君から僕へ(デルトーニアとレディーレナ)
まだ幼かった頃に、そっと渡された小さな宝物。
「レディ?」
「あら、今日は随分と早いのね、デリィ。」
「こんな時間に屋上などで何をしている?」
「朝焼けを見ようと思ったのよ。貴方は?」
「風に当たって、頭をはっきりさせようと思っているが。」
「相変わらず真面目ね、デリィは。」
くすくすと優雅に微笑む緑の王国の第1王女。未来の女王陛下でもある彼女の名は、レディーレナ・エメローディア。彼女の目の前にいる青年は、最年少の切れ者宰相閣下だ。その名を、デルトーニア・ラトラスという。
レディーレナの髪は薄い緑で、その双眸は鮮やかなまでの新緑色をしている。緩やかに波打つ腰までの髪は彼女の肢体に絡みつくように靡き、色の白い肌もほっそりとした身体付きも、まるで幻想の姫君のように思わせる。優しい微笑みを絶やすことなく浮かべる顔立ちに、少し抜けた所のある性格は、愛嬌すら与える。誰もが愛おしいと思うこの王女を、宰相も愛しいと思っている。
その宰相、デルトーニアの容貌はと言えば、レディーレナの隣に立っても見劣りしないモノである。肩の上で切り揃えられた髪は淡い緑で、そのうちの右側の一房だけを緩く結わえている。その双眸はまるでこの緑の王国の国土を表すかのような、深みのある深緑色だ。感情の出にくい怜悧な美貌だが、それ故に作り物めいた美を醸し出している。ただ、レディーレナを含める一部の人間の前でだけ、彼は素直に感情を表す。
するり、とレディーレナは手を伸ばした。不思議そうな顔をするデルトーニアを見て、微笑む。又従兄弟である所為かそれ程顔立ちに似通った所はないが、それでも彼等を包む風の魔力は何処までも同じ血族である事を伺わせてくれる。誰もが一瞬疑いたくなる事だが。
伸びてきたレディーレナの指が、デルトーニアの耳に触れた。正確には、彼の耳に付けられているエメラルドのピアスに、だ。白い指先に触れられて、デルトーニアは一瞬身を固くした。長い付き合いであろうと、恋人に触れられて反応しないモノがいるわけがない。
「レディ?」
「まだつけていてくれるのね。嬉しいわ。」
「……お前がくれた物だからな。」
「ふふ。デリィは私に甘いものね。」
「そうか?」
「えぇ、とっても。私の我が儘なら、殆ど聞いてくれるのだもの。」
楽しそうに笑うレディーレナを見て、デルトーニアは肩を竦めた。そうかもしれないと、思う。この愛らしい王女が頼み込むのならば、出来る限りの事はしてやりたい。昔から、デルトーニアはそう思っていた。
だからこそ、宰相になったのだ。実力で宰相の位を勝ち取ったのも、全てレディーレナの為。この純粋で愛らしい王女が、少しでも汚れずにいられるようにと。彼女に害成すモノが現れた時に、自らの手で排除できるようにと。ただそれだけの為に宰相位を求め、そして実際に勝ち取ってしまった男なのである。
微笑むレディーレナを、視界に治める。朝焼けを見詰めて嬉しそうに微笑む、無邪気な王女。彼女の為ならば、自分は何でもできる。そんな事を、デルトーニアは思った。今更確認する事ではないが。
幼い日に君から贈られた宝は、まだこの耳に輝いている。




