽い」

そこへ和幸が叫び声をあげる。

「おおおお、おおおおおお前ら!」

声が震えすぎだが、構わず喉を鳴らし、叫ぶ準備をする。

機械の蜘蛛は足を振り回す。エリザが防ぎながら必死な声で問う。

「なんだよ!?」

ソフィアは後ろに回避し、撫子は遠くにいるため無事だ。

「ゲームっぽいからゲームっぽく戦うぞ!俺は回復兼補助魔法専門!ソフィアは剣術で前衛!弱点を叩き続けろ!エリザはヘイト集めつつ防御!エリザは後方で魔法を打って援護だ!」

一瞬、何のことだかわからないといった表情を三人はするが、すぐに飲み込んだ。

「お、おお……おおおおおおおおおおお!!」

「魔法ぶち込む!魔法ぅぅぅううううおおおおお!!」

「いくらでもこいやァァァァ!!」

皆咆哮する、それに虚を突かれたのか、蜘蛛は怯んだが、すぐに攻撃を開始した。

「これはVRMMOだァァァ!」

ソフィアが突撃する、振るわれた足を潜り抜け、懐へと飛び込んだ。剣を振るう。

火花を散らして機械の体を破壊していった。

危険を感じたのか、蜘蛛はソフィアへと足の切っ先を向けた。

が、それは横からの衝撃に捕らわれ、ソフィアの体を貫くことはなかった。

エリザが大盾と共に突撃し、盾を振るう。

蜘蛛はエリザへと対象を変更し、足を振るうが、それをバックステップで回避する。そして、再び体当たりである。遠距離からも魔法の火の玉が直撃し続けていた。

蜘蛛は追い込まれ、その場で暴れだし、勢いよく回転した。

「うおぉぉ!?」

足が直撃したソフィア、何とか防御したエリザ。

和幸は即座にソフィア・エリザと対象として回復をする。急激に減ったソフィアのHPゲージが復活していく。

即座に撫子へと対象が移る可能性を考え、強化を行った。

「ちょ、やばっ」

予測は正解した。撫子へと攻撃対象を切り替え、邪魔なヤツを排除せんと蜘蛛は動き出した。

撫子は悲鳴をあげながら走り回っているが、何度か攻撃がかすり、そのたびに和幸が回復を行った。

立て直したエリザが、撫子と蜘蛛の間に入り、攻撃を受け止め、何とか事なき事を得た。

弾き飛ばされたソフィアはやっとの思いで立ち上がると――ちらりと破壊した蜘蛛の体の隙間から、何かが見えた。

光の玉。発見した瞬間、ソフィアはにやぁと厭らしい笑みを浮かべた。

何も語らず、ソフィアは疾走する。

エリザに気を取られていた蜘蛛は、近づくソフィアに気づかず、懐への侵入を許し――破壊された身体をかき分け、光の玉を剣が貫いた。

途端、蜘蛛の動きが鈍った。何度かたたらを踏んだかと思うと、そのまま停止し沈黙する。

――勝ったのか?

四人の視線が互いを射抜き、再び蜘蛛へと注がれる。

――勝ったな。

勝利を確信し、勝ち鬨をあげようとした。握りこぶしを天へと振り上げ

「……えっ」

和幸は勝ち鬨を口に出さなかった、出せなかったというのが正確だ。

巨大な蜘蛛が身に合わぬ跳躍を見せ、和幸へと降りかかってきた。

「ちょ」

待てよ、とキムタクみたいなことをソフィアが言いかける。

「えええええ!?」

撫子が叫びながら魔法を使おうとする。

「ッ――!?」

エリザが大盾を持って走り出した。

誰もかれも間に合わない。ネクセルはやや遅れて走り出した。

――あ、死んだ。

和幸自身がそう理解した。後ろへと逃げようとするが、力が抜けて倒れ込む。

意識が飛んだ。

力なく倒れ込む和幸と、護ろうとする四人。

瞬間、バラバラになって吹き飛んだ。


蜘蛛が。


「……は?」

ソフィアが呆然として、後方へと飛んでいく蜘蛛を見送った。地に落下すると、今度こそ動くことはないだろう、足がすべてもげていた。

は?と二度目の疑問符は、気絶する和幸へと注がれた。


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