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漆黒のファースト ~First of The black onyx~  作者: うーCHAN
第2章 二日目 <午前>
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007

一張羅の行方

 次の日の朝、と言うか夜が白む頃、メイドが朝食を持って来てくれた。

 ふわふわした巻き髪が肩まである、色白の可愛らしい女性だった。

 目線が同じくらいなので、身長も変わらないと見える。


 ちょっと目の下に隈があって疲れている様子ではあるが、人手不足で一晩中動き回っていたからだろう。

 ついでに、タスクの洋服は洗濯中だそうで、夕方には返却できると連絡も受けた。

 それまでの間は、アールの洋服で賄うように。とも言われ、夜用の着替えも預かった。

「ありがとう。…あのさ、フィオナお嬢さんはどんな容態?」

 朝食の入ったトレーを受け取りながら、タスクは尋ねる。


 メイドはタスクを見つめて、ちょっと微笑んでから答えた。

 夕べの事を思い出すような目になると、微笑みはすぐかき消され、哀しみの表情へと複雑に変化する。

「…夕べは眠ると怖い夢でも見るのか、混濁して何度も悲鳴をあげて泣いていらしたわ。ジュード様が一晩中抱き上げて寝かしつけて、トール様もご一緒に添い寝していらしたみたい。今はベッドでお休みになっているから、少しは落ち着いたのでは無いかしら。」


「…そっか。じゃ、まだ話せる状態じゃ無いな。」

「お嬢様がお話できるようになったら、教えて差し上げましょうか?」

「忙しいだろうけど頼める?俺、タスク。当分ここにいるらしいんで。」

「私はメリー=フィッシャー。フィオナお嬢様の専属メイドなの。」


 クルセウス家がここを統治するようになってから、ずっとお世話になっていると言う。

 ちょっとした名のある家の娘は、行儀見習いとして貴族の屋敷に奉公に出される事があるらしい。

商家の娘であるメリー=フィッシャーも、どうやらその類なのだろう。


 それから。と思い出したようにメリーは口を開いた。

「夕べはごめんなさいね。私達悪気は無いのよ。」

 そう言って悪戯っぽく笑う。

 目の下の隈がちょっと痛々しいが、豊かな表情でとても明るい。

 屋敷内ではムードメーカーの一人なのかも知れない。


 しかしタスクの顔は冴えない。

「…あんたも夕べ俺を洗ったのね。」

 大人数でひん剥かれた初体験を思い出したからである。

 不快な気持ちを露にするタスクに、さも、おかしそうにメリーが言った。


「私はお嬢様についていたから、残念ながら参加できなかったの。侍従長のご命令は絶対だから仕方ないのよ。失礼だけどあなた滅茶苦茶汚かったって話よ。ちょっとタオルで拭くつもりが汚れが落ちなくて、止むを得ずお湯を使ったとか、石鹸が真っ黒になったとか、何度洗っても黒い水ばかり出たとか、やっと泡立ったと思ったら黒い泡がたくさん出たって皆言ってたわ。」

「だからモップとか持って来た奴がいたのか・・・。」

 モップを持って追い掛け回す数人のメイドを思い出し、舌打ちするタスク。


「お食事の時間が迫っていたから、人海戦術で早く洗いたかったみたいね。悪気は無かったと思うのよ?」

 メリーはメイド仲間をフォローする。


 そしてまだ気が晴れない様子のタスクを見て、笑顔で一つため息をつくと

「滞在する限り、ご自分の身体はご自分で、念入りに小まめに洗うことをお勧めするわ。あ、そうそう。朝食が終わったら、部屋の外にトレーを出して置いてね。それと今着ている服も脱いで部屋の外に出して。洗濯します。」

 メリーはあどけない笑顔を残して部屋を出た。


 はっきりものは言うが、しっかりしたお姉さんと言う感じで悪い印象では無い。

 年は20代前半位かと思ったが、疲れた顔のせいで老けて見えるだけで、20歳前なのかも知れない。

 足早にかけて行く足音が響いたのを聞いて、呼び止めて悪かったかな。とも思いつつ、部屋の端の机に朝食の入ったトレーを置いた。

 食事を始めつつ、タスクは大きなため息をつく。

「毎日着替えるのかよ・・・」


 アールには夕食後から夜が白むまで事件の詳細を聴取された。

つまりほぼ寝ていないのであるが。

 事情聴取はタスクが切ったモンスターの髪の毛の本数まで質問された気がする。

 アールが何か語りかけ、タスクからの返事が出来なくなって、初めて事情聴取は終わりを告げた。

 騎士団長殿は仕事熱心である。


 あくびをしつつ用意された着替えを終えて、腰帯に剣を挿そうとすると、洋服と一緒に上等な皮のブーツと、革ベルトまでも置いてある事に気づく。

 自分専用のブーツがあるので、新しいブーツには見向きもしなかったが、革ベルトには、興味津々で端っこをつまんで持ち上げたまま、じっくり眺めた。

 真っ直ぐ床まで伸びたベルトは、しっかりした牛革製で、剣を設置できるような金具が着いている。

 至れり尽くせりだ。


 腰帯に適当に剣を挿せば、アールの服が傷むかも知れないし、その為の配慮なのかも知れないと思い、タスクは革ベルトを巻き、その上から帯刀する。

「おお。悪くないね。」

 自身の腰を左右前後見渡し、満足気に頷く。

 ベルトがしっかりしている方が、身体を動かしやすい事に今更気付いたのだ。


「お気に召して頂けたようで。」

 一人ファッションショーをしている最中に、声がかかる。

 アールがドア越しに立っていたのである。

「ノックしろよ。」

 タスクが睨みつけると、失礼した。と謝りながら、もたれたドアにコンコンとノックして見せる。

「…」

「出掛けるぞ。急ぎたまえ。」

 踵を返して足早に出て行くアールの後を、タスクは追いかけた。


 ブツブツ文句を言いながら。

潤いが欲しくて、女の子導入しました。

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