私の背負ったモノ(ミリディアナとレディーレナ)
それは彼の人の罪でありながら、彼女の罪でもあった。
「お久しぶりね、ミリー。」
「えぇ、久しぶりだわ、レディ・・・。」
おっとりと微笑む緑の王国王女レディーレナを見て、ミリディアナは苦笑を浮かべた。長年の親友であるこの王女は、何処までを知っているのか解らない。そして、いつでも、全てを受け止めてくれる。苦しい時に、思わず逃げ出してしまう程に。
「何があったの?」
「・・・駄目ね、レディ。私、姉失格だわ。」
「・・・フォム王子の事?また、何かあったの?」
「あの子、もう駄目かもしれないわ。感情が、あの子にはないのよ。いいえ、感情はあるのだろうけれど、罪悪感が感じられない・・・ッ。人を、何人も、自らの手で、殺めたというのに・・・・・ッ!!!」
「・・・・ミリー。」
そっと、レディーレナはミリディアナの肩を抱いた。常は気丈な白の王女が、泣いている。只一人だけの弟を思って、泣いているのだ。3年程前から変貌し始めた彼女の弟は、もうとまらない。誰の声も、彼には届かなかった。
それでも、ミリディアナは思うのだ。 彼の罪は全て、自分が背負わねばならない罪だと。彼を止める事も救う事もできない自分だからこそ、背負うべき罪。そう、思っているのだ。
レディーレナは知っている。かつて、数年とはいえこの地に留学していた、ミリディアナの従弟を。直向きな目をした、真っ直ぐな気性の、青年だった。彼ですら救えないのだろうかと、彼女は思う。彼ならば、インフォームドという名の白の王子を、救えるような気がしていたのに。
「ミリー、諦めては駄目よ?未来はまだ、決まっていないのだから。」
「レディ・・・。」
「貴方は一人ではなくってよ?彼がまだ、いてくれるでしょう?」
「・・・えぇ、えぇ、そうよ。私と同じ罪を背負ってくれている、彼がいる。けれど、レディ。私は、これ以上彼に罪を背負って欲しくないの。」
「それでも、アレク殿下は罪を背負う事を自らに課されるわ。貴方と同じように。」
「・・・そう、ね。」
誰に言われなくても、ミリディアナには解っていた。そして、それが彼女達にできる唯一の事なのだ。哀しむ事を忘れたインフォームドの代わりに、痛みを抱える事。そうする事で、彼の罪を共に背負い続けようと願う。いつの日か、彼が戻ってくる時まで。
ゆっくりと、ミリディアナは顔を上げた。その顔は、もう、気高い白の王女のモノだ。迷いを捨て去った笑みを浮かべて、彼女はレディーレナを見詰めた。ありがとうと、微笑みを残す。
「もう戻るわね。また、遊びに来るわ。」
「えぇ、そうね。今度はゆっくりいらっしゃい。」
「そうするわ。」
微笑みと共に踵を返したミリディアナを、レディーレナはしばらく見詰めていた。




