複雑に絡まる(ガレルドとアスティー)
解けない。複雑に絡み合った感情は、どう足掻いても解けない。戻れない道を進むように、ただ前へ。この先に何があるのかを、彼等はまだ、知らない。
明るい銀色の髪と、深すぎる漆黒の髪。緩やかな短い巻き毛と、癖のない長髪。深みのある黄金色の双眸と、柔らかな藍色の双眸。燃える炎の気質を宿した青年と、流れ行く水の気質を宿した青年。良くも悪くも正反対で、交わらないように見える、二人。
けれど何より、誂えたように一対に見える、二人。
時間が過ぎていくごとに、感情を持て余す。互いに対してひどく貪欲になり、過保護になっていく。お互いの存在だけが必要で、それを自覚していくたびに、困る。それは何処かで掛け違えたボタンのように、友情で終われるのかを、悩む。
「アス。」
「何だ?」
「髪が濡れてる。お前な、浴室から出る前にしっかり拭けと言ってるだろう?」
「面倒だ。それに、お前が拭いてくれるから、良い。」
「俺はお前の小姓か、こら。」
「そんなつまらないモノじゃない事ぐらい、知ってる。」
それは何か違う気がした。けれど、溜め息をつきながらガレルドはアスティーの髪を拭く。既にもう、馴染みすぎた遣り取りなのだ。いつの間にかこれが、普通になってしまった。
どうしてと、問いかける事すらない。振り返ることなく、背中合わせにいる事を知っている。横を見た時に、すぐ傍にその姿がある事を知っている。他の誰が裏切っても、互いだけは裏切らないと、知っている。本能よりも先に、魂で。
ぱらり、とアスティーは書物を捲った。家から持ってきた、決算書。時期当主としては、そういったモノにも目を通さなければならないらしい。もっとも、ガレルドもまったく同じ立場であるはずなのだが。その割にのんびりしているのは、彼の養父母がおっとりしているからだろう。
不意に、ガレルドはアスティーの巻き毛に口付けた。伸ばせばきっと、何よりも豪奢な王冠になるだろう、眩い白銀の髪。黄金色の双眸は太陽の輝きを封じ込め、見る者全てを魅了する美貌を兼ね備える。不屈の精神と、優れた武芸の腕前と、誰もが恐れ入る頭脳を持った、アスティー。凡庸なこの国の国王などよりも、余程王に相応しいと思える人物。
ガレルドは口に出しては言わない。けれど、彼は思うのだ。やや青みがかった銀細工に至宝の黄玉、トパーズを抱くこの国の王冠。それが誰よりも似合い、誰よりも映えるのは、アスティーだと。彼こそ王に相応しいと、不遜だと思いつつも思う。
「ガレー。」
「ん?」
「いらないからな、俺は。」
「何がだ?」
「王冠なんて、面倒なだけだ。」
「…………解ったのか。」
「解るに決まってるだろう?お前の考えている事だぞ。」
ニヤリと笑ったアスティーを見て、ガレルドは苦笑した。ぱさりと肩から滑り落ちた漆黒の髪をそっと摘み、アスティーは笑う。その一房に口付けて、悪童めいた笑みを浮かべた。それを見て、ガレルドは苦笑した。彼はいつまでたっても、彼のままだと解ったから。
何があっても変わらない、複雑に絡み合った想いがそこに、存在する。




