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宝石の子供達  作者: 港瀬つかさ
赤の王子と青の王子関連

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25/54

月日はまるで水のように(サラマンドラとマーキュリウスと側近3人)

 あまりに早く過ぎ去っていく、それは近すぎる所為だろうか。



「マーク。お前、このところこっちに出没しすぎだろう?」

「あー?いいじゃんか、サラムだって暇だろう?」

「お前と一緒にするな。収穫祭が近くて、俺は式典の準備に大忙しなんだよ。」

「うちも収穫祭近いけど?」

「だったら大人しく仕事をしてこい!」


 怒鳴りつけたサラマンドラに、マーキュリウスは笑った。いたずらを思いついた子供のような笑顔に、彼はがっくりと肩を落とした。今更だと解りつつ、この親友は間違っている。いくら第2王子とはいえ、仕事はあるだろうに。むしろ、彼には彼の役目が存在するはずなのだ。

 その辺りを突っ込もうかと思ったが、サラマンドラは止めた。いうだけ無駄というのが、彼にもよく解っているのだ。タイミングよくというか何というか、彼らの従者たちがやってきた。サラマンドラの護衛のオージェと側役のジェームズ、そしてマーキュリウスにくっついてきた侍女のロニーである。いつの間にか彼らまで仲良くなっていたのは、ある意味驚きであろうが。


「ガーナ王子、お茶になさいませんか?」

「どうしたんです、王子。不機嫌そうですが。」

「サフォー様、また何かガーナ様にご迷惑をおかけしたのですか?」

「用意を頼む、ジェム。オージェ、このバカがいて、何で俺の機嫌がよくなるんだ?」

「ロニー、その毎回俺が迷惑をかけているような言い方をするな。」

「素直じゃないですね、王子。」

「今更何をおっしゃいますの、サフォー様。」


 さらっと言ってのけるオージェとロニー。思わず拳を握りしめるサラマンドラとマーキュリウス。そんな彼らの背後で、ジェームズは一人黙々とお茶の支度を整えていた。これぞ側役の鏡といえるだろう。たまに、マイペースすぎるような気がしなくもないが。


「用意ができましたよ、皆様。」

「悪いな、ジェム。」

「まぁ、申し訳ありません、ジェームズ様。私とした事が、お手伝いもせずに……。」

「ロニーよりジェムの煎れたお茶の方が美味いから、いいんじゃないか?」

「何かおっしゃいまして、サフォー様?」

「さーあな。」

「ジェム、俺の砂糖は?」

「戸棚の中にあったと思うが?」

「そうか。王子、砂糖いりますか?」

「いらない。あ、マークは使うから、出してやれ。」

「承知しました。サフォー王子も甘党ですか?」

「甘党〜♪」


 にこにこと笑うマーキュリウスに、仲間ですねとオージェが笑う。そんなのんきな二人のやりとりを脇に置いておいて、ジェームズとロニーは二人で和やかな会話を始めていた。それをみて、サラマンドラは思う。ずいぶんと、長い年月が流れたと。

 初めて出会った頃は、ここまで打ち解けてなどいなかった。どちらも王子とその従者という立場を崩せなかったのだ。それが、今や同じテーブルを囲んでお茶を飲む。その些細な事が、幸せなのだとサラマンドラは思う。

 テーブルの中央に置かれている焼き菓子を手にして、彼は周囲の会話に耳を傾けている。そのうち自然と巻き込まれる事になるだろうが、それはそれだ。そうなる前ぐらい、傍観者の気分を味わってもいいではないか。そんな事を、思う。

 ジェームズの煎れたお茶は美味しくて、オージェの見つけてきたお菓子も美味しい。ロニーが話す事は全て面白かったし、マーキュリウスの笑顔は場を和ませる。自分たちにとってはこれが自然な事なのだと、サラマンドラは思った。こうやって、他者からは不思議に思われる空間が、彼らの全てだ。長い年月をかけて培ってきた、絆の現れなのだ。


「サラム、そっちの焼き菓子とって。」

「その名で呼ぶのを止めたらとってやる。」

「なー、サラム、とってってば。」

「止めろ。」

「サーラームー。」

「喧嘩売ってやがるのか、お前?」

「なー、とってくれよ。」

「マーク……。」

「あー!それで呼ぶなって言ってんだろ!」

「お前もだろうが!」


 騒ぎ始めた二人の王子。長年のつきあいの成果、その喧嘩の内容は果てしなく低レベルだ。彼ら自身にとっては重要事項でも、周囲にとってはそうではない。だがしかし、哀しいかな従者達は、そんな光景に慣れていた。


「相変わらず仲が宜しいですわね。」

「サフォー王子がお越しになると、ガーナ王子がお元気になられて嬉しいですよ。」

「仲はいいが、少々騒がしい気がするんだがなぁ……。」

「いいではありませんか。」

「いいじゃないか、オージェ。」

「まぁ、な。」


 そうやって流してしまう辺り、オージェも彼らの同類だった。そして、二人の王子の口論は続くのである。不毛だろうと何だろうと、続いていくのであった。



 長い月日さえ流れる水のように過ぎ去って、絆だけが残っている。

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