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005

坊ちゃんの剣術指南役

 トールの態度が多少気になったものの、まあ食事にありつけるのなら何でも良いかと思うことにしたタスクは、テーブルの上に食べきれないほどの食事が並べられるのを眺める。


 大きくて分厚いローストビーフや、野菜と一緒に盛り付けられた魚の香草料理、透き通って底まで見えるスープ、柔らかそうなパン、野菜サラダ、デザートに至るまで美しく皿に盛り付けたご馳走達が美術品の如く並べられている。


 そしてナイフやスプーンも沢山並べられたので

「これと、これと…これ。」

 と選んで、後は運んで来た給仕係りにナプキンで包んで返した。


 それを見てトールが何とも言い難い表情を浮かべ、ジュードとアールを見たものの、二人は一瞥だけ入れたのみで何事も無かったように澄ましているので、少年も口を閉ざした。


 執事から食前酒を注いでもらいつつ、ジュードが口を開いた。

「騎士団員3名と、兵士が10名。乳母1人。侍従5人。」

「今回の事件の犠牲者だ。」

 タスクの隣にいるアールが補足する。

 それを聞いてジュードが頷き、続けた。

「君が1人で倒した。引き止める理由には十分だろう?」

 領主様は、にっと口角を上げて貫禄ある笑みを浮かべる。

 宜しいので?と言う質問の答えを時間差で貰ったようだ。

「背後からの攻撃でも?」

 そう言ってタスクはグラスを持ち上げ、自分にも食前酒をよこすよう無言のアピールをする。


 グラスを持ちながら、モンスターの目の前に居たら、同じように攻撃できたかどうか解らないとタスクは考えていた。

 勿論モンスターが後ろを見せている今がチャンスだと判断してのこと、卑怯だとは微塵も感じていない。

 少女を救出する事が第一の目的だった以上、当たり前のことだ。

 あのままモンスターが滅んでくれたならもっと良いのだが。


 ジュードはそんなタスクの思いを知ってか知らずか、機嫌よく彼を褒め称えてくれた。

「ご謙遜を。巨大なモンスターを一刀両断。子供に出来る手業じゃない。まぁ事件が落ち着くまではアールも離しはしないだろうし、ゆっくりお付き合い頂こう。」

 タスクのグラスに食前酒が注がれたのを確認してから、ジュードは自分のグラスを持ち上げた。

 食事開始の合図とでも言うように。


 隣に座るアールが、タスクの耳元まで近づき小声で囁いた。


「モンスターはまだ生きている可能性があるんだろう?」


 その可能性が消えるまでは滞在しろ。

 と暗に言われた気がした。


 タスクとしてはタダ飯にありつけるので、何の問題も無い。

「そうそう。ついでに内のお嬢様のお守りも頼もう。6歳にもなるとちょこまかと良く動く。当面のボディガードだな。」

 思いついたように取って付けるジュード。

「人使い荒くないか?」

「働かざるもの食うべからずだ。」

 食事中の会話はこれで終わった。


「何処で行儀作法を習ったんだ?」

 アールはタスクの部屋を案内しながら綺麗な食べ方だったと褒めた。

 正直、給仕係にナイフやフォークを返した時点で、行儀作法については期待せずにいようと思っていたアールは、タスクの丁寧な食事ぶりに感心していた。


 返却したナイフもわざわざ指紋がつかないように、ナプキンごしに返却していた。

 それが礼儀通りかは置いておいて、洗わずに済むようにとのタスクなりの配慮が、可愛げのようなものを感じさせていた。


 長い廊下には落ち着いた色の絨毯が、途切れること無くずっと奥まで広がっている。

 食事を終えたジュードは、タスクに部屋を与えるようにアールに申し付けた。


 長い廊下をアールに着いて歩きながら、タスクは先程ご相伴に預かったワインの味を舌で反芻しつつ回答する。

 食前酒はともかく、ワインとなるとアールが横から取り上げたので一口しか堪能できなかったのが残念だ。


「ナイフとフォークの使い方、食事中は喋らない、口を開いて咀嚼しない、1口ずつ飲み込んでから次の1口に手をつける、ゲップしない、これ位だが、育ての親に教わった。こないだ死んだけど。」

「それは・・・すまない。」

「何処にでもある話だろ?」


 アールの申し訳無さそうな態度に対して、タスクは全く気にした様子が無く、淡々としている。

 それはどこの地域に行っても、タスクのような子供はそこら中にいる証とも言えた。

「地域によっては戦乱も激しいから、親のいない子供は珍しくは無い。しかし、よく1人旅なんか出来ると思うよ。」


 街を離れれば野盗も出る。

 森林や山中は、モンスターの住処で、その隙間に野生の動物がひっそりと暮らしている。本来タスクが普通の子供だったなら、あっと言う間に盗賊に襲われ身包み剥がされ、死体は森に捨てられて、モンスターが片付けてしまう所だろう。


 郊外は別種の食物連鎖のようなものが出来上がっている。

 弱い者は死ぬか、徒党を組むしか生きていけないのだ。

 いくら強くても、子供1人でよくウロウロできるものだと感心する。


「育ての親が自分がいつ死んでもいいようにって、狩の仕方とか、言語、文字、剣の使い方を一通り教わった。お陰様ってのと、ラッキーも重なって、とりあえず死なずに済んでる。」

「そうか。生きて実践できているのは素晴らしいが…いつまでも一人は難しいんじゃないのか?」


 そう言いながら

「ああ、この部屋だ。」

と、アールは扉の前で立ち止まった。

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