なんであいつは(キャッツアイ)
どうして去っていったのだろう。2人で1人であった彼等。2人でいたからこそ、存在できていた彼等。1人になった事で歪になり、世界から浮いてしまっているというのに。それなのに、彼は戻らない。左目は何処かに消えたまま、ただ流浪している。
何故と、彼は問い続けている。
キャッツアイ。いつの間にか、ヒトは彼をその名で呼んだ。愛称としてキャシーと呼ばれる事の方が多い。けれど、彼自身はその名が本名ではない事を知っていた。自分の名前は、それではない。
彼は追い続けていた。突然消えてしまった自らの左目を、彼は探していた。タイガースアイと呼ばれる男がそうである事までは、突き止めた。けれど、その男を捜しても、いつも一足違いで追いつけない。まるで、遊ばれているかのように。
「…………俺の、左目…………。」
ぽつりと、熱に浮かされたように呟く。何度、呼んだだろうか。どれほど、彼を望んだだろうか。もう、そんな単純な事さえ解らなかった。ただ、求めていた。
只一人、唯一絶対の半身。何があっても消えてはならなかった、お互い。離れていては生きていけないのだから。互いを守る為にも、共にいなければならないのだから。それなのに、彼は消えた。
左目。呻くようにそう呼んで、キャッツアイは前髪の上から自らの左目を押さえた。痛かった。じくじくと傷が疼くように、痛みがゆっくりと広がっていく。まるで、その痛みで彼を浸食するかのように。
せめて、理由を話して欲しかった。自分から離れていくその理由を、教えてくれていたのならば。確かに理不尽だと解っていても、まだ納得のしようがあったのだ。今のように、どうしていいのか困惑する事だけは、なかっただろう。
「何故?どうして、お前は……。」
問いかけたところで、答えは返らない。おそらくは、本人に問いかけたところで無駄だろう。そういう男なのだ、アレは。どこまでもキャッツアイに酷似していながら、限りなく相反するモノなのだ。それを知っていても、求めてしまう。或いは、だからこそ。
この世界に生まれ落ちた時から一緒だった。お互いがいたから、生きて来れた。ただ、それだけだった。他にどんな真実があるというのだろうか。自分達が一対の存在であると言う事ぐらいしか、キャッツアイには解らない。それ以外は、必要なかった。
何故消えたと、今はもういない左目に問いかける。




