いつも通り(ガレルドとアスティー)
何も変わる事はない。ただ、いつもと同じ繰り返し。退屈で単調な、そのくせひどく大切な。何の事はないいつもの生活が、そこにある。
カキィン……。甲高い音がして、剣が弾き飛ばされる。武器を弾かれた兵士が驚いて目前の青年騎士を見た。次、とあっさりと言葉が告げられて、ありがとうございましたと兵士は頭を下げて後方に下がる。
続いて向かってきた兵士も,五合と打ち合わないうちに剣を弾き飛ばされた。また、次とあっさりとした声が命じる。再び、兵士が向かってくる。これもまた、同じ繰り返し。単調すぎる映像を見ているような、同じような繰り返しである。
焦れたように、青年が吠えた。緩やかな巻き毛の白銀の髪に、眩い黄金色の双眸。アイル騎士団長である青年は美貌もトップレベルだが、剣の実力も折り紙付き。尚かつ、猪突猛進短気でキレっぽい。いやー?!と、兵士達が心の中で嘆いた。この暴れん坊を止められるようなヤツは、ここにはいない。
と、その瞬間。
「なぁにをやってるか、お前は。兵士を虐めてどうする。」
「イッテーッ!」
「皆生きてるか?訓練もほどほどにしておけよ。」
サラッと言ったのは、漆黒の長髪に藍色の瞳の青年。美貌の青年は、リーダス騎士団団長ガレルド・マレバリア。殴られたアイル騎士団長−アスティー・ピルゲーナ−は、不服そうに親友を見た。何をするんだと言いたげな顔が、そこにある。
「相手が欲しいなら俺がしてやる。兵士を虐めるな。」
「だから、虐めてない。訓練だ。」
「お前のそれはスパルタすぎるんだ。お前について行けるヤツがそうそういるわけがないだろう?」
「…………お前は?」
「俺は特別。ほら、お前達もそろそろ各自練習に励め。こいつは、俺が責任もって引き取らせて貰うからな。」
『ハイ!』
「こら待てお前らーっ!ヒトを勝手に売るなーーっ!」
「売ってないだろう。妥当な判断だ。」
ケロリと言い放つ男、ガレルド。ギリギリと歯を噛み締めて、アスティーは長年の親友を見た。勝てない。解っている。何があっても絶対に、彼はガレルドには勝てないのである。何故かは知らないが。
ひょいっと剣が渡される。相手をしてやるよ。不敵に笑う藍色の瞳に、やってみろと毒を吐く。太陽の光を封じ込めた黄金色の双眸が、ガレルドを見てニヤリと笑った。
「勝った方が、今度の休暇の昼飯奢る事。」
「それは構わないが、休暇なんて取れたか?」
「取る。」
「……あまり、国王陛下に無理難題を通すなよ。」
「安心しろ。俺は信頼されているし、好かれているんだ。数少ない同年代だからな。」
「……そういう問題か?」
おいおいと突っ込むガレルドを無視して、アスティーは剣を構える。かかってこいと笑う親友を見て、彼も剣を構えた。どちらが勝っても、恨みっこ無し。それが言える程、彼等の実力は拮抗していた。
何気ない日に何気なくかわす、いつも通りの2人の遣り取り。




