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宝石の子供達  作者: 港瀬つかさ
赤の王子と青の王子関連

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21/54

些細な賭け(マーキュリウスとロニーとサラマンドラ)

 ある日の昼下がり。青の王国第2王子・マーキュリウス・サファイアルは、ぼんやりと窓の外を眺めていた。珍しく彼が国内にいる理由は、ただ単に謹慎処分を受けた結果である。あまりにも無断での諸国放浪がすぎたからであった。


「なぁ、ロニー。賭けをしないか?」

「賭け、でございますか?サフォー様、あの……。」

「賭けるのはおやつのケーキ一切れ。内容は、今日俺を訪ねてくる奴がいるかどうか、だ。ちなみに俺は、来る方に賭けるからな。」

「それでは、私は来ない方に。」


 ロニー・ベルという名の侍女は、そういって笑った。謹慎中の王子を尋ねることができる者はいない。兵士の山を蹴散らしでもしない限り無理だろう。だからこそ、ロニーは笑うのだ。

 けれど、マーキュリウスは知っていた。彼は、来る。今日という日ならば、たとえ一万の兵を敵に回してでもやってくるだろう。そう思うのは、マーキュリウスが彼の立場でもそうするからだ。もっとも彼は、マーキュリウスのように謹慎処分など受けないだろうが。

 ロニーがお茶を入れている。手持ちぶさたに水を生み出しては消しているマーキュリウスは、まるで退屈している幼い子供のようだ。それだけ、彼は待っていたのだ。今日という日だからこそ。

 誰にも解らない、二人だけの記念日だった。何があっても、一目会って言葉を交わさなければならない、記念日なのだ。


「なぁ、ロニー。」

「はい?」

「友人ってイイモノだと思わないか?バカで口が悪くて意地っ張りだが。」

「…………サフォー様……。」


 それが誰を示すのか、彼女には解った。解ったが、あまりといえばあまりな言い草である。仮にも隣国の第1王子に対する表現では有り得ない。まぁ、マーキュリウスらしいのだが。

 その次の瞬間、窓から人間が入ってきた。小さな飛竜の脚に掴まっていた青年は、その手を離して部屋の中に入ってきたのである。ロニーは目を見張ったが、マーキュリウスは笑って彼を迎えた。


「よ、久々だな、サラム。」

「俺をその名で呼ぶな、マーク。」

「ははは、お互い様だろうが。」

「……ちっ。」


 サラマンドラ・ルビワームが舌打ちをする。見事な朱色の髪が、風に撫でられて揺れていた。整った顔立ちを歪めて怒る友人に、マーキュリウスは笑っている。そして彼は、その笑顔のままでロニーを振り返った。


「賭けは俺の勝ちのようだな、ロニー?」

「そのようでございますね。」

「こら待て、このボケ。貴様ヒトで賭けをしてやがったのか?」

「ヒトって言うか、俺を訪ねてくる奴がいるかどうかだ。」

「おーのーれーはー。」


 ぎりぎりとマーキュリウスの首を絞めるサラマンドラと、何故かニコニコと笑ったままのマーキュリウス。そんなそんな二人を残して、ロニーは外へ出た。国王に、王子訪問を知らせる為である。


「でも、やっぱり来たんだな。」

「年に一回、今日だけだろうが。……呼べるのも、呼ばれるのも。」

「まーな。」


 肩を竦めて二人は笑った。本名を呼ぶのは束縛となるというのが、魔法を使うモノの常識だ。だからこそ二人は、友情の証として今日という日を設けた。

 互いの顔を見て、悪戯を思いついた子供のように笑いながら、彼等は平然とその名を口にした。本来ならば赦されない名を。



「サラマンドラ。」

「マーキュリウス。」



 呼んだ瞬間に、ざわりと二人の全身を力が駆け抜けた。それが、互いが持つ相反する魔力の所為だと知っている。ぐらついたマーキュリウスの身体をサラマンドラが支え、落ちてきたサラマンドラの頭をマーキュリウスが肩で受け止める。それも又、いつものことだった。


「……多分、バカなんだろうな。」

「良いんだよ。だって、つまらないだろう?」

「……確かにな。」


 くすりと笑うサラマンドラ。つられたようにマーキュリウスも笑った。まるで、何もなかったかのように。



 互いが唯一の友人だと、彼等は何より知っている。

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