遣らずの雨(ガレルドとアスティー)
雨が降る。素直に縋れない彼の代わりに、雨が降る。彼を帰さぬ為に雨が降る。彼を欲する彼の為に、雨が降る。
「止まないな。」
「雨期でも近いか?」
「いや、まだしばらく先の筈だが……。」
「珍しい事もあるモノだな。」
退屈そうに書物を眺めていたアスティーが、肩を竦めて呟く。そんな彼を見て、ガレルドは苦笑した。どうでもよさそうに言いながら、喜びを隠しきれてはいない。他の誰をごまかせても、彼だけはごまかされる事はないだろう。それだけの絆が、2人にはある。
だから、ガレルドには解っていた。この雨は遣らずの雨だと。ガレルドの帰宅を妨げる為だけの雨なのだと。それ以外の理由で降る雨ではあるまいと、彼は思ってしまう。
意地を張り、素直に誰かに甘える事などできないアスティー。それは彼の性格と言うよりは、油断できない環境の所為だろう。誰が心を許しても良い相手なのかを、彼は図りかねていた。弱さをさらけ出す事が赦されない環境で、彼は生きてきた。その事を、ガレルドは知っていた。それだけだ。
「アス。」
「何だ?」
「心配しなくても、これだと当分戻れない。」
「……何が、心配だ?」
「帰って欲しくなかったんだろう?」
「……誰がだ!」
顔を真っ赤にして怒鳴りつけるアスティー。とても配下の騎士達には見せる事ができないなと、ガレルドは思う。こんな子供っぽくて可愛らしい姿など、見せられない。血気盛んでオニのように強くて厳しい団長で通っているのだから。
もっとも、そんな風に笑っているガレルドも同じくだ。誰にでも優しくて温厚だと評判の団長。その彼が、アスティー相手だとここまで意地が悪くなる。可愛い子供程虐めたくなるような、そんな感情の所為だろうか。それとも、ただ単に性分なのか。とりあえず、こちらも配下には見せられない姿である。
「雨、止まないな。」
「あぁ。」
「止んで欲しいか?」
「…………何故聞く?」
「止んで欲しくなさそうな顔を、していた。」
「してない。」
「してたさ。」
「してないと、言っている!」
「俺に隠し事ができると思うなよ?」
「…………ッ!
反論できずに言葉に詰まるアスティー。勝ったと笑うガレルド。次の瞬間アスティーは叫び、ガレルドはそれを聞き流す。いつもの2人の遣り取りだった。良くも悪くも。
雨が降る。素直に縋れない彼の代わりに、雨が降る。彼を帰さぬ為に雨が降る。彼を欲する彼の為に、雨が降る。




