手を繋いで(オージェとジェームズ)
幼い子供のように手を繋いで眠った。それは、恐怖を追い払う為に必要な事だったのだ。この世の何よりも怖い事。それは、己の中にある殺意を自覚する事なのだろう。
「ジェム、怪我は平気か?」
「それ程深い傷じゃない。血管を切った所為で出血が多かっただけだ。」
「それでも、貧血になるだろう?」
「煩い、オージェ。お前は黙ってそこで寝てれば良いんだ。」
「……ジェム。」
少年から青年になろうとする男達が眠るには、少し狭い寝台。けれど、身体を寄せ合って、2人で眠る。手を繋いで、互いを拘束するようにしっかりと握り合って。そうでもしないと、身体の震えが止まらなかった。
オージェは、ジェームズを傷付けられた怒りから。ジェームズは、自らの主君を貶められた怒りから。同じ相手に対して殺意を抱いた彼等であった。後一歩、主君である少年の制止が遅れていれば。自分達は相手を殺していたのだと、彼等は理解する。
怖かったのだ。自分の中にこれ程までに暗い感情があったのかと。理性すら手放しそうになる程の激情。けれどそれは、制御下に置いておかねばならない程の殺意なのだ。だからこそ彼等は、こうして怯える。
自分という存在の中に眠る、黒き欲望の獣に。
或いは、繋ぎ止めておく為の行為だったのだろうか。並んで、手を繋いで眠るという行為。まるで幼い子供のようなその意味を知る者は、いない。彼等自身にすらも、その意味は解らなかった。どうすればいいのか悩む程に。
「ジェム、寝た?」
「…………。」
「ごめんな、ジェム。傍にいたのに、怪我なんてさせて……。」
「…………。」
「本当に、ごめん。」
少しだけ力を入れて握られる掌。握り返す事はしなかったが、ジェームズは起きていた。眠ったふりをしながら、心の中で馬鹿と呟く。守るべきは、主君只一人。それ以外の存在は斬り捨てても構わないのだ、彼は護衛なのだから。
それなのに、拘るのか。まだ、自分という存在に執着してくれているのか。それはひどく喜ばしい事だと、ジェームズは思う。オージェの中に自分という存在がいるのならば、ただそれだけで。彼の何かを捕らえておけるのならば。
確かなモノは、こうやって繋いだ掌の温もり…………。




