刻とともに(ガレルドとアスティー)
時間が経つにつれて、離れていくのかと思っていた。彼等二人は同じ貴族階級とはいえ、アスティーは生粋の貴族−それも王家の血が幾らか入っている−であり、ガレルドは名門貴族の跡取りとはいえ、元は孤児である養子。同じように生きていけるとは思ってもいなかった、少年時代。
けれどその考えは、今となってはあっさり覆されている。
「いい加減にヒトの上から退いてくれないか、アス?」
「お前の上というか、座っているお前の背中に凭れてるだけだろ?何が問題なんだ?」
「問題と言わせて貰うなら、お前が体重をかけ続ける所為で、俺は非常に前屈みになっているんだ。このまま続けて俺の背骨が曲がったらどうしてくれる?」
「安心しろ。お前きっと、そんな事にはならないから。」
「理由は?」
「俺の勘だ。」
「…………アス。」
ドスをきかせた声で呻く親友に対して、アスティーはケラケラと笑った。本来の気性がそうであるのか、それとも羽目を外しているのか、ガレルドと共にいる時のアスティーは、ひどく子供っぽい。それを指摘すれば結構怒るのだが。
「ガレー。」
「何だ?」
「今日、そっちに泊まりに行っても良いか?」
「……何故だ?」
「いや、ちょっと家が煩くて。俺はまだ、結婚して縛られる気はないし。」
「何だ、連日パーティーずくしか?」
「逢いたくもない、着飾った貴婦人達とご一緒にな。いやまぁ、ご婦人方は好きだが、それが目の色変えて寄ってくるのは、苦手だ。」
そういいながらも、貴婦人達を一人一人丁寧に相手しているのだろう。ガレルドは何となく、その光景が脳裏に浮かんだ。穏やかで魅力的な笑顔を浮かべながら、失礼にならない程度に相手を断る。おまけにその態度がひどく優しくて、だから相手に期待を抱かせる。堂々巡りだと解りつつも、そうやってしまうのがアスティーである。
可愛いなぁ、と思う。ゆっくりと身体を起こして、バランスを崩した相手を受け止めてから、まるでそれが当たり前のように頭を撫でてやった。ちょっと待てと声が上がるのを、ガレルドは無視する。
「頑張ってたんだなぁ、アス。偉いぞ。」
「ヲイ、ガレー。お前は俺をなんだと思ってる?」
「褒めてやってるんだろう?お前にしては、よく頑張ってる。ご婦人方は好きでも、結婚となると話は別だからな。」
「あぁ、だから、今回ばかりは、既婚のご婦人方が恋しかったぞ。たとえ容赦なく突っ込まれても、最終的には旦那の所に戻ってくれるからな。」
「よしよし。だったらお前は、俺に逃げてくるんだな?」
「だって、お前のところなら家柄もしっかりしてるから、ウチの使いも諦めるし。」
体面上、強制連行はできないというわけである。我が家の家名は一種の魔除けかと、一瞬思ったガレルドであった。とはいえ、大変な目に合っているアスティーを見捨てる気はない。ガレルドの養父母はと言えば、その辺りは息子に任せる気満々である。元来彼が養子なので、結婚せずに養子をとっても良いと考えている。ようは、マレバリアという家の名前が残っていればいいと考えているのであった。………………ちなみに、それはかなり奇特な考え方である。
「なら、うちの騎士団の連中を誘って、小さなパーティーでも開くか。」
「何で?」
「そうしておけば、使いも帰りやすいだろう?」
「……あぁ、なるほど。」
ぽんと手を打ったアスティーが、そうしろと無邪気に笑う。いつまでたってもこういった純粋さが消えない親友を見て、ガレルドは笑った。時が過ぎても、こうして共にいられる。それが何となく、ひどく素晴らしい事に思えた。
時を重ねるに従って、彼等の絆は強くなる…………。




