心の軋み(ガレルドとアスティー)
卑怯者、と瞳だけで咎める。馬鹿野郎、と眼差しだけで感情をぶつける。愚か者、と唇が歪んだ形で告げる。考え無し、と言葉にならない声が伝える。
互いを失いそうになった恐怖を、そんな素振りで誤魔化す。
満身創痍の肉体を引きずりながら、そっと互いの傷を確認した。その深さを理解して、全く同時に彼等は怒りを抱く。何をやっていると、ほぼ同時に唇が動いた。誰にぶつけていいのかも解らない怒りだけが、そこにある。
「ガレー、お前馬鹿か?」
「アス、お前も結構ドジだな。」
『……………………。』
この性悪と、全く同時に思う辺り彼等は親友であるのだろう。遠く、崖の上から、副官達の声が聞こえる。雨でぬかるんだ崖の上から、大丈夫ですかと問いかける声がした。とりあえず生きてるぞと返事を返せば、騎士達の安堵の声が響いてきた。
ドジを踏んだ。どちらからとなくそう思う。まさか、全く同時に崖から足を踏み外して落ちるとは。雨にぬかるんだ道を、よく確かめもせずに歩いた所為だろう。それぐらい解ってはいたが、認めるのは悔しい。そう、思う。
左腕の激痛に、折れたなとガレルドは思う。立ち上がろうとして左足に走った激痛に、アスティーは骨折を理解した。ちらり、と互いを見る。その後は、もう、言葉などいらなかった。
ガレルドが右肩を差し出し、アスティーがそれを支えに立ち上がる。痛いと呻く親友の、泥にまみれた銀髪を見てガレルドは苦笑した。そんなアスティーも、有り得ない方向に曲がっているガレルドの腕を見て、馬鹿野郎と言いたげに顔を顰めた。
崖から落ちる時に思ったのは、視界の中で同じように落ちていく親友の安否。失うかも知れない。その恐怖に胸の奥が締め付けられて、咄嗟の受け身が取れなかった。情け無い事だと解っているので、どちらも言わない。言えるわけがなかった。
女々しい感情だと、鼻で笑う事は出来なかった。お互いがどれほど大切であるかなど、言われなくても解っている。大切すぎて、どうにかなりそうな程。お互いさえいれば、世界全てが敵に回っても生きていける。そう言いきれるだけの絆が、そこにある。
「歩けるか、アス?」
「お前こそ、腕は平気なのか?」
「ま、何とかなるだろう。とりあえず合流するべきだろうしな。」
「同感だ。」
早く探しに来いよと、2人揃ってそんな事を言う。崖の上では副官達が、慌てて崖下に降りる道を探しているだろう。ゆっくりと歩いて移動しながら、2人は思う。怪我をしてはいるが、生きている。それだけが、幸福だと。そんな、些細な事を、喜びだと思った。
心の軋みはもう、今はない。




