お別れのコトバ(アレクシードとインフォームド)
さようなら。哀しむ事しか知らなかった、狂気の王子。壊す事でしか全てを表せなかった王子。温もりに怯えながら、何処かでそれを求めていた狂気の王子。救われる道を求めながら、何もできなかった王子。
さようならと、小さく告げる。
「インフォームド?何をしているんだ?」
「アレクシード……。墓を、作っていたんだ。」
「墓?」
「昨日死んだ、『白の狂王子』の墓だ。」
「……そうか。」
真白い墓の墓標には、何も書かれてはいなかった。けれど、それこそがインフォームドの意思表示だった。名もない、一種の狂気の墓。既に跡形もなく消え去ってしまった狂気の王子の墓だった。
アレクシードが、インフォームドの肩を叩いた。彼にとっては、インフォームドがこうして戻ってきてくれた事が喜びだった。昔と変わりなく笑う、朗らかな従弟がいる事だけが。そしてインフォームドにとっても、昔と全く同じように、優しく微笑むアレクシードがいてくれる事が喜びだった。
互いに本名を捧げたのは、まだ幼い子供の頃だった。おそらくは、その頃から無意識に知っていたのだろう。将来、お互いが無二の相棒になると言う事が。いずれ王になるインフォームドと、宰相になると言われているアレクシード。2人の絆は、切れる事はなかった。
アレクシードが辺境に追いやられていた3年間。その間も2人の絆は変わらなかった。表面上インフォームドの思いは現れなかった。それでも、その奥にある嘆きをアレクシードはしっていた。アレクシードだけが、知っていたのだ。
「昨日、俺は死んだ。」
「インフォームド。」
「だから俺は、今度は、何があっても生き延びる。多くの生命を奪ってきた。多くのヒトを不幸にしてきた。その分も、俺は生きて、生き抜いて、少しでもより良い国を造る。」
「そうだな。俺にできる事なら、手伝おう。」
「手伝って貰うさ。近々宰相代理になって貰うからな。」
「……は?」
流石に、従弟の発言内容が解らなかったアレクシードである。そんなアレクシードに向けて、インフォームドはニッコリと笑った。その笑顔の意味を、アレクシードは知っている。悪戯を思いついた時の顔である。何を考えていると、半眼になりながら彼は従弟を見た。
「現在の宰相が少し病を得たらしい。自宅療養したいと言ってきたんだ。それで、代理に誰を据えるかと父上が聞かれたから、お前が良いと進言しておいた。」
「待て待て待て!!!」
「何がだ?どうせ、将来的にはお前が宰相だろう?」
「そういう問題じゃないだろうが!」
「どこら辺が?」
「………………。忘れてた。お前は、時々、物凄く無茶をするんだ。」
がっくりと肩を落としたアレクシードを見て、インフォームドは首を傾げた。彼はただ、この従兄を信頼しているだけだ。難しい宰相職だろうが、こなせるだけの腕前があると。だから進言したのだと、無邪気に言う。そんなインフォームドを見て、アレクシードは苦笑した。
それでも、喜びだった。昔と変わらず、こんな遣り取りができる事が。何も考えずにいた子供の頃と同じように、言葉をかわせる事が。ひどく、幸福だと解っていた。
「そろそろ戻るか?風が出てきた。」
「解った。」
ゆっくりと立ち去っていく従兄の後ろ姿を、インフォームドは見送った。そして、そっと、墓石に手を触れる。この下に眠っているのは、彼がヒトを切り続けた剣だ。その剣と共に、狂気の王子を眠らせた。二度と目覚めてくれるなと、密かな願いを込めて。
さようなら。哀しむ事しか知らなかった、狂気の王子。壊す事でしか全てを表せなかった王子。温もりに怯えながら、何処かでそれを求めていた狂気の王子。救われる道を求めながら、何もできなかった王子。
だから彼は、さようならと、小さく告げる。




