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宝石の子供達  作者: 港瀬つかさ
白の王国関連

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叶わない願いを(アレクシードとインフォームド)

 この願いは叶わない。たとえ何があっても、叶わない。望めば望むほど、苦しみは増すと知っていた。願っても叶わないと知っていながら、願う。ただ一人の存在に、心の何処かで希う。



 助けて、と…………。



「……な、んだ?」

「どうかなさいましたか、アレク様?」

「あ、いや……。何か、誰かに呼ばれたような気が、したんだが…………。」

「誰も呼んでおりませんよ?」

「そう、だよな……。」


 今年で17歳になる白の国王の甥は、不思議そうに首を傾げた。ふわりと結わえた髪が揺れるのさえ気にせずに、眉間に皺を刻んでいる。アレクシードという名の少年は、何故か、ひどく胸騒ぎがした気がした。確かに、誰かに呼ばれた気がした。誰かが自分を呼んで、そして何かを願ったように思えたのだ。ただの錯覚ですませるには、明確すぎる強さを持って。

 一つの予感に誘われて、アレクシードは呆然とした。それはあり得ない事だ。彼は今、ここ緑の王国に留学している。彼が脳裏に描いた相手は、本国である白の王国にいるはずだ。それなのに何故、ここまで彼だという確信ができてしまうのか。


「意識遭わせの間を借りてきてくれ。」

「殿下?」

「急いでくれ、頼む。」

「御意。」


 踵を返して立ち去っていく従者を見送って、アレクシードは爪をかんだ。いらいらと、何故か心がざわめく。何かがひどく引っかかり、彼の心を乱していく。どうしてと、問いかけたくなるほどに。

 しばらくして従者が戻り、アレクシードはさっと意識遭わせの間へ向かう。早い話が水晶や鏡という媒介を通して、本来ならば届かない相手と言葉を交わすための部屋である。それを扱うにはそれなりの技量が必要になるが、アレクシードならば平気である。滅多にこういった職権乱用をしないアレクシードに、従者は首を傾げている。

 水鏡の前にたったアレクシードは、意識を集中させる。淡い光が彼の全身を包み、従者が思わず息を呑んだ。水鏡の向こうにいる筈の白の王国の兵士が、驚いたようにアレクシードを見ていた。向こう側でも同じ事が起こっているのだろう。今更そんな事で驚く必要はないので、アレクシードは用件を伝える。


「インフォームドはいるか?できれば、すぐに呼んでほしい。」

「フォム王子ですか?承知しました。」


 兵士が立ち去り、しばらくしてインフォームドが姿を現した。どうしたのと首を傾げて笑う、2歳年下の従弟の姿。いつもと全く同じであるという筈の笑顔に、アレクシードは引っかかるモノを感じた。何かが、確かに異なっている。


「インフォームド、何か変わった事でもあったか?」

「ないよ。アレクシードこそ、どうかしたの?」

「どうかしたというか、何かちょっと、な……。」

「疲れてるんじゃないの?無理しちゃだめだよ。」

「インフォームド、本当に、何もないのか?」

「ないよ。どうして?」


 わずかばかりのいらだちを隠しきれないように、声が少し荒い。そのことに気づいて、アレクシードは呆然とした。インフォームドは、こんな些細な事で怒りをあらわにする少年ではない。何かが、確かに異なっていた。


「僕、剣術の稽古があるから、またね。」

「ま、待ってくれ、インフォームド!」

「また、今度ね。」


 にっこりと笑って姿を消したインフォームド。その残像をつかむかのように、アレクシードは水鏡を叩いた。何かが、確かに異なり始めている。それを彼は、知ってしまった。そして、自分が何もできないと言う事を。

 水鏡の向こうで、インフォームドが泣きそうな顔をしていた。従者を下がらせているから、誰もいない。縋り付くように、水鏡を叩いた。嗚咽がこぼれるのを、彼は止める事ができなかった。



 助けてと縋るように思いながら、彼はそれが叶わない事だと知っていた…………。

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