夢の中で(アレクシード)
まどろんだ自分が夢を見ているのだと彼は思った。それはあまりにも起こり得ない事だったからだ。額に触れる掌の感触は随分とリアルだった。けれどそれが夢だと彼は知っていた。
彼の名はアレクシード・ダイアンという。愛称はアレクで、彼は白の王国現国王の甥である。らしくもなく風邪を患い、都から遠く離れた館で療養中だ。本来ならば都に館を構えている筈の彼は、三年前から辺境に追いやられていた。
額に触れる掌の体温の低さに、従弟の掌もそうだったと思う。彼が唯一本名を捧げた少年は、彼に本名を捧げてくれた。けれど、その少年はもういない。『白の狂王子』となってしまったのだから。
小さく、唇に名前をのせる。幼い頃からアレクシードの後ろを追いかけていた少年。誰より呼び慣れた名前を呟く。今は彼に対して冷たくなった従弟。それでも彼は、信じていたかった。少年の本質は変わっていないと。
夢の中の少年は、笑っている。昔と何一つ変わらず、無邪気に笑っているのだ。けれど、触れようと手を伸ばせば消える。泡が弾けるように、軽く。
しばらくして、アレクシードは目覚めた。軽くなった身体に安堵しながら、息を吐く。ちょうど誰もいなかったからだろう。言うつもりの無かった本音が口をついた。
「夢の中でぐらい、少しは触れさせてくれても良いだろうに…………。」
情け無いと思いながら、ついつい呟いてしまった。大切な従弟は何処までも彼に冷たい。せめて夢の中ぐらいと、らしくなくぼやいた。三年は、長すぎる。言葉を交わす回数も、極端に減ってしまった。それ以前に彼は、従弟に拒絶されている。
起きあがり、窓から外を眺める。遠すぎて、ここからは都は見えない。王城にある高い塔さえも。忘れろと言うように、何も見えなかった。
直向きに望むのは、彼の少年の笑顔。