強張る指(オージェとジェームズ)
何時からだったかと、オージェは心の中で考える。何気なく触れようと伸ばした指が、不意に強張る時がある。拒絶を恐れるように、自分の意志を無視して、強張る。まるで出来の悪い彫刻のように、彼の指は強張って、動かなくなる。初めて気付いた時は怯えて、けれどしばらく続くと、慣れてしまった。
その意味を、彼は知らない。解りたいとも思わなかった。けれど何か、強迫観念のように時折、指が強張る。その理由を探そうとはしなかった。オージェは、何処かで怯えていたのかも知れない。
お互いが、唯一絶対。お互い異常にお互いを支えられる者がいるわけがない。誰に言われずとも、そんな事は解っていた。解りすぎる程解っていたからこそ、ひどく怖くなる時がある。
その当たり前が無くなった時に、どうなるのか。離れてしまった時に、どうなるのか。考えたくないのだと、嫌だと、心が拒絶をする。その表れのように、触れようと伸ばした指が、強張った。
「どうかしたのか、オージェ。」
「……いや、何でもない。気にするな。」
「…………指、妙な形で固まっているぞ。」
「うーん、使いすぎて疲れてるんだろうか……???」
「バカを言っていないで、しっかりほぐせ。」
呆れたように告げるジェームズの言葉に、苦笑を返す。内心、オージェはひどく怯えていた。勘の鋭いジェームズに、気付かれてはいないだろうかと。けれど、その心配は杞憂であったらしい。
ごめん。心の中で、何故か謝罪を口にしてしまった。この、醜い感情の一欠片を、封じてしまいたかった。お前は俺のモノだと言い切れるだけの傲慢さは、オージェにはない。ないからこそ、その感情の強さは、彼の精神を汚染する。蝕んで、追いつめて、苦しめるのだ。
もう少し傲慢に慣れたなら、楽になれる。その事実を、オージェは知らない。或いは、知らない方が幸福であるのかも知れない。誰かを独占するという発想は、この明瞭快活すぎる青年には、あまりにも相応しくないのだから。
強張ってしまった指を、一本一本ほぐしていく。ガチガチになった指を丁寧にほぐしながら、傍らの親友を見た。ひどく当たり前のように晒される無防備な背中。その信頼が、大切で愛おしくて、そして苦しい。いつか失った時に、自分は壊れるのではないかと、思う程に。
ぶるり、とオージェは身体を震わせた。考えるなと、自分の心に向けて命じる。そんな不吉な事を、考えてはいけないと。そんな事を考えるだけで、心が痛むのだから、と。
強張る指は、失う恐怖に怯える彼の、心の現れ。




