微熱(オージェとジェームズ)
触れたところから熱が生まれる。まるでそれは感情の目覚めのようで。不意に私は、何かを覚えている自分を知った。この感情の正体を、あの頃の私はまだ知らなかった。
「オージェ、暑苦しい。」
「暑苦しいって、お前が俺のスペースに入ってきてるの。その辺解ってて言ってんのか?」
「オージェの分際で文句を言うな。」
「って、お前毎回思うが、俺に対する認識ひどくないか?!」
叫くのは、朱金の髪の少年。つんとそれを突っぱねるのは、金髪の少年。オージェ・ロウとジェームズ・ライールである。両者ともまだ十代の半ばに差し掛かった頃、すなわち、王子サラマンドラの側近に命じられて間もない頃であった。
何をするでなく、ぺたりとくっつく。その他愛なさに救われている事を彼等は知っていた。この王宮という場所は、時折彼等の精神を蝕んでいく。異例の抜擢である。まだ十代の子供に、第1王子の世話役を命じる。それを暴挙と捉え、彼等に害成そうとするモノはあまりにも多い。
いっそ、直接攻撃に出てくれれば楽で良い。そんな物騒な事をジェームズは言うが、確かにそんな気分である。ねちねちねちねち嫌味を言われるのも、針の筵のような生活も。どちらも、彼等にはあまりにも相応しくない。ただでさえ猫かぶり続行中のジェームズは、ストレスがたまりまくっていた。
それなのに、不思議と。オージェの傍らにいると、そのストレスが消えていくのだ。特に彼を虐めなくても、である。言えばもう虐めるなと叫かれそうなので黙っているのだが。オージェの持つ雰囲気とか何かが、ジェームズの苛々を取り除いてくれる。
「ジェム、熱あるのか?」
「はぁ?」
「いや、だって、何か元気ないし……。」
「私がそうそう倒れる程ヤワだと思ってるのか、お前?いったい何年の付き合いになるんだ、オージェ。お前馬鹿か?」
「…………そうだな、俺の気の所為だったみたい。お前ムチャクチャ元気だわ……。」
お前の中で俺っていったい何よ。ぼそりと呟かれた言葉には、あえて気付かないフリをした。言えば喜びそうだから、絶対に言わない。他の何に変えても必要な相棒だと思っているが、誰よりも必要な親友であると知っているが、そんな事は絶対に言ってやらないとジェームズは思う。
それもまた、いじめの一環かもしれない。それに、何があってもオージェは何処にも行かないのだ。誰が敵に回っても、彼は最後までジェームズの味方なのだ。言葉にされる事が無くても、彼はそれを知っていた。だから、それで良い。
重ねた掌から、何かが伝わってくるような気がした。安堵とか、温もりとか、そういう優しい何かが。ふと安堵のため息を漏らしてしまう。こうして傍にいてくれるだけで良いのだと、そう思う。そして、何か、自分にも解らない感情が、ゆっくりと目覚める。
これは、誰にも、渡せない、と……。
触れたところから熱が生まれる。まるでそれは感情の目覚めのようで。不意に私は、何かを覚えている自分を知った。この感情の正体を、あの頃の私はまだ知らなかった。
それは独占欲にも似た執着の、ほんの小さな一欠片。




